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2007/09/19

偶有性が本来抱く

シーカヤックで海の上に乗り出した
時、新しい経験の時は
しばしばそうだが、
「あっ、これはダメだ」
と思った。

「沈」するのが一番こわかった。
ひっくりかえったら、スプレー
スカートに付いている紐を引っ張って
脱出しろという。

「天地逆さまになったら、パニックになって、
手前に引いてもなかなか外れない
ものだから、上に引っ張らないとダメです」
と知床山海塾の佐々木泰幹さんが言う。

沈することはまずないとは言うが、
想像力という余計なものがある。
一生懸命、
スプレースカートを外す
シミュレーションをした。

後で聞いたところ、
海に出た時に、私の一人乗りカヤックが
ゆらりゆらりしたのは、
実は当然で、本当は荷物をある程度載せないと
安定しないのだという。

波が少しある。
時々、左右に揺れる。
それでも、不思議なもので、
漕いでいるうちに慣れていった。

左右の足を用いての
ラダーの操作も、快感となる。

次第に、夢中になっていく。

自分の周囲の水の塊が、
大海原に続いているかどうか。
それは無意識に影響を与える
ものだろうか。

果たして、私は合理の内にいるのか。
それとも、踏み出しているのか。

パドルが自らの呼吸のように
感じられる。

感性が開いていく。
生命の躍動に、身を任せる。


知床の海をシーカヤックで行く。
撮影 佐々木泰幹さん(知床山海塾)

思えば、開かれ、浮上する旅だった。

釧路川をカヌーで
下った時に見た
カワセミ、エゾジカ。
そして、釣りをする人。


カワセミ。釧路川にて。


驚き、見つめるエゾジカ。釧路川にて。


釣りをする人。釧路川にて。

感性を開き、まわりのものと
行き交う。
そしてそれを
持ち帰らなければ、
日々の生活の中で、
知床の海をカヤックで行くときの
ような、あのような敏捷な
心の動きを持ち続けなければ
甲斐がない。


知床半島の西岸にある
ウトロで、アイヌ・アート・プロジェクトの
早坂雅賀さん、NPO知床ナチュラリスト協会
(SHINRA)

http://www.shinra.or.jp

の西原重雄さんと、
アイヌの聖地を巡った。

森に入る前に、早坂さんが
「こうやって祈るのだ」
と教えてくれる。



森への入る前の祈りをする早坂雅賀さん

原生林のけもの道を
登り切ったその場所は、見晴台であり、
聖地(「チャシ」)であり。
オジロワシがとまる枯れた白木がある。

往時には
時折クジラが打ち上げられた
という海岸を見下ろすその高台は、
空気と光が澄んでいて、魂が
浄化されてふわっと浮かび上がる
のが手に取るようにわかった。


知床ウトロのアイヌの聖地、チャシにて。
早坂雅賀さん(中央)、西原重雄さん(右)と。
撮影 渡辺倫明さん(小学館「和樂」編集部)

脳内現象は、さまざまな表情を見せる。

チャシから見晴らしていた
海岸に降りると、背後の崖のそばの空で
茶色と白が交差した。

ハヤブサが、驚くべき早業で
カモメを捕獲したのだ。

反射的にシャッターを押す。

望遠レンズではなかったので、
小さくしか写らなかった。

白と茶色の点を
拡大すると、そこには
生死のドラマがあった。


ハヤブサによるカモメの捕獲(全体図)。
崖の中央に小さく見える。


ハヤブサによるカモメの捕獲(拡大図)。

瞬間の出来事だった。

女満別に向かう。

文明の中での生活が
どれほど大変だとしても、
大自然の中で格闘する野生動物
ほどに過酷であることは希である。

偶有性が本来抱く白い刃の前に
身をさらしてから、
人類が築き上げた文明の中に還って
くれば、
エッセンシャルな問題に向き合い続ける
ことなどは、生きる上で当然のことだと
思えて、
目の上にともすれば張り始める皮膜
などにに負ける
ものかと思う。

肝心なことは、フクロウのようにクリアに
見続けることなのだ。

この度の旅では、和樂編集部の渡辺倫明
さんにお世話になり、また、橋本麻里
さんには素晴らしいスケジュールをアレンジ
いただきました。
橋本さんが、比叡山の取材のために、
アイヌの聖地巡りを前にして京都に
帰られたのは、残念なことでした。

良い原稿を書いて恩返しします。

9月 19, 2007 at 10:13 午前 |

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コメント

美しい!
本当に美しい。

投稿: | 2007/09/25 17:49:13

チャシから見晴らしていた
海岸に降りると、背後の崖のそばの空で
茶色と白が交差した。

つい最近、NHKで再放送されたハゲタカを思い出しました。

テレビのドラマのほうには出てきませんが、
真山さんの原作に
主人公の鷲津が、日光の山にハゲタカを見に行くシーンが
あります。高く旋回して、主人公と目があうんですよね。
ハゲタカファンドの由来を語るいい場面です。
孤高の人というイメージ!!

なかなかこういう大きな鳥に出会うこともないのでしょうが、
写真まで撮れたのがすごいです。
茂木博士に会いにきたのかもしれません。

投稿: | 2007/09/21 5:41:40

和楽は本当に良い仕事ですね。
白神山地の件といい
毎回橋本真理さんに感心しています。

自然の中での感動や運動は何故
こんなに気持ち良いのだろうと思います。
先生の文章の、しみじみとして伝わってくるものが
沢山の事を思い出させてくれます。

知床の、冷ややかであれ、潔い自然に触れ
魂が洗い流されていく様子
羨ましくもあり
こうこうと伝えてくれるのが嬉しく
清々しい気分になれます。

先生を選んだ人はナイス・チョイスw。

今回の旅の先生は私が捕らえようと
していたのとはほんの少し違います。

色々な先生。

だからまた探しにゆかなくちゃ。

投稿: | 2007/09/21 0:24:32

和楽は本当に良い仕事ですね。
白神山地の件といい
毎回橋本真理さんに感心しています。

自然の中での感動や運動は何故
こんなに気持ち良いのだろうと思います。
先生の文章の、しみじみとして伝わってくるものが
沢山の事を思い出させてくれます。

知床の、冷ややかであれ、潔い自然に触れ
魂が洗い流されていく様子
羨ましくもあり
こうこうと伝えてくれるのが嬉しく
清々しい気分になれます。

先生を選んだ人はナイス・チョイスw。

今回の旅の先生は私が捕らえようと
していたのとはほんの少し違います。

色々な先生。

だからまた探しにゆかなくちゃ。

投稿: | 2007/09/21 0:23:27

初めまして

知床・・・なぜか惹かれる土地です
いつも、心の奥底でうごめいている・・・

それはきっと、野生のものたちの
息づかいが身近に感じられる場所だから
かもしれません

カモメの死によって生かされる命
日常的に繰り返される営みであっても
ほとんど見ることは無い
貴重なシーンです

(カモメを捕獲したのは、羽の模様や
 頭部の形状から見て、クマタカであ
 る可能性が高いと思います)

投稿: fieldnote | 2007/09/20 0:47:20

写真が素晴らしいです…!! 
澄み切った空気に包まれた釧路川の岸辺。緑の葭原にエゾシカ、カワセミが佇み、川べりには釣り人がつり竿をたらしている。

博士がカヤックで漕ぎ出している灰色の海原がとてつもなく広く、これが大海に繋がっていることを感じさせる。

緑の世界を「聖地」とし、祈りを捧げるアイヌの儀式は、かつて人間が自然と厳粛に向き合わなければ、生きて行かれなかったことを教えてくれる。

アイヌの人達は、この北国の自然と、一つになって今も生きているんだなぁ。

知床・釧路の広大な自然の中で凄まじい「生死のドラマ」を生き続ける沢山の生物達は、それでもみんな、懸命に生きている。

四角四面の文明世界の中に生きる私達。時にシンドイと思う時が有るけれど、大自然で生死のドラマを毎日懸命に生きる生物たちのことを思えば、
なにくそ、負けずに生きていこう、との思いが涌いてくる。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/09/19 23:15:35

ハヤブサがカモメを仕留める、ところを写真を撮るなんて、茂木さんは相当運がいいですね。

小学校にいた頃、運動場の上を見ていると、いつも大空をクルクル回っていた、タカかトンビを思い出しました。今は、もう見かけません。帰ってきてほしいな、と思います。

投稿: | 2007/09/19 21:15:56

暑さが戻ってきて、頭が、ぼんやりする。
シーカヤックのお写真が、今の私には、
ベッドの上で、手術を待つ人に見える。
とても、とても辛いけど、
人間の命が輝くときです。
おかしな感想で、すみません。


投稿: | 2007/09/19 12:04:45

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