胡桃の殻が擦れ合うように
養老孟司さんは、
「仕事というものは、世間に空いている
穴を埋めるものだ」
という。
とりわけ、
自我が肥大しがちな青年時代において、
養老先生の言葉は大切な
メッセージを含んでいる。
一方、何でも世間に合わせて
がんばっていると消耗する。
自分が好きなこと、惹かれること、
大切なことをできるならば、
より良質のものを生み出し、
世間に差し出せる可能性がある。
半ば自分のために、半ば
他者のために。
つまりは、自分と社会が、
ラブ・アフェアーの状態に
あることが望ましい。
別の言い方をすれば
スケールの問題なのであって、
自分にとって本当にエッセンシャルな
ことは、世間に大手を振って
流通していることではなく、
心の中に、まるで胡桃の殻が
擦れ合うようにかすかな音を
響かせているものにこそ
耳を傾けるべきなのだ。
そして、自分自身という
楽器が、世に向けての胡桃の
拡声装置となれば良い。
埴谷雄高さんの『不合理ゆえに吾信ず』
のあとがき「遠くからの返事」の
中に、
この主題は自己の姿の危険な全体を露呈
しているより、僅かな先端部のみを覗かせた
まま地中に潜って、その潜伏期の数百年
のあいだに自己の起爆装置の精密度を
なんとか鋭くとぎすましたいとひたすら
心かげているかのごとくです
とあるように、胡桃の音は時に
数百年かけて拡声される。
自分自身の生というかけがえの
ないはずのものさえ超えて。
「科学大好き土よう塾」の
収録。
土よう塾クイズスペシャル
からだのふしぎ1、2。
前回放送したクイズスペシャルは
好評で、今年度の最高視聴率を
得たとのことだった。
中山エミリさんが私やナポレオンズさんと
ともにプレゼンター側に回り、
塾長の室山哲也さんが司会をする
という新しい試み。
室山さんが、「いやあ、仕切るのは
タイヘンだねえ。エミリちゃんの偉大さが
わかったよ」としきりにぼやく。
それでも、見事にこなすところは
さすが室山さん。
水本凜ちゃん、神田舞帆さん、
松田尚樹くんの三人はいつもながら
に元気で、控えの時間もいつも
何かやっている。
カメラリハーサルの時には、
クイズのネタがばれないように、
三人の役はディレクターの人たちが
代演した。
室山哲也塾長を交えてリハーサル。
ナポレオンズの二人の掛け合いは
音楽的で、いつどのようなリズムで
言葉を発するかということが
畢竟一つの「演奏」であることを
思い起こさせる。
ナポレオンズさんのリハーサル風景
中山エミリさんの軽やかな舞いとともに、
ジャム・セッションをやっているような
気分になった。
きっとその時、私たちの
中で無数の胡桃は
ふれあい、舞い動き、かすかな音を
立てていたに違いない。
科学大好き土よう塾
クイズスペシャル からだのふしぎ1、2は、
2007年10月20日(土)、
2007年10月27日(日)
に放送予定。
10月 7, 2007 at 06:47 午前 | Permalink
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 胡桃の殻が擦れ合うように:
» これが長井健司さんへの弔いの気持ちになる トラックバック 不学問のススメ
以前ジャーナリストである長井健司さんが
ミャンマーにて殺害されました。
あの映像は本当にひどく憤りしか感じません。
このことに対する怒り、嘆きをミャンマー政府にぶつけるために
現在行われている【長井健司さん殺害に対する抗議】についての
記事を掲載したいと....... [続きを読む]
受信: 2007/10/07 14:29:29
» 連休に思うこと。 トラックバック 銀鏡反応 パンドラの函
☆つれづれに思うこと。
☆世間にはゴロゴロといろんな物が沢山散らばっている。刺激に満ちた極彩色とノイズの洪水。衣・食・住の欲望を満たす為だけの雑然たる世界。こんなものばかりを見つめているうちに、嗚呼、静かなところへ逃げたい!と思うことが最近、しきりに多くなってきた。
☆もちろん、本当に静かなところへ逃げたとて、また世間の喧騒に満ちた生活の場にもどっていかなくてはならない。そうしているうちに、段々とおのれが疲弊していく…。
☆何とかして胸の中に詰まっている思いを、吐き出したい…といってもそのまま、吐き... [続きを読む]
受信: 2007/10/07 19:08:19
» Message トラックバック Tiptree's Zone
地球外知的生命とコンタクトをとったエリーナ・アロウェイは、少女時代に亡くした最愛の父テオドール・アロウェイとは血のつながりが無く、関係が全くうまくいかなかった義父のジョン・ストートンが本当の父であったことを、母との死別の際にジョンから手渡された、エリー....... [続きを読む]
受信: 2007/10/08 3:30:20
» もどかしいな、もう トラックバック 旅籠「風のモバイラー」
むむむ。やってくれたぜ。 やはりホームアドバンテージはあるのである。優勝候補最有 [続きを読む]
受信: 2007/10/08 3:42:06
» しあわせさん。こんぴらさん。:その3 トラックバック 坂口慶樹 心のひだ探検隊
これだけの感動で終わらないのが今回の展覧会 の凄いところである。 [続きを読む]
受信: 2007/10/09 8:32:08
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
茂木先生、その後メスグロヒョウモンを見つけられましたか?
きょう自宅近くの図書館の植え込みでヒョウモンチョウを見ました。用心深く辺りを伺うようにしながら、ゆったりと羽を広げたり、つぼめたりしている姿は本当に優雅で美しかったです。先生は以前、高尾山でメスグロヒョウモンに出合ったと書かれておられましたが、私にはヒョウモンの仲間はみな同じように見えます。その違いまで認識されておられるとはさすがですね。
実は私も昆虫やチョウが好きで、堤中納言物語に出てくる「虫めづる姫君」みたいと言われたこともあります。最初に茂木先生に関心を持ったのも、先生がチョウに魅せられておられ似たような体験をされていたからです。ただし、先生のようにチョウの採集はいたしませんでした。あんなに美しい生きとし生けるものの命を自分の手で奪うなんて到底できません。ひらひらと天上と地上を行ったり、来たり、儚げに舞う姿を見ているのが好きなのです。
と言いながら、実家の私の部屋にはチョウの標本が飾ってあります。母の知人で、ご夫婦で世界中を飛び回ってチョウやその卵を採集されておられる方がいて、その方からいただいたものです。その「蝶々夫妻」の家の1室はチョウの揺籃室になっていて、部屋中をひらひらと様々なチョウが舞っているそうです。
私がいただいた標本にはツマベニチョウ、アカエリトリバネアゲハ、アオタテハモドキ、コノハチョウ、ウラモジタテハ、ツマムラサキマダラ、アケボノアゲハ、ツマグロヒョウモン、オオゴマダラ、コロンブスアゲハ、世界一美麗蛾とされるウラニア・・・・あと名前がわからないチョウが5、6種飾ってあります。アカエリトリバネアゲハなど今ならワシントン条約に引っかかりますよね。恐らく、茂木先生はここに列挙したチョウをすべてご存じだと思いますが、個人的にいちばん好きなのはコロンブスアゲハです。レモン色のような透明感のある黄色に茶色の紋、うしろ羽が実にかわいらしく、まるでワルツを踊る可憐な少女のような姿をしています。
チョウについてのコメントならまだいろいろとありますが、本日はこの辺で。
投稿: K.M | 2007/10/07 23:41:55
“仕事とは何か”と言う主題や“劣等感が人を育てる”など茂木節全開と言った内容ですね。
僕は今日は2回落ちているインターネット検定の参考書を買ったり、甥っ子の誕生会の家族の集まりで、弟は行くことのできる従姉妹の結婚パーティーに自分は川崎での会議で行けないことを確認したりと、幸せながらも自分の劣等感を感じざるを得ない一日を送っていて、また茂木さんのブログに助けられた感じです。
また、コメントさせて頂きますのでなにとぞ宜しくお願いします。
投稿: Taira Ando | 2007/10/07 23:19:37
埴谷雄高もカントもドストエフスキーも
ひとたび社会に出てしまえば、役に立つどころか
無用の長物になってしまう現実が寂しいです。
そんなものより、今この時点で利益になる情報が
常に最優先されて日々過ぎてゆくのが悲しいです。
私の中の「無用の長物」たちがとぐろを巻かないように
ここを利用しているのかもしれません。
ごめんなさい。
今さら、こんな感傷的なコトを言ってしまうのも
「少女」っぽくてイヤですね(笑)。
「心の内なる倫理規則」は、自分の内側に
あるものではなく上から降ってくるものなのだと、
なんとなく思っていたことに気付きました。
ひとりひとりが神殿なのだと。
ずいぶん能天気ですね、私は。
高ぶったことを望まず、低いことに甘んじ、
自分を知者だと思うな。だれに対しても
悪に悪を返すな。
愛する者よ、自分で復讐するな、
かえって神の怒りにゆずれ。
こんな言葉は私の内面からは
一生かかっても出てこない。。。
燃える炭火を積むどころか、って感じです(笑)。
投稿: まり | 2007/10/07 22:09:22
>「仕事というものは、世間に空いている
> 穴を埋めるものだ」
これは、養老さんが「超バカの壁」でおっしゃっていた事ですね。
例えば道に穴が空いていたとする。そのままだとみんなが転んで困るからとりあえず埋めてみる。それが仕事だと。
ところが今は、穴を埋める事をしないで、地面の上に余計な山を作る事ばかり考えている。社会が必要としているかどうかという視点が無いと。
なんでしょうね、人生は選択する事、その結果だという考えが有るのかも知れませんね。だからもっといい、自分に合った仕事が有るんじゃないかと考える。
埋め続けているうちに、何か見つかるかもしれないのに、また、見つからなくてもそれはそれでかまわないのにね。
投稿: 大栗 勝 | 2007/10/07 20:19:49
こんにちわ。
「仕事というものは、世間に空いている穴を埋めるものだ」
養老孟司さんの言葉から、
「勉強というものは、自分に空いている穴を埋めるものだ」と、
勝手に思ったしだいです。
この養老孟司さんの、この言葉はすばらしいですね、この言葉は、自己完結している。
まるで、光を求めて、進化していく植物のように、商業も科学技術も進化していく、進化の森の中に私たちはいるのだな、と、思います(^^)。
投稿: tain&片上泰助 | 2007/10/07 15:20:43
「科学大好き土よう塾」は、ゲストの茂木さん(準レギュラーと言えるかもしれませんが)にリスペクトがはらわれている、そのスタジオの雰囲気が気に入っています。
出演者の皆さんが爽やかで、土曜の朝にぴったり!
いつまでもお人形さんのようにキュートな中山エミリさんは、近視なのでしょうか。大きな眼を細める仕草、ちょっとひょうきんで親しみを覚えます。
次回、皆さんがどのようなアンサンブルを聴かせてくださるのか楽しみです。
投稿: 高橋純子 | 2007/10/07 10:05:13
>自分が好きなこと、惹かれること、
大切なことをできるならば、
より良質のものを生み出し、
世間に差し出せる可能性がある。
そうなんですよね。
本当にそう思います。
阪神大震災前年の年に、はじめて「生涯学習」と言う
ものを知りました。
「これだ!」と思いました。
これをみんなが知ればどんなにステキな社会になるだろう~って。
平和の社会。
平等の世間。
差別のない社会。
知識によって知る多様な価値観。
好きなことをして生きる人生。
好きなものを亡くすことのない人生。
自分らしい人生と言うもの。
そう言う人生を送れる方法を教えて
くれた生涯学習という概念。
・・・・うーーー。
生涯学習の大切さや素晴らしさをつらつらと書いてしまいそうなので、
ここで止めておきます。
小学校からこの生涯学習と言うものを教えてほしいです。
もとい!ほしかったです。びえ~~ん
あ、生涯「楽」習の私は好きです。
投稿: あすか | 2007/10/07 7:54:22
きょうの日記は、まるで自分のような者への励ましのメッセージに思えて、何だか勇気が出ます。
半分は自分のために、もう半分は社会のために…。大切なのは、自分の心の中にのみ、かすかに響く様々な思い―「胡桃の殻の擦れ合う音」のように胸に響くささやかな思いに心の耳を傾けること、その音を自分という楽器を鳴らして世間に大きく響かせることだと…。
私の思いを言うと、どうも世間で出回っていること…例えばトレンドや時事などには比較的、興味が薄い。
それに私の場合、何でも世間に合わせるのが、生理的にいやな性分です。
それよりは自分の好きなこと、惹かれていること、のほうに興味があり、そこに入りこんでいることが圧倒的に多い。
入りこんでいる時、自分の中でいろいろな思いが交差し、かすかな音を立てているのを感じることがある。
しかし、毎日惰性に流されているのか、その音をおのれという拡声装置で大きくすることが、ままならない。
それでも、胸の中の胡桃の音はかすかに響き続けている…。
投稿: 銀鏡反応 | 2007/10/07 7:46:22