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2007/08/10

夢は現実を照らし出し

世界遺産にも指定されている
比叡山延暦寺で
滋賀県の嘉田由紀子知事に
お目にかかった。

嘉田さんは、琵琶湖の水問題の
専門家で、京都大学から博士号を
受けておられる。

琵琶湖博物館の立ち上げや運営にかかわり、
京都精華大学で教鞭をとられた後、
前回の選挙に出馬して当選された。

琵琶湖水系が育んできた
生き方の美しさ、幸福のかたちは、
以前黛まどかさんがされている
「ええじゃないか」で高島市を
訪れた時に私の中に
初めて深く浸透してきた。

家の中に伏流水が引かれ、そこを
鯉が泳いで残飯を食べてくれる
川端(かばた)のことも、
その時知った。

嘉田さんは、水辺で生きものに触れる
喜びについて科学的、及び文化的視点から
考察され、その中で「自然水系と同じくらい
人工水系が大事である」という
大切な指摘をされる。

経験に照らしても、納得できる。

最近、東京の私の自宅の近くの
公園にビオトープができた。

幅5メートル、長さ15メートル
くらいの小さな溜め水であるが、
あっという間にメダカが泳ぎ、
アメンボが波紋を描き、
トンボが飛び交うやすらぎの場に
なっている。

「バケツ一杯の水があれば、トンボは
そこにやってきます」と嘉田さん。

県域の約6分の1を琵琶湖が占め、
水路や水田などの人工水系が張り巡らされた
滋賀県は、水と人が親しむ、
新しい幸せのあり方を提案する
条件が整っているのではないか。

滋賀県の琵琶湖水系は、
里山の景観とも相まって、
日本の国土の豊かさを象徴するような
場所だと思う。

嘉田知事とお話したのは、
国の重要文化財に指定されている
常行堂。


比叡山 延暦寺 常行堂にて。嘉田由紀子滋賀県知事と。

となりの法華堂と廊下でつながれ、
弁慶が肩で担いだという
伝説に因んで「にない堂」とも
呼ばれる。

延暦寺の小鴨覚俊さんにお話をうかがう。

常行堂では、修業として、本尊である
阿弥陀如来の周囲を90日間巡り続ける
修業が行われる。

「昼も夜もありません。24時間巡り続けます。
食事の時は、座ります。倒れてしまえば、それまで
です」
と小鴨さん。

侍真僧について伺った。
十二年間、法華堂から出ずに、
伝教大師(最澄)に仕える。

侍真僧になるには、特別な
修業をして、仏の姿を
見なければならないのだという。

果たして仏の姿を見たかどうかは、
現侍真僧が面接して判定する。

話を聞いて、「それは幻覚だ」
とされてしまうのではなく、
本当に仏の姿を見たと認定
されると、初めて侍真僧に
なることができるのだという。

「おいしいものを食べて、
いくらこうだったと言っても
伝わらないでしょう。それと同じで、
仏の姿を見ると言っても、それが
どんなものか、実際に経験した
者でないとわかりませんわ」
と小鴨さん。

私の心の中に
なにものかが響いてくる。


常行堂の中の小鴨覚俊さん。


茂木健一郎、小鴨覚俊さん、嘉田由紀子さん

今回、嘉田知事との対談を
アレンジくださったのは、
滋賀県広報課の佐竹吉雄さんと
小林由季さん。

広報誌へのとりまとめは、
高速オフセット社の大橋祥司さん。

高速オフセット社は毎日新聞社屋
内にあり、大量の印刷物を高速に
印刷するノウハウを生かして
広報誌など、大量印刷物の制作を
行うのだという。

大橋さんは、かつては映画青年で、
黒澤明監督と脚本を書いた
小国英雄さんに師事していた。

毎日新聞では、学芸部で
映画評などを担当されていたという。

小林秀雄の講演を聞くのも大変
好きなのだという。

京都駅への車の中で、
大橋さんに依頼され、
映画に対する愛やもろもろのことをを
うかがいながら
描いていたら、こんな色紙になった。


大橋祥司さん

「夢は現実を照らし出し
その影に我は住まう」

帰りの新幹線はうとうとした。
現代の技術の粋の中に、夢が
現れた。

嘉田知事は毎日ブログを書かれている。
その文章からもお人柄が伝わってくる。

http://www.pref.shiga.jp/chiji/nikki/index.html

アフリカの水系調査にも長年行かれている
嘉田さんに、「最初に行くならば
マラウィ湖がいいですよ」とお勧めいただいた。

人々は丸木船をくりぬいて、湖と向き合い
暮らしているのだという。

私の夢の材料がまた一つ増えた。

8月 10, 2007 at 07:13 午前 |

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お盆の時期には、独特の暑さがあり、 門前町にもぼちぼちと、 お盆の雰囲気が漂い、 灯明会の昨日、幽玄の世界へと、 訪れる人を誘った。 [続きを読む]

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伝わること、伝わらないこと、そんなことを考える。 茂木健一郎氏のブログ「夢は現実を照らし出し」   「おいしいものを食べて、  いくらこうだったと言っても  伝わらないでしょう。それと同じで、  仏の姿を見ると言っても、それが  どんなものか、実際に経験した  者でないとわかりませんわ」  と小鴨さん。 深く深く同意する。仏の姿に関わらず、人にはさまざまな内的体験があってそのことをどこまで理解できるか、という問題がある。よくぞおっしゃってくださいました。 * コミュニケーションとしては伝える側と聴く... [続きを読む]

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» 命とクオリア(11)―夢は現実を照らす トラックバック 銀鏡反応 パンドラの函
★夢は現実を照らし出し、その影に我は住まう、とある智者は言った。 ★人それぞれに直面する現実は違う。同じ事物でも、おのおのの感じ方によって違いがある。 ★そんな現実をやりすごしやすくする為には、夢の効能は覿面だ。 ★人生山あり谷あり、天国の花を見ることもあれば、地獄で業火にくるまれることもある。 ★一度かかってしまったら、生きる気力も何もない、とふと思ってしまうほどの、不条理という「罠」もある。 ★そんな現実を照らす光は、やはり豊穣なる夢なりき。 ★夢は寝る時にも見、醒めている時にも見ている。 ★寝... [続きを読む]

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コメント

はじめまして。

滋賀の隣の京都に住みながら 延暦寺は昨年初めて行きました。
しんとした不思議な空気を感じ、
 なんども深呼吸したことを思い出しました。

ところで・・大橋さんは昔々、私のあこがれのバイトの先輩でした。
こんなところでお会いできるなんて、
 茂木さんのお導きに感謝します(笑)。

投稿: 小町 喰 | 2008/06/02 0:13:00

脳内物質に、ある一定のクオリアがあるのではないでしょうか、すると、お酒にも脳内物質型クオリア?があるのでは、と、思ったしだいです。

私は、下戸なので、酔っ払える人がうらやましいです(笑)。

投稿: tain&片上泰助 | 2007/08/11 7:24:49

1985年、尾崎豊19歳。
あの頃が、画面から、あふれてた。
少し年下になる私は、当時より今の方が
真正面から、まっすぐに聴いていました。
仕上がりも、とても良い番組でした。

  あの頃、家族旅行で琵琶湖にいった。
  めったに旅行には行けなくて、だから、
  大切な思い出のひとつ。きれいだった。
  宿泊先で、眠った私は、ずっと寝言で
  「わからん」と繰り返したそうです。
  あのとき、なにが分からんかったん?
  と、話しかけたくなった。

投稿: F | 2007/08/11 0:29:13

二度目の投稿お許し下さい。

大橋さんの為に博士が書かれた色紙、

何とも言えない、ホッコリした味わいがあります。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/08/10 23:30:44

茂木博士のご自宅の近所のビオトープ、
そして、琵琶湖水系…。

水のある所、全ての命は輝きを増す。

地球では生命を維持するのに、水が欠かせない。

その、琵琶湖水系を擁する滋賀県。知事の嘉田さんはTVのニュースでは、新しい新幹線の通過に反対して知事に選ばれたときいているが、琵琶湖まわりの水問題の専門家だとは、本日のこの日記を見て初めて知った。

…嗚呼、何と浅識だったことか…。

それはさておき、琵琶湖のほとりには、水と緑と人々が互いに触れ合って、幸せな関係をずっと昔から育んできたのだろうなぁ、と今回の日記を読んで、このコメントを書きながら思うのです。

比叡山延暦寺も、そういう豊かな水系と関わりをもって、歴史を刻んできた筈だ。

私はいまだ琵琶湖のほとりには行っていないのだが、もしチャンスが訪れれば、一度は行って見たい。

きょうは猛暑の日、こちら東京では水がますます恋しく、ありがたいものに思われます。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/08/10 21:31:27

もう30年近く前になるが、大学院で専門外の人たちと喋るとき、面白かった分野に水産、水生動植物専門があった。時は、環境問題を専門に研究することに市民権がえられつつある黎明期であった。でも、余り人気が無い分野であった。

重箱の隅をつつく分野であった私にとって、スケールと筋肉労働(調査活動)の話が印象的であった。

私の友人に水産学の教授がいるが、最近は藻類の分子生物学的ネタなどをやりたがる者が増えて面白くないと言っている。推論過程が科学なら同じなので、ここの学生ならフィールドワークでそれをしろといつも言っているらしい。

仮説検証のネタを集めるために、リュックを背負って遠い湖を訪ねた嘉田知事の話題を見て、また、昔話を書いてしまいました。

投稿: fructose | 2007/08/10 10:35:31

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