わかったこととわからないことの比率
人間の脳は、長く生きるほどさまざまな
体験が蓄積していき、
組み合わせを通しての
創造性の基礎となる
要素もふえていく。
しかし、世の中には、何でも
わかったような気になって
ツマラナクなる人も多い。
話していてつらいのは、
体験や知識が増えたことで、
自分はわかっていると思っている
人である。
人間の脳の特性である
「オープン・エンド性」
を維持するにはどうすれば良いのか。
研究の現場で感じていることが役に立つように
思われる。
よく、「脳の神秘は何%くらいわかっている
のか」と聞かれるが、
100あってそれを隅からつぶして
いくということではない。
「一つわかると十わからないことが
できる」
というのが実感である。
「わかっている率」は
研究の進行とともに逓減していくのでは
なく、つねに「わからないこと」
が切り開かれるので、
わかったこととわからないことの
比率は、いつもかわらない。
「わかる」という「ハンドル」
がつかなければ、そもそも
何がわからないかもわからない。
わかることは、わからないことの
水先案内人なのである。
人生について知れば知るほど、
わからないことも増えてくる。
ある人について見聞きするほど、
その人のことがわからないと
わかる。
一つ「わかる」の枝が伸びると、
そこから十の「わからない」の
枝が伸びる。
そのようなイメージで生きていれば、
脳のオープンエンド性を
いきいきと保つことができる。
新下関駅から菊川に向かう
のは美しい里山の中の道だった。
すすきが見える。
色付いた木々が通り過ぎる。
その中に家々が息づいている。
アブニールというホールで
「脳と人生」について話す。
たくさんの方がいらしてくださった。
終了後、地元の田中書店
さんが本を売ってくださったので、
サインをした。
一生懸命描いている
うちに、次第に日は西に傾いて
いく。
気が付いてみると、2時間が
経過していた。
百数十冊売れたという。
長い間お待たせして、すみません。
ありがとうございました。
販売してくださった
田中書店は、下関市豊田町にあるという。
以前、山口大学時間学研究所で
入不二基義さんたちと
研究会を開いた時、
ちょうどその季節だったので
豊田町を流れる木屋川を船で下って
ホタルを見た。
川を包む暗闇の中を
ほのかにやがてくっきりと
光が飛び交うあの時の体験は、
もはや動かし難い過去にあるようで
いて、
私の中でずっと
育ってきてくれている。
下関の港近い料理屋「味覚」。
今回のイベントを運営
してくださった下関市の
瞬報社の方々、ご紹介くださった
博多在住のデザイナー平松暁さんと
平松真由美さん、それに、
ライフセービングや航海カヌーのホクレア号
での活動で知られる荒木汰久治さん、
Jenaと宴を囲む。
解禁されたばかりという
トラフグを始め、料理に舌鼓を打っている
うちに、サプライズ。
バースデーケーキが運ばれてきた。
大きなろうそく4本と、
小さなろうそく5本が立てられている。
ゆらゆらと光るその
景色の中にすでに無限の変異がある。
今回の誕生日は、本当に多くの
方に祝っていただきました。
ありがとうございます。
人生を重ねて多くのことを
知るほどに、
わからないこと、謎のことも
また増える。
ホタルの光の向こうに
あるものに心が惑う。
10月 22, 2007 at 08:00 午前 | Permalink
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忙しいのだけれど、それが心地よい。
流れる時間にたくさんの彩りを感じる時というのは
実に味わい深いものがある。
*
いろいろな意味で今でも前進できているんだ…
ちょっとそんな事を感じて、そこはかとなく嬉しさを感じた日。
帰りがけに見た
美しい夕焼けを胸いっぱいに吸い込んでみる!
なにかの足音が聞こえてくる…
耳をすますと、
それは自分自身の足音なのかもしれないと思った。
もっともっと前進する!
... [続きを読む]
受信: 2007/10/23 8:58:06
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コメント
年齢を重ねるとわかったつもりに陥りやすいことは確かです。
例えばある分野に挑戦しはじめる若い時は、それこそドンキホーテ精神で突進するしかなく、いったい何が理解できていて、何が残されているかなどを反省する余地がない。いい意味でイキイキしている。そして、学会発表で立ち往生する、論文が書けないなどで、自分の限界を身にしみて知ってゆく。
多くの中高年には、残念ながら限界のみが刻印される。
若い時にだめだったので、いまさらはさらにだめだろう、静かに生きよう、と思ってしまう。
しかし、いまでこそやっと判ることもある。
若い時には、大事な定義の理解を省略して一連の操作が出来ることを理解と思っていたことが、今になって時間をかけて基本を理解することにより大きな勘違いであったことが判ったりする。
判るということがどういうことかが判ることに年齢は関係ないですね。いつでも比率は変えられる(今回は なんかクドイなあ)。
投稿: fructose | 2007/10/24 13:14:53
大人になってもわからないことだらけだなぁと思っていましたが、記事を読んでああそうか!と思いました。
知れば知るほど、新しい世界が拓けて、わからないことがたくさんでてくる。
わからないことが多くても別に恥ずかしく思わなくていいんだなぁ。
これから出会うわからない、知りたいことたちを思ってわくわくします。
投稿: すくすく | 2007/10/24 10:51:40
この間の公演は本当に為になる話ばかりでした。
自分は受験生だったので行くのは戸惑いましたが、めったにない機会なので行きました。
一応、理系志望なのですが
一度、科学の世界にかぶれたので茂木先生の話を聞くうちにまた科学の世界に参加したくなりました。
菊川は一見
のどかな町ですが、将来、川や地下水が飲めなくなるかもしれない問題をかかえています。
大量の廃棄物が各地から運び込まれて、一部の人が得をしているようです。
下関市にはのどかな町がある、と1つきがつくとしても、裏には膨大に分からない事がでてくるんですね。
初めから知らなければ、分からない事だって出てこないんですけどね。
脳は勉強したがってるんですかね。
またホタルの季節にでもいらして下さい。
投稿: メガーヌ(・∀・) | 2007/10/24 0:10:12
ホタルの光の向こうにある過去の暗闇からは
何か見つかりましたか?
私には「茂木さん」が謎です!
その時々で書かれた文章も
実際に目の前でお話されている時も
茂木さんの真意はどこにあるのだろう?と
いつも謎だらけ(笑)。
「僕は自分のブログのコメントに返事は
しません。」と仰っていましたが、
過去のコメントでも律儀に覚えていて
下さってそれぞれの方々に
さりげなく日記上でお返事をされている
のを見ると
やっぱり優しい方なのだなあと思います。
皆、そのさりげない優しさに
引き寄せられてしまうのでしょうか。
今日も寒くて、夏の暑さが恋しいです(うそ♪)
ご自愛ください。
投稿: まり | 2007/10/22 23:26:07
昨日は下関にいらしてくださり、ありがとうございました。講演、大変興味深く拝聴しました。
私は同市にて、小学校教諭をしています。先生のお話で、色々な気づきがありました。自分なりに解釈したことを、今朝から実践しています。子どもたちが、初めの一回転ができるよう、あれこれ工夫するのが楽しいです。
今日は、先生の著書を2冊読ませていただきました。もっと、この世界のことを知りたいと思います。
先生の温かい人柄の話題で、両親と盛り上がりました。本当にありがとうございました。また、下関にいらしてくださいね。
なぜ名前が「てのりネコ」かは、先生はお分かりかもしれませんね。
投稿: てのりネコ | 2007/10/22 22:54:41
菊川にての講演、とてもすばらしいものでした。
本当に、ありがとうございました。
今年は、01でも、下関に来て頂きましたが、私は先生の講座を聴くことが出来ず、残念に思っておりましたが、今回このようなかたちで、お話を伺うことが出来、本当感謝申し上げます。
私は、下関のラジオ局(カモンFM)に勤めておりますが、先生のお話を是非、自分の番組にてもお話させて頂きたく思っております。
先生から、私の友人はサインを頂き、とても嬉しかったと申しておりました。長い時間、一人一人丁寧にサインされたとの事、本当にお疲れ様でした。皆さんの心に今日の、出会いがサプライズと喜びとなり、記憶されることと思います。
是非、お聞きしたかったのですが、夏目漱石はかなりのうつ病であったと思っていますが、うつ病の方の脳の状態はどのようなものでありましょうか。心を病んでいる方が非常に多い、現代。私は、言葉を使って仕事をしておりますが、何か気をつけることがありましょうか。言葉は言霊と思って話をしております。
是非、又、下関にいらっしゃってくださいませ。そのときに、お時間があれば、ラジオに出演してくだされば、本当に嬉しく思います。
お忙しいとは思いますが、御自愛をされてくださいませ。
追伸
味覚は、お魚の美味しいお店で、特に男性に人気のお店です。
ふくの季節になりましたが、あんこうのから揚げもおいしゅうございます。次回は是非に。
投稿: 中村洋子 | 2007/10/22 22:14:32
私が以前覚えたウタの中に
♪昔の人の言葉 りっぱな教えばかり
私も大きくなって いろんなことを覚える
覚えてくれば覚えるほど いろいろむずかしくなる
わかってくればわかるほど ますますわからなくなる
という歌詞のウタがあります。
この歌詞のように、私も40を超えてから、益々結構分からないことが増えてきたような気がします。
色々なことを覚えてくるほどに、人生がいよいよ難しくなり、経験でものごとがわかるほどに、一筋縄では行かない「謎」も増えてくる…。
例えば「人を愛せよ、憎むなかれ」と言っている一方で、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言葉を“大人”は言っていたりする。
その間に横たわる矛盾とは何か…?とか、
胡桃の殻をむいた時、中身が何故“脳”の形をしているのか…?とか…。
(これは幾ら考えても分からない謎だ!)
何故「宿命」「運命」なるものが人生には付きまとうのか??…とか。
色々と出てきます。
1つ、事が分かるごとに、分からないことが10も100も増えるって、脳にとってはやはり、いいことなんだなぁ。
そしてそのこと自体、実は生命の、非常に不思議な作用なのにちがいない…。
投稿: 銀鏡反応 | 2007/10/22 21:45:37
こんにちわ
自分で言うのは恥ずかしいですが、「オープンエンド」は「オープンハート」では?(^^)
投稿: tain&片上泰助 | 2007/10/22 21:14:30
こんにちは
菊川アブニールでの講演、とても面白かったです。
こんな田舎にまで脚を運んで頂けるなんて驚きでした!
お話が面白くてアッという間に終わってしまいましたが、
私も他の聴衆の方々もドーパミンがかなり出ていたと感じます。
サイン会の時伺った、「頭の良さは遺伝ではない」というお言葉、
(但し50%は遺伝)甥っ子に言ってやります。
茂木先生は、肩書に比べあまりに気安いお人柄だったので、
「ハイ、チーズ!」なぞと言って写真を撮ってしましましたが、
とても好い想い出になりました。ありがとうございました。
「プロフェッショナル」、たまに観ています、お仕事がんばって下さい。
投稿: 美保 | 2007/10/22 12:22:09
おはようございます。
きょうも温かな日が昇りました...
とってもひさしぶりに、こちらにコメントしたくなりました。
ふだんの生活で、年齢差とか関係なく、
わかっていると思っている人から抑えられるようなことをいわれると、
なによりつらいです。。
いつか、すべてわかったと思うときは人生のお尻餅をつくとき..
と書いたのですが、 先生のおっしゃるように、人生の最期には、
わからないこともジャングルのように、盛り沢山になるのですね。。
油断するとわたしも、ついわかった気になってしまうことがありそうで、、(笑)
気をつけたいと思いました。
.. トラフグ、おいしそうです ..♪
講演よりも長いサイン会.. 先生はすごいです。
連日の講演で、お忙しいお体すこし心配です。。
すきまを見て居眠りをしたり...(ないですか..)
すこしでも憩いの時間がありますように...
投稿: M | 2007/10/22 10:21:32
>わかることは、わからないことの
水先案内人なのである。
いつも楽しく拝読しております。
上記の文を読み、目からウロコでした。
「何がわからないのか、わからない」
という状態が、どうしてつらいのか。
それは自分が
「わからないこと」
をハンドリングできておらず、
ただ、対象に振り回されているからなのだ、
と思いました。
投稿: 矢透泰文 | 2007/10/22 10:12:36
わからないことが、学び、経験するほど、歳とともに増えていく。
今の私の不安をとてもうまく代弁してくださる表現でした。
ありがとうございます。表現することすら年々退行していく現実です。
投稿: JUN | 2007/10/22 9:50:24