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2007/09/15

あの浪の中で

丸山健二さんが
言っていたことが
気になって、
「日月山水図屏風」を検索してみたら、
六本木のサントリー美術館で
開催されている「BIOMBO/屏風
日本の美」展で
9月17日まで公開
されていることがわかった。

移動の合間に、短い時間だったが
赴いて向き合った。
二年前に愛知で見て以来である。

本当にすぐれた芸術作品を前にした
時の、刻一刻がどうすることも
できない、無力な感じは、
宇宙全体を前にした時の
焦燥感に似ている。

つかもうと思っても、つかみきれない。
吸い込み、一体化し、抱きしめようと
しても、それはあくまでも遠い。

展覧会には、他にも室町や
安土桃山時代の屏風が
展示されている。

西欧の人間が行き交い、
「南蛮」の文化が一つの趣を
なしていた時代。

世界地図がある。ヨーロッパの合戦の
絵がある。

日月山水図は別格だが、
この時代のどの絵にも、人格の奥深くまで
入り込んでくる、しかも能動的な
偶有性がある。
剛胆さがある。潔い、骨太の美がある。

それが、徳川時代になると、
線が細くなる。鳥や小動物を描いても、
こじんまりと優美にまとまる。

現代日本に続く、「大人しい文化」
の始まりである。

「日月山水図屏風」を心から
愛して止まない丸山健二さんは、
しかし、
実際にはまだ見たことがないのだと
言う。

この掛け値なしの名作をモティーフに、
一篇の長編小説まで執筆中だというのに、
なぜ見ないのか?

「いや、本物を見ると、いろいろあるでしょう」
と丸山さんは笑った。

文藝春秋から出版されるという小説を
拝読するのが今から楽しみである。

丸の内の東京フォーラムの
「イノベーション・ジャパン」で
お話する。
私の後に、秋山咲恵さんが
御登壇された。

『プロフェッショナル 仕事の流儀』
で秋山さんがいらした時に
たっぷりとお話しし、
それから、NHKのイベントで
もご一緒したが、それ以来。

秋山さんが、パートナーである
技術者の秋山吉宏さんとSAKIを立ち上げて、
海外に多くの拠点を持つ現在まで、
その発展の歴史を踏まえた
日本のイノベーションへの提言は
迫力があった。

秋山咲恵さんのお話をうかがって
いた時、私の横には秋山吉宏さんが
いらした。

SAKI coorporationのCTOをつとめる
秋山吉宏さんは、ロボット制御工学が
ご専門。
咲恵さんの話を聞きながら、
時折くすっと笑ったりする。
チャーミングな方なのである。

電通本社での、セカンド・ライフに
関するブレスト。

電通の佐々木厚さんは、
タクシーで移動中も、
二つの携帯電話を駆使して仕事仕事仕事!


「二丁携帯」。佐々木厚

見ていると、なんだか、おもしろいのである。

ソニーコンピュータサイエンス研究所。
東京工業大学の私の研究室の
学生たちとのゼミ。

修士1年の加藤未希、高川華瑠奈が、
初めての論文紹介をする。

加藤は、認知判断に与える、無意識の
プライミング効果に関わる脳機構の
論文。

随分りっぱにやっているので、
「どれくらい準備したの?」
と聞いたら、合宿の後やった
だけだという。

そうか、加藤よ、君はえらい!

博士論文執筆中の「かものはし関根」
こと、関根崇泰くんも、ぜひ
見習いましょう。

高川華瑠奈は、プラシーボ効果
に関わる脳機構についての
論文。
Pain Matrixの活動が低下すると同時に、
前頭葉の痛みのpredictionに関わる
活動が上昇する。

ラテン語で、"I shall please"という意味を
持つplacebo効果は、おそらく
人間にしかない。

そこで、高川さんは、意識と身体性の
結びつきを解明する一つの材料として、
placeboに目をつけた。
着眼点はよい。

考えるべきことはきっと
たくさんある。
placeboが効くそのメカニズムを
predictionとpain reductionを
含むロジックの脈絡できちんと
説明しようとすると、
難しい。
そのあたりの整理から始めたら
どうでしょう、高川さん。

「学問の秋」だ!
諸君、大いに学び、考え、
日月山水図屏風のあの浪の中で
もまれて、魂を成長させようでは
ないか。

加藤と高川は、自分たちの発表を
終えて、ほっとしたように、
ゲスト・スピーカーである
カネボウの猿渡敬志さんの
話に耳を傾ける。


猿渡敬志さんのトークを聞く。
左から高川華瑠奈、関根崇泰、加藤未希。
後ろに隠れて野澤真一。


内面に沈潜し、思索の糸をたどるほどに、
大きな浪が、私たちの頭上を越えて、
そして渡っていった。

9月 15, 2007 at 08:13 午前 |

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受信: 2007/10/04 22:02:21

コメント

掴めないものを歌う方が
深く届くこともありますね。

遠くても
抱きしめられなくても、
観続けずにはいられない
我が泉はここにある。

色々な人々の日月山水図

嵐と凪、
どちらの時空にも
自らを見いだせれば幸いです。

投稿: ka-ru | 2007/09/18 2:47:23

こんばんは、藤間IMと申します。
2度目のコメントをさせていただきます。

14日「イノベーション・ジャパン2007」での「脳と人間」講演、とても興味深く聞いておりました。

官僚社会・画一的な教育・行政のイノベーション戦略などに、かなり抑え気味な指摘のようでしたが、霞が関の方々の心にも届いたことを祈っております。
私も行政の立場の者ですが、もっともっと現代の多様性の社会にマッチした取り組みをしなければいけないと危機感を持っています。

「peer-business」(造語)をキーワードに、日本文化を意識した新たな起業サポートの試みにチャレンジしていきたいです。

また、茂木様のご講演をお聞きできれば幸いです。

投稿: 藤間IM | 2007/09/17 1:56:27

二丁携帯…忙しいと利き手ではないほうの手も
器用に使えるようにならなくてはダメですね!

以前プロフェッショナルのスタッフブログで
お花見中の茂木さんのお写真を拝見しましたが、
かなり苦しそうな姿勢にもかかわらず、
パソコンを使って平然とお仕事なさって
いらっしゃるように見えました(笑)。

…今日は、12月にお聞きしたい質問を
また思いついてしまいました。
動物に関係はあるけれども、
人間の脳のことなので茂木さんにお聞きしたほうが
よいのでしょうね。
あてていただけるよう、ハリー・ポッターの
ハーマイオニーのようにビシッと手を掲げる練習を
していますうそです。。。

プロフィールのお写真は、去年ロシアに
行かれたときのものですね。
あのときも、例の田森さんがご一緒で
楽しそうでした(笑)!

投稿: まり | 2007/09/15 23:48:42

プラシーボ効果について
茂木さんの意見と違うものを聞いたことがあるので
一つお耳にいれとこうと思います

解熱剤と共に
例としては加香ひまし油でしたが
ある特殊な限られた臭いを嗅がせておくと
数回目(はっきりとした記憶はありません)から
加香ひまし油の臭いのみで解熱するというものです

文献としては定かではありませんが
ならば
動物でもプラシボは存在すると思います

この実験が成立していた場合プラシボの存在は
人間が限定された狭義の脳支配のみを受けているわけではない動物だからこそ存在するですね

投稿: nobori | 2007/09/15 18:00:15

 私も敬愛する丸山健二氏の庭が、季節の中で6月が最高との事で、茂木さんが観に行かれると書かれて、もう2,3年経ちました。しかし、記されたとおり行かれたのですね。
 丸山氏の小説『千日の瑠璃』の表紙を飾った<日月山水図屏風>をモチーフにした、最新長編小説の出版が大いに待ち遠しいです。白州正子氏も一番愛してやまない美術作品との事でした。小説の帯にでも茂木さんのコメントが載ればよいのですがね。
 この屏風、私の町からも約1時間でいけるお寺にありますので、展示会から戻れば拝観したいものです。

投稿: 中元日出登 | 2007/09/15 14:21:42

プロフィールのポートレイトが、変わりましたね。
エルミタージュ美術館で聖母子像をじっと見つめるお姿が、とても印象的です。

天高く馬肥ゆる秋、読書と学問と芸術の秋・・・。
秋は食欲もわき、そして何かにじっくり取り組むには調度よい時期。

今年は、このところ中断状態だった
博物館めぐりなどをして、地球上の様々な物事の進化や起源などについて思いを巡らし、

または、これまで一度も足を運ばなかった「植物園」なる所へとおもむき、
刻々と移り変わる植物たちの様子を見つめつつ、木々や草花たちの放つ
瑞々しい緑色の息吹を浴びて、植物の持つ癒しの力を肌で感じ、その中で
深い思索にふけってみたり・・・といろいろ考える。

とにかくこの時期は何でもいいから貪欲に学び、考え、思いを巡らし、己の内面をさらに豊かにしていきたいと思っている。

そしてできうる限り、日月山水図屏風のような、真の芸術に触れていきたい。
(この秋もそうするけれど、時期にかかわりなく・・・!)


投稿: 銀鏡反応 | 2007/09/15 13:32:23

もらい泣きは、逆フラシーボ効果ではないでしょうか?

対外的ミラーニューロンと記憶的ミラーニューロンが、逆フラシーボ効果、フラシーボ効果と関係しているのではないでしょうか?

すると、自信を無くす、自信を得るなど、逆フラシーボ効果、フラシーボ効果ではないかと考えたりします。

投稿: tain&片上泰助 | 2007/09/15 11:44:44

日記のプロフィールの写真、変わりましたね。。
前から、もう変えてあったんかなあ?
(今日、私が気づいたのかも)
いっぱい、良い話を拝読して、さいごの、
「後ろに隠れて」の野沢様に、え?どこ?
そのあと、めちゃうけしてしまい、
朝から思いっきり、くすくす笑いました。

茂木様の手にかかると、
その人の持ち味が際立って、
人間が、どんどん魅力的にみえてくる。

投稿: F | 2007/09/15 10:04:18

凄いものに出会ってしまった時の 無力感、焦燥感、つかみきること
 のできない遠い存在・・・・
 でも、どうすればもっと近づくことができるでしょうか?
 凄いものが、物なのか者なのかによっても違ってきますか?
 
 自分の感性をそこまで引き上げればもう少し近づけるのでしょうか?
 一生をかけて感性を高めること・・・私の人生の課題です。
 
 Dr.茂木の言葉をいっぱい集めて私自身にインプットする毎日です。
 そこからすこしでもスピンアウトできれば幸せ!です。

 リサ・ランドール博士の講演会で恥ずかしくもTVに顔がでてしまい
 ました。
 

投稿: Babies breath | 2007/09/15 9:50:12

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