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2007/04/20

「今、ここ」を引き受ければ

インターネットの時代の
問題点の一つとして最近考えているのが
「スケーラビリティ」の問題である。

友人というものには、適切なサイズが
あるのだと思う。

一人ひとりと、「その人ならでは」
という形で向き合わないと、人間の
コミュニケーションが持っている本来の
豊饒に出会えない。

私が「ソーシャル・ネットワーク・サービス」
(SNS)に懐疑的なのは、この
スケーラビリティの問題をクリアして
いないと考えるからである。

生命の愛おしさは、「今、ここ」
という限定から逃れられないという
ことの中にこそある。

もし、「今、ここ」の自分の精神と身体が、
世界に散らばった何億もの可能態の
一つでしかないとしたら、一つひとつの
アップダウンなど、それほどの関心事で
はなくなってしまうであろう。

神にとっては、この世の生きとし
生けるものは、チェスの駒に過ぎないかも
しれないが、
私たちが救われるのは、
たった一つの小さな生命の喪失を
世界全体が哀しんでいると感じる
時ではないか。

意識なんてものを持ってしまったから、
私たちは死を恐れるが、
しかし、だからこそ、「今、ここ」の
このちっぽけな命を少なくとも「私」
だけは愛おしんでくれる。

あるいは、他人との共感のうちに。

盛田英粮さんにご依頼を受けた、
Young Presidents' Organization
の来日メンバー向けの講演。

 銀座のソニービルにて。

 タイトルはThe Creative Brainで、
脳の創造性の基礎と、不確実性の
存在下でのdecision makingの話を
させていただく。

 アメリカを始めとする各国からの
参加者はとても熱心で、
 質疑応答も活発で私にとっても
面白かった。

 「英語モード」は実に愉しい。

『プロフェッショナル 仕事の流儀』
の収録の後、六本木に移動。

 六本木スタジオにて、
 松本人志さんとお話する。

 松本さんは、何かを語っている
時に、自分自身で「ふふふ」
と笑ってしまうことがある。
 これが、松本さんの芸の本質を
解き明かす一つの鍵であると
私は以前から思っていた。
 
 松本さんは、「ボケとツッコミ」
の「ボケ」の方であるはずだが、
発言内容としては、実は世間の常識というもの
全体に対して「ツッコミ」をしている
ようなもので、
 本来「ツッコミ」であるはずの
松本さんが「ボケ」として成り立っている
ところが、また面白い。
 
 松本さんの笑いの背後には、「怒り」
があるという。
 小さな子どもの時、三日連続で
雨が降った時、
 松本さんは天に向かって「馬鹿野郎」
と叫んでいて、兄に、「お前は何をしているんだ」
と言われたそうである。
 
 普通は、世間に対して怒って
批判する人は、ただ空気を冷えさせる
だけなのに対して、
松本さんの場合は、本人が怒って言っている
ことが笑いになってしまうのだ。

 ちょうど、触れるものが全て黄金に
なってしまった古代ギリシャのミダス王
のように、松本さんは触れるものが
全て「笑い」になってしまう。

 「時には真面目にとられたいことは
ないんですか?」
と聞くと、松本さんは
 「それはありますよ!」
と答えた。
 そのやりとりが、またもや
笑いとなってしまう。

 ご一緒した有吉伸人さんと
「いやあ、面白かったですね」
と感想を言いながら歩く。
何となく一杯飲みたくなって
実に久しぶりに「もぐらのサルーテ」
に行った。

 塩谷賢と学生時代に通った店である。

 有吉さんの京都大学時代の後輩の
小松純也さん(フジテレビ)は、松本人志さんと
大変親しい。

 そんなこんなを有吉さんと話しながら、
カウンターにて楽しんでいると、
 マスターに意外なことを聞いた。

 「もぐらのサルーテ」は、今月の28日
で閉店するというのである。

 「えっ!」
と驚いて、それから、私が愛した、あの、
もぐらがグラスを挙げている意匠に
触れられなくなるのかと思い、
とても寂しい思いがした。

 世にバーは数々あれど、「もぐらの
サルーテ」は特別である。

 何かに引き寄せられるようにふらふらと
入って良かった。

 「今、ここ」を引き受ければ、目にする
ものは全て黄金になるのではなかったか。


私の愛した「もぐらのサルーテ」


六本木スタジオにて、有吉伸人さんと。

4月 20, 2007 at 08:49 午前 |

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コメント

!!
>> もぐらのラルーサってああた!

せっかくかっこよかったのにい!

椅子からずっこけたぜBaby

BY 風のモバイラー FROM nomgroove.com

投稿: 野村 和生 | 2007/04/23 13:48:56

All things must pass という永遠。 


>> NHK-BS で レッドソックス vs ヤンキース

やっぱこのカード盛り上がるなあ。

ましてや松坂、岡嶋 登板だし。7-6でボストンがリード

いまヤンキース・ポサーダの火の出るよなライナーを

セカンド・ペドロアのファインプレーでスリーアウト。8回終了

やれやれ・・ 

もぐらのラルーサ が閉める

リックの店も今はもう・・

ジェイズBar はどうか

サントリーwaiting bar アバンティ はどうだ?

いまもやってんのかな? 茂木さん出たのかwere you on the air?

そして、僕の好きだったカフェ 大阪心斎橋界隈の

SOPHIA 、セラバーナカタニ、cafe colombia は

もうない。

すべては過ぎ去る >> 祇園精舎の鐘の音

諸行無常の響きあり >> 盛者必衰の理


すべての家電製品は壊れる。十年もすれば・・
(ネオ・ハードボイルドロマン「さらば愛しのmac.よ!」発端より。

現在 第二部 配信中・・コマーシャル挿入)

all things must pass という永遠。


・・松坂大輔 フェンウェイパークで初勝利! ・・

昔々、Beatles というバンドがあってさ(笑)

最近の若い人、彼らを知らないってひと、意外に多いんで

びっくり。ここ南河内(むら)だけなのか??

ここは辺境で偏狭で偏狂だからな(・・あっぶねえなあ)

かれらは東洋趣味に傾斜し、サウンド面では

ラビシャンカールのシタールに着目した

その成果は アルバム・ リボルバー と 

サージェントペッパーズ~ で聴ける

かれらはそんな風にして、大きな弧を描きながら

結局、事実上のラストアルバムAbby Road で

完璧ともいえるROCK'N ROLLを披露する

・・つまりは

かれらは時代と踊った

最も才能あるダンサーたちだったのだ

河合ハヤ(変換しろよ)雄先生が ユング(東と西の出会い)

についての著作や講義のなかで、十牛図について語り

桂 枝雀師匠が ワレヲワスレルことのシアワセヲ高座で

夢見たとき

時代は1984年を目のまえにしていた・・


Dance away!! とブライアン・フェリーは言った

>>つづく

(懐かしー)

投稿: 野村 和生 | 2007/04/23 13:24:43

R30撮れてませんでした。
「今ここ」を失う意味を考えています。

色々と落ち着いてきましたら、何だか、あれれと、寂しい気分です。結局自分の選択は何も得ていない。

澱が自動思考を作るように、仕事にイエッサーの自分が「選択する」よりも前に、答えを決めていました。
私は今まで「今ここ」について、考え、感じてきたかしらん。気づいてきたのかしらん。

他に手段はあるはず。無茶な要求を拒絶すれば、組織が別の構造を作る。そんな臨界点を越えるという流れもある。

自分の「社会的必要性」を信じることや、自分で「社会の整合性がとれる」と信じること。パワーになるなら悪くはないですが、それらに過剰支配だけはされるなと言い聞かせることにします。

「今ここ」が消えていったことにも気づかないまま、灰の跡形をただ眺め、はて、これは一体何だったんだろうかと呟く空しさだけはもう勘弁。
振り返ってみたら寂しさを埋める何物も持たないなら、結果で何かに気づくべきでした。実践って本当に難しいですね。

今は先生に甘えさせてもらう気分で、頼りながらも、次は必ず気づくぞ、人生を読み解くぞ、エイヤ!と思います。
しかし今、目の前の問題は、未来を読むことみたいです。うーん、に、苦手なのに。りょ、量が。

モグラのサルーテ可愛いですね。
サルーテも先生に会えなくて寂しがっている気がしますよ。

投稿: pipin | 2007/04/23 3:48:14

はじめまして。
朝カルでも出ていたスケーラビリティのお話。
人は自分の体の制約からは抜けきれない、ということなんだと思います。
1日が24時間で、自分の体力の限界までしか引き受けることができない。
こういった制約も、人生に彩りを与える一つの要素なんだと思います。
一方で、例えば会社の経営となると、このスケーラビリティの克服が、会社が大きく発展するか否かを分ける、分岐点となりうるのではないでしょうか。
社長が1対1の関係、もしくは社長が含まれた関係でなければ社員を保てなかったり、全ての課題解決に社長が含まれていないと前に進まない、ということになるとその人の体力の限界が会社の限界ということになってしまうんだと思います。
代替できない、しないところにはスケールが発生しない、ということなんでしょう。
人間関係なんか、まさにそうですね。

投稿: Lotus | 2007/04/21 11:33:42

もぐらのサルーテ…なかなかに味わいぶかいステンドグラスが好い。ワイングラスを手にしたもぐらが愛嬌あり。

…若い日に通って、馴染みになった場所がなくなるのは実に寂しい。私も同感です。なくなる前に入ってよかったですね…。

神・天の視点から見ればたしかに、我々生きとし生けるものたちはチェスのコマか将棋のコマに過ぎないだろうが、地面に足を張って生きている我々にとっては一つの生命の喪失は、眼に見える世界が哀しく見えるほど辛く、しかし、いとおしく感じられる。そこに一つの大きな“救い”がある。


今、ここにある命というのは、かけがえのないものだからという意識があるからこそ、我々は死を恐れるのだ。死を恐れなくなったら、生命のかけがえのなさ、掛け値なしの大切さというものは、ないがしろにされてしまうのではなかろうか。(第2次大戦中の日本がそうであった)

ダウンタウンの松本人志という人は、きっとイギリスのコメディにおける批評性のある笑いに通じるセンスを持っているんじゃないか。あるいはそれを一種超えたそれを持っているのかもしれない…。


まっちゃんの怒りは全て笑いとなる・・・そこがひょっとしたら、英国コメディの人のセンスを越えているのかもしれない。

まっちゃんは、笑いの世界におけるミダス王のような存在なのだろう。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/04/20 23:12:05

「今、ここを引き受ける」っていい言葉ですね。

ある年齢を過ぎると、
今までの人生をもはや自分自身に隠すことが出来なくなるようです。
今この瞬間の自分は、
ここまでの自分の歴史を全て集約したものとして現れてしまう。
そんな気がします。
今のネガティブさは自分の歴史をネガティブにしてしまう。

生命を大事にするとは、
自分を大事にする事であり、
それはとりもなおさず今、この時をちゃんと生きる事だなぁ、
と思ったりします。

「黄河の流れ」を見て、
愚か者は火と見る、
凡人は川と見る。
賢人は黄金と見る、
なんて言葉を大事にしていた時期もあったんだ!
と今日は思い出させてもらいました。

投稿: hayashi | 2007/04/20 22:51:04

まさか!!
ダウンタウンの松本さんとお話されたとは、
実は以前からこの対談があれば面白いなと思っていたのですが、
なんと実現したとは。
お二人の、静かなる爆発的な対話が見えてきます。

なにか雑誌か番組かの企画でしょうか?
絶対に見てみたいです。
宜しければ是非書き込み等していただけたらと思います!
ああ、楽しみです!

投稿: masa | 2007/04/20 21:09:48

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