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2007/07/09

チョウトンボになってひらひらと

チョウトンボというトンボがいる。
 
棲息地にいくと群れ飛んでいるらしいが、
私は生涯で三回しか見たことがない。

一回目は、生まれ育った土地の
自宅の近くの神社の森だった。
沼があり、その近くの木の梢を
飛んでいた。

図鑑でしか見たことがなかったが、
一目で「チョウトンボだ!」と
わかった。
他のトンボ類とは飛び方が
明らかに違っていた。
ひらひらと、
空気の中でダンスを
舞うように飛んでいた。

小学生の時だった。

ネットを持ってはいたが、
とても届くような高さではなかった。
飛び方の優雅さと、
その飛行する空間の高さが、
まるで天女のような印象を
与えた。

二度目は、十年ほど前、
近江八幡に行った時のこと。
小高い山に登ったら、その頂上
にチョウトンボがいた。

やはり、手の届かないような
高い空を、
ひらひらと美しく舞っていた。

山を下りても、
しばらくその姿が脳裏を離れなかった。

そして三度目は、
つい二週間ほど前。

いつも走る近くの公園の
木の梢を、
チョウトンボがひらひらと
舞っていた。

「あっ、チョウトンボだ!」
と思わず立ち止まった。

空にシルエットが浮かぶ。
見上げる私を風が包んだ。

何時も前触れなしに
現れて消える不思議な存在。

それから森を走る度に、
目撃した場所で立ち止まって
梢に目を凝らすが、もう出会わない。

どうやら、チョウトンボは
忘れた頃に私の人生に姿を
現すらしい。

一回目と二回目の間には
20年。
二回目と三回目の間には
10年の歳月が流れた。

今度チョウトンボが目の前に
現れる時には、
私の人生はどうなっていることだろう。

不思議な場所を占めている。

日曜日の夕刻。
椎名誠さん、小泉武夫さんと
鼎談。

たき火について。

たき火の炎は一瞬たりとも
同じであることはなく、
まるで生きもののよう。

脳の中の神経細胞の活動も、
たき火の動きに似ている。

椎名さんはたき火のプロである。
シベリアでたき火をした時の
お話が面白かった。

マイナス50度。
燃やしても、暖かくならないのだと
いう。

「手を炎から三センチくらいに
近づけないとあたたかさを感じない
のですよ。
 それでわかったのですが、たき火で
あたたかいのは、あれは空気が
あたたまるんですねえ。
 いやあ、せっかくのたき火なのに、
一向にあたたまらなかったから、
 あんなに情けないことはありません
でしたよ。」

 小泉武夫さんとお目にかかるのは
初めてだった。
 とても気さくな、素敵な
人だった。

 心の動きの表し方が
とてもストレートで、
周囲の人の気持ちをなごませる。

 日本経済新聞夕刊で長年連載を
持たれている。

 日本酒をコピリンコ、コピリンコ。

 独特の「小泉擬態語」の起源を
うかがった。
 なるほど。
 先生、納得いたしました!

 椎名さん、小泉さんと語り合って、
 何だか、こう、心がふわっと
開かれたような、
 そんな気持がしたなあ。

 ボクもここは一つチョウトンボになって
ひらひらと梢を飛んでみようかしら。


椎名誠さん、小泉武夫さんと。(photo by Tomio Takizawa)

7月 9, 2007 at 06:08 午前 |

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コメント

はじめまして、小生は、この一文を読んで、やっと60数年の、やっていた行動の意味がわかりました。感謝します。それは、目からうろこでした。焚き火の話、小さいころから、なぜ、こんなに燃やしていくのが、大好きなのか、自分では、きれいに燃えた後にすべて何もなくなるのが気分良かったのです。異常な感情、危険な行動と自戒していました。(((脳の中の神経細胞の活動も、焚き火に似ている))((焚き火の炎は一瞬たりとも同じであることなく、まるで生き物のよう)))
この2行で、今までのもやもやが、晴れました。
でも、自宅の前ではもう、たきびを、家内から、禁止され、ストレスは、たまる一方です。しかしこれからは、この一文を、心の杖に、気持ちよく、たき火が出来ます。ありがとうございました。
最近茂木さんの、本が好きで、ほとんどれるのを読んでいさすが、難しく悪戦苦闘しています。
クオリア、この言葉が、意味わからず、日日、気になっています。
これからも、この、ブログ読む間に、解決することが出来ると期待して、毎日楽しみで、読ませていただきます。
ありがとうございました、

投稿: ひさし | 2007/07/13 4:40:28

はじめまして。チョウトンボの記事を読んで投稿させていただきます。
茂木さんの近くに住んでいた八木崎小学校の第1回卒業生の一人です。
近くに住んでいらした茂木さんの活躍を、自分のことのように誇らしげに感じていました。
子どもの頃、チョウトンボが見られた神社は八幡神社のことでしょうか、私がよく通ったお気に入りの場所でした。茂木さんが越してくる前は近くにかしま池と呼ばれている小さな池があり、無数のチョウトンボが飛んでいました。埋め立てられて幻の池となってしまいましたが。
現在、春日部市ではそのような無数のトンボを楽しめる場所はなくなってしまったかもしれませんが、隣の杉戸町では今でも夢のように舞うチョウトンボが舞う場所が存在します。

日中は手の届かないところを飛んでいるチョウトンボですが、夕方になると一カ所に何十ものチョウトンボが羽を休めます。

茂木さんにとって不思議な場所を閉めているチョウトンボがそんなに簡単に見られてはいけないのかもしれませんが、それは幻のように美しい世界です。写真を紹介いたしますので、よろしければごらんになってください。

http://maboroshinomori.cocolog-nifty.com/photo/2007/07/post_9d85.html

投稿: 幻の森管理人 | 2007/07/11 21:39:38

昨晩 ひさしぶりに すこしタカイ(カタイではない 念のため)

日経新聞を手に取り・・しかも朝刊が数部ラックにあり
営業、編集の皆さんお気の毒・・一番好きな最終面を開いて
おどろく!!(驚愕!といっても過言ではない)

な 長嶋茂雄さんが なんと「私の履歴書」の9回目を

しっぴつ・・しそれがりんてんきに>>いま私の目のまえに!

ふところがさびしかったが 迷うことなく 140円を・・
この一大事に ツレ(関西弁で'ダチ'のこと)と駄弁ってる
しょーもないアホで間抜けなコンビニ店員に
殺気を感じさせながら・・ 渡す わかってるやろな おまえ・・の
ひと言 も忘れずにね♪

これからフトコロニ余裕ガアルトキハ 2部カウゾ!

この シアワセが せめて日本シリーズ ワールドシリーズ迄
つづきますように 神様!

やはり 神様は オラレルと おもうノデアル

>>なんと まさしく本当にいま! Hey Jude が流れだした♪

投稿: 風のモバイラー&野村和生 from nomgroove.com | 2007/07/10 5:59:05

ゆくえしれず >> 魂の消息 をめぐって ふたたび


TO BE A ROCK, NOT TO ROLL


'Stairway to Heaven' by Led Zeppelin


体調を崩してかれこれ一週間程 昨夜いよいよ野垂れ死にか・・
との想念も脳内を駆けめぐりだし やっとのオモイデ 此処
京 山科の茶房「侍文系8810」に辿り着く すでに夜半をマワッテ

逗留二日目・・
夜更け・・ というより 正確には十日の明け方

きのう茶房の二階に厄介になり 身を横たえながら(失礼ながら・・)
先生の「偶有性の自然誌」の講義の音声ファイルをクリックし
ハナシの「枕」・・あたまの部分を過ぎいよいよってとこで・・
さきに「このヤロウガ」進まなくなっちまいやがり・・てこでも
うごかねえ

とうとう「相方」にも見放され・・疲れ果てたかたちで・・幼児の
如くで眠りに落ちた↓星も無い暗闇 Starless and Bibul Black!!

いや 星は在った・・
茂木さんが 「枕」から尋常ではないテンションで持って
語り出し ジョン・レノンが吾が息子(こ)・ショーンを歌った
'BEAUTYFUL BOY' の詩の一節を引用されて・・
シアワセな気分でさあこれからって時に・・

ずっと(U-SENで)ビートルズを大音量で聴いている
うるさい!という人は 此処にはイナイ・・


やましなに
うるさきこともなし
独りおり


>>つづく 


投稿: 風のモバイラー&野村和生 from nomgroove.com | 2007/07/10 5:03:09

 
 -50度での焚き火の話、非常に興味深い話として読みました。これはー50度が効いているのか?外なので風があったのか?気温に対して火の勢いが不足していたたのか?要するに火力が小さかったのでは?なんて色々考えて楽しんでいます。本当はどうなんでしょう。世の中自分の常識で葉判断できない、当たり前ではない事象が色々あるものなんですね。興味津々。

 トンボの話も初めてで興味を持って読んでます。蝶トンボ、一度出会ってみたいものです。

 またまた勉強させて貰ってます。感謝、感謝!

投稿: いもりんの城のブログのいもりんです | 2007/07/09 20:35:37

チョウトンボ・・・蝶のように美しく舞いながら飛ぶ不思議なトンボ、

さしもの茂木さんでも、生涯で3度しか見かけた事がないという・・・。

しかも3回とも、忘れた頃にひらりひらりと、恰も天女のように茂木さんの前に現われたとのこと。

茂木さんの人生にとって、天空を、木々の梢の間を、ひらひらと美しく舞うチョウトンボは、きっとファム・ファタール(運命の人)のようなものなのだろう。


椎名誠さんと、小泉武夫さんとの鼎談、
お3方とも、和やかな笑顔のお写真。

お心がふわっとなれて、本当によかったですね!

焚き火のお話、ユニークな「小泉擬態語」の起源のお話。


日本酒をコピリンコ、コピリンコ。と、

何だか、情景が浮かんできてしまいます…!(微笑)

それにしても、椎名さんと茂木さんはやっぱり似ているし、何時、拝見しても、素敵な兄弟って感じです…!

近いうちにお3方で、焚き火をしながらお酒をコピリンコ、コピリンコする時が来るといいですね…。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/07/09 20:10:28

 こんにちは。

 山口県は雨です。
西の景色は東と違って、
山も木々も穏やかで
森というより茂みです。

 昨日斎場の庭をふらふら
していたら、生まれて初めて
椛の花を見ました。

 ホントは昔からみていたのに
ようやく今気づいたのだろうな。

 それでも、とても嬉しくて

 私はヒラヒラと舞うチョウトンボを
見つけられるのかしらん。

投稿: konoha | 2007/07/09 19:38:20

こんにちわ

私の小学校の頃の友人で、クワガタ、魚釣りをすると、その友人だけ、
いいクワガタを採ったり、多くの魚を獲ったりしていました。何かに長けている人は、偶有性遭遇変数が高いのではないでしょうか。


すると、茂木さんは、チョウトンボ偶有性遭遇変数が。普通の人より、高い事になるのではないでしょうか(笑)。

投稿: tain | 2007/07/09 17:11:05

チョウトンボは見たことがある
多分、だけど
普通に飛んでいた

昔 糸トンボが怪我をしていると勘違いして
ヨードチンキを付けてあげていた人を見たことがある

今となっては本物かどうかも怪しい思い出だ

記憶の作り変えは誰がどうやって行なっているのだろう
自分にとっては記憶の確実性に疑問が残った糸トンボのエピソードだ

投稿: climb decoy | 2007/07/09 15:59:38

<チョウトンボ>検索して写真を見て、わああ、びっくりしたー、
本州から九州にいる、とあったので、いつか、見られるかなあ、
今日、輝く未来の時間、を想像できました。

投稿: F | 2007/07/09 15:06:08

茂木さんの目の前にチョウトンボが現れたのは
20年前、10年前、そして2週間前でしたが、
あの優雅なチョウトンボが、
目を回すくらい忙しい茂木さんになってきたので、
4度目は、たぶん、すぐにやってくると思います。
ただし、
茂木さんがチョウトンボのことを
忘れさえしなければ(笑)

私が生まれ育った沖縄には、
オキナワチョウトンボがいますので、
沖縄に行かれることがありましたら是非、
オキナワチョウトンボをみつけてあげてください♪

投稿: 新屋敷 恒 | 2007/07/09 14:14:46

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