へんな生きもの
危機である。
やることがあり過ぎて、首が回らぬ。
完全にスケジュールが崩壊している。
朝起きてから眠るまで、
ずっと全速力で(ライフゲームに
おける「グライダー」の速度で)
やったとしても、
終わらない。
電車に乗りながら、野澤真一の
実験について考えた。
タクシーの中から「こうしたら」と電話する。
高川華瑠奈の実験についても
考えて、電話しようと思ったが、
うまく通じなかった。
『プロフェッショナル 仕事の流儀』
の収録のゲストは、漫画編集者・原作者の
長崎尚志さん。
浦沢直樹さんとのコンビがあまりにも
有名。創造するということに向き合う
その姿勢は、ずしんと心に響く
ものがあった。
スタジオに入ると、チーフプロデューサーの
有吉伸人さんがニコニコしながら
「コメント直しが2時30分からだった
んですよ」
と言う。
「午後」ではなくて、「午前」という
意味である。
「ひえー。家に帰れたんですか?」
「帰って、お風呂に入りましたよ。」
「眠れたんですか?」
「少し眠って、それから来たという
感じですね。」
午前10時30分の会話である。
「最近は、あまりにも多くのことが
あり過ぎて、ボクの脳みそのキャパを
超えているんで、わかりませんと
ニコニコ笑っていると、ああ、この人は
大変なんだと思って話がとまる、
そうしているんです。」
有吉さん、おもしろかわいそうである。
いつもより早いお昼休み。
NHK出版の大場旦がずしんずしんと
歩いてきた。
「茂木さん、どうなっているんですか」
「ですから、どうしょうもないんですよ」
「最近、胃が痛いんですよ。」
「ボクのせいですか」
「いや、茂木さんだけでなくて、他にも
原稿が来ない人がいるんですけどね。」
NHKの中の食堂は、11時30分から
しか開かない。
二人で、第一食堂のテーブルに座って、
食券販売機が作動するのを待った。
「いやあ、ご飯を食べるのに、こんなに
熱心に待ったのは久しぶりだなあ。」
にぎり寿司とサラダを食べたら、
身体の中にビタミンがたくさん入って
いくような、そんな気がした。
オオバタンさんも、ビタミンを
とったから、元気になったでしょ。
慶応大学の日吉キャンパスへ。
研究室博士課程の
柳川透のお父様である
柳川弘志教授とお話する。
「RNAの研究というのは、
タンパク質合成だとか、リボザイムだとか、
RNA干渉とか、何かがブレイクすると
ぱーっと進むんですよ。
デジタルだから、わかってしまうと
進むのが早い。」
60分講演、質疑応答。
たくさんの学生と握手したり、
話したりした。
大学が用意してくださった車で
仕事をしながら西麻布へ。
長崎尚志さんを囲んでの打ち上げ。
長崎さんと住吉美紀さんへの
光の当たり方が良かったので
写真をとると、ゲージツみたいに
なった。
長崎尚志さんと住吉美紀さん
勘のいいすみきちが顔を
照明の下に突き出すと、
ふわっと浮かび上がった。
すみきちの顔が浮かび上がる。
そう言えば、こんな雰囲気の写真が
あったなあと、プロフェッショナル班の
合宿のことを思い出した。
「住吉さんが、合宿の時、へんな生きもの
になったんですよ。」
と言うと、長崎さんが顔を輝かせて
「飲み会の時、生きものになる人と
人間になる人がいますよね。ぼくは、
生きものになる人は好きです!」
と言われる。
その「生きもの写真」を見せた。
すみきちが、「ああ、これ、茂木さんが
ブログで目だけ公開したやつでしょ」
という。
「ええ、この生きものの全体を公開するのが
はばかられたので。」
「公開していいですよ。公開してください!」
「えっ、いいんですか、住吉さん」
「いいですよ!」
というわけで、すみきちが変身した
へんな生きものを公開する。
へんな生きもの
これは、すみきちがカメラを自分に
向けて撮影したのである。
おそるべし、すみきち。
担当のディレクターは、石田涼太郎さん。
芸名のようだが本名なのである。
何でも、「涼しい日」に生まれたから
だという。
しかも長男ではなく、最初は「涼次郎」
にしようと思ったが、「やっぱり太郎がいい」
となったそうである。
あまり眠っていなくても元気な有吉さん。
でも、たまにはゆっくり眠ってくださいね。
打ち上げ、行くの無理かな、
と思っていたのだが、
そんなことを言うと
有吉さんがスタジオの中で
「茂木さん、来ないんですかあ」
とへんな生きものになった。
その雰囲気に感染して、ぼくは
参上したのである。
住吉美紀、有吉伸人、石田涼太郎の各氏。
石田涼太郎さんと。
それでも限界が来て、
ぼくは先に失礼する。
仕事をしながら帰っていたら、
いつの間にか眠っていた。
帰宅して一つ仕事を終わらせ、
それから眠る。
Society for Neuroscienceに
出発する前に、果たして全部終わるのだろうか。
仕事に集中すると、時間の流れは消える。
その時私の中にへんな生きものは現れる。
そいつが、軟体動物のようにクネクネして
仕事を終わらせてくれる。
へんな生きもの、万歳。
10月 31, 2007 at 05:35 午前 | Permalink
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お題:プロフェッショナルの道具と なり をめぐって 秋ですな 秋晴れのいいお天気 [続きを読む]
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で、お題は「プロフェッショナルの道具と なり をめぐって」なんですけど・・ そう [続きを読む]
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今月27日から11月9日まで読書習慣になっている。
読売新聞社の調査によると、
1ヶ月間で本を1冊も読まない人が5割を超えるという。
その上、歳を重ねるごとに
本を読まない傾向になっているらしい。
詳しいデータは読売オンラインで
毎日何時間もかけて電車通....... [続きを読む]
受信: 2007/10/31 21:29:27
» 日本語と若者 トラックバック Progress
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[parts:eNoztDJkhAMmYzOm5OTERNOkVAsAINMD0A==]
生徒の会話のひとコマ…。
「これ、あげる」
「アザース!!」
「アザース」って???…実はこれ、「ありがとう」という言葉を言い換えた、今の
若い子どもたちが遣っている言葉なんです。
最近、いろいろな言葉が飛び交うようになり... [続きを読む]
受信: 2007/11/01 5:33:35
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コメント
茂木先生が10月21日の下関の講演で、11月3日に新宿で夏目漱石のシンポジウムがある、とおっしゃいましたので、ネットで調べましたが見つからず残念に思っておりました。
日にちを聞き間違えたようです。
投稿: 桜美智子 | 2007/11/01 22:54:15
脳ミソの表面張力が。^
>>
ぷるるんとしたゼリーのようなキワメテ弾力的な、その「へんな生きもの」が蠢き出すのは「脳がキャパを超えて」表面張力のもとにある時なのかもなあ~と「住吉美紀さんの芸風」や「有吉伸び太プロ」(笑)の酩酊状態を垣間見て・・確信いたしました。
とても説得力のある記事でございました。
投稿: 風のモバイラー&野村和生 from nomgroove.com | 2007/11/01 9:00:49
こんにちわ
茂木さんが、ドーパミンの放出で強化学習されると言われていましたが、
ドーパミン、 知的好奇心が満足したときの強化学習
セロトニン、 自信感や安心感を得たときの強化学習
ノルアドレナリン 勝負心で、満足したときの強化学習
と、個人的に考えました。
すると、将棋や囲碁のタイトル選で優勝して賞金をもらった時、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンが、すべて出るような気がします。
ちなみに、ノーベル賞はドーパミン系とセロトニン系かな?(^^)
投稿: tain&片上泰助 | 2007/11/01 3:45:23
私は、何の根拠もなくアインシュタインの閉ざされた宇宙を信じています。 ペレルマン博士のポワンカレ予想の証明は、閉ざされた宇宙の証明でもあるのではないのですか?
投稿: s.matsui | 2007/11/01 2:11:53
私のご尊敬申し上げる茂木先生へ
まあ、お可哀想に!
そんなにたくさんの仕事を抱えておられるとは・・・。出来ることなら何かお手伝い差し上げたいところですが、私のような菲才な者には無理ですね。
「グライダー」の速度がどのくらい速いのかは分かりませんが、先生は余りにも頑張り過ぎではないでしょうか?僭越ながら、もう少しお仕事をセーブなさった方がよろしいかと存じます。そんなに無理をなさっては本当にお身体を壊されますよ。
もし先生のお身体に何かあったら先生のご家族はもちろんのこと、先生を慈しんで育ててこられたお母様やお父様がどんなに嘆かれることか・・・。
私が常日頃思う最大の親不孝は、少々言葉が過ぎるかもしれませんが「親より先に逝くこと」だと思っております。自分の親にこの世でいちばん耐え難い非情な悲しみを与えてはなりません。
今のような仕事のペースでは先生のお身体にいつどんな異変があってもおかしくありません。
ブログに書き込まれている先生の食生活を拝見いたしますと、豚肉を偏食され、天丼やカレーライスといった少々重たい食べ物を好まれるようですね。差し出がましいようですが、先生はもう少し炭水化物を減らされ、反対に野菜類をもっと増やされた方がよろしいかと・・・。
余計なことをあれこれと申し上げて本当申し訳ござませんが、茂木先生のような偉大な日本人科学者のご健康を案じての苦言とどうぞお聞き届けくださいませ。
投稿: K.M | 2007/11/01 1:04:31
はじままして。
懐かしい有吉君の顔を発見したので思わず書き込ませていただきます。
有吉君は、高校の同級生です。オーロラ取材に行って眠り込んだと同窓会報に書いてたくらいだから、睡眠に関しては問題ないと思いますよ。
投稿: 石井 | 2007/11/01 0:25:53
この日も沢山のお仕事に追われ、そして今夜は布施英利さんとアップルストアでTalk dictionary…。
茂木さん…あまりのハードなスケジュール、本当にお気持ち、お察し致します。倒れられないかと、本当に心配です。
毎度ながら、決してお身体を壊されませぬよう、何卒お気をつけてくださいませ。
写真現像の暗室の中のような赤黒い空間に、すみきちさんのお顔が浮かんでいる、“ゲージツ”的なお写真、大変不思議なムードが漂っていて、とても面白いですね。
へんないきもの…人は切羽詰っていると、心の中から“へんないきもの”がもぞもぞうごめき出して、行き詰まっているものごとをスムースに進めてくれたりするのだろう。
投稿: 銀鏡反応 | 2007/10/31 21:03:19
こんにちわ
文字をじっと見ていると起こる。「タシュゲルト崩壊」
じっとしていると起こる。「スケジュール崩壊」
いっぱい働いていても起こる「完全スケジュール崩壊」
有吉さんがお酒を飲むと、「カメラを食べようとするへんな生きもの」
私がお酒を飲むと、「どこでも寝る、へんな生きもの」になります。(^^)
投稿: tain&片上泰助 | 2007/10/31 13:14:45
過集中してしまうと、寝食を忘れて没頭出来るんですよね。
まさに時間の流れは、止まる。
それで全く辛さは無く、むしろ心地よかったりしませんか〜。
はたと現実に戻ると…さっきまでの楽しかった時間が終わってしまった事に、ちょっと寂しくなったり(苦笑)
へんな生き物とは、褒め言葉ですね♪
投稿: ゆき | 2007/10/31 11:03:59
はじめまして 昨日の慶應での講義を聴いたものです。
茂木さんの講義を初めて聴きましたが、本当に興奮の1時間半でした!クオリアの本を読んだときは難しいと感じたんですが、本のプロローグで表れているような感性を肌で感じたような...一晩経っても色々と反芻してます。会場全体がへんな生き物になったみたいでしたね。帰ってプロフェッショナルも観ました。
エキサイティングな体験をありがとうございました。
投稿: 一聴講者 | 2007/10/31 8:13:56