« 『ひらめき脳』18刷 | トップページ | 『走れメロス』じゃあるまいし »

2007/03/18

地球はぶぶんぶぶんと

 金曜日。
 ゼミで、野澤真一が統合失調症と絡めて、
ドーパミン系の働きについてレビューする。

 野澤は、一貫して「うつ状態」の問題に
関心を持っていて、しかしそれはなかなか
リサーチとして立ち上げにくいからと、
随意運動の問題へと「着地」したはず
であったが、
 金曜日のレビューはまたもや「先祖返り」
したようにやっかいな精神性のことを
扱かおうとしていた。

 私は、困ったなあと思いながら野澤に言った。

 君がやろうとしていることは、普通の
修士論文のプロジェクトとしては重い。
 普通の10倍くらいの文献を読まなければ
ならないんじゃないか。

 君は「自発性」というけれども、
それが何であるか、きちんと記述しようと
思ったら、関連したことを言って
きた人たちはたくさんいるわけであるし、
一度それらの流れを押さえなければね。
 
 それと、どこかの時点で、精神科の
人と話した方がよいんじゃないか。
 野澤が興味を持っているモルキュラーな
アプローチからpositive symptomとか
negative symptomの問題に取り組んでいる
人は誰なんだろう?
 そういう人と、一度discussionして、
野澤が今考えているようなことが
的が外れてないか、ヘンなクセが
ついていないかどうか、チェックして
もらった方がいいんじゃないか。

 そんなことを言いました。
 野澤クン、がんばってください。

 土曜日。
 NHKの仕事で、東京国立博物館
にてレオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』
を見る。

 以前フィレンツェで見たことがある
はずなのだが、その時はあまりじっくり
観照できなかった。

 遠くの山を包む白い光の空気感。

 天使ガブリエルの足下の花々は、
日がかろうじて差す水の中をたゆらう海草
のように揺れる。

 しばらく『受胎告知』を見てから、
まわりの様子を見たら、
 壁も、自分の服も、リュックも、
すべては生きて、うち震えている
ように思えた。

 ふだんは「ああ、モノか」と通り
過ぎているものたちも、
 ゆったりと真剣に向き合えば、
本来の潜在的な力動をあきらかにする。

 松本和也アナウンサー、渡辺満里奈
さんとお話する。
 仕事を離れて楽しかった。

 朝日新聞の赤岩さんにお目にかかって、
昼食をご一緒する。

 研究室の合宿へ。
 三石海岸で、さまざまなことを
話してから、湯河原の宿に入った。

 4月からオリエンタルランドで働くことに
なった東京芸術大学の植田工も合宿に参加。

 植田は、
 いろいろと不安だと言う。
 新しいことにチャレンジする時は
誰でもそうだ。
 でもね、そのいたたまれなさの中に
未知のものへの胎動があるんだよ。
 『受胎告知』に描かれているように。

 朝、温泉に入ってお湯の表面のあぶくを
見ていたら、
 結局意識も生命もこの宇宙の万物が
「動く」という神秘に基づいている
んじゃないかと思った。

 だったら、すべてのものが「生きている」
のは当たり前だ。

 物理学は後づけの「世界線」としての
万有のあり方を記述するが、
 「動く」ということの本質は未だ
とらえ得ていない。
 
 水が動き、空気が動き、地球はぶぶんぶぶんと
宇宙空間を動いている。

 だからこそ、私の生命も、意識もある。

 ささやかな「湯河原の悟り」である。

3月 18, 2007 at 09:37 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 地球はぶぶんぶぶんと:

» 自由と制約の妙・・・ トラックバック なんでもあり! です 私の日記!! 
   果報は寝て待て、などと申しますが    昨日は、私的に    『家宝』とでも言いたい本を手にいたしました。    生文字はとても温かい…    ええ、とても、とっても素直に嬉しいです。    *    普段はニュースや、少しの番組を除いて    ほとんどテレビは見ないのですが、    たまたま、家族が見ていたドラマが目に入りました。    全体のストーリーはわかりませんが    猿の次郎が出てくるドラマの一場面・・・    役名が解らないので、役者の名前で記します。   ... [続きを読む]

受信: 2007/03/18 9:55:09

» 受胎告知(4) トラックバック 徒然なるままに
マリアが着ている服に着目すると、 赤いドレスに青いマントを羽織っています。 これは伝統的な描き方で、 多くの作家がこのように描きます。 何故なら色にも象徴があり、意味を持つからです。 では意味を今回は分析してみましょう! ■青 空の色である青は、無限に続く深さを表します。 また、空気のように澄んでいる事、清き事を象徴し、 神性も象徴します。 ■赤 赤は火の色である故、生命の象徴と言えます。 しかし、血の色でもあるので、死の意... [続きを読む]

受信: 2007/03/18 15:09:53

» 専門外のことに大胆に取り組む場合の基本動作 トラックバック fwdsの日記
http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2007/03/post_a16d.html とでも名付ければよいのだろうか。茂木さんのこのコメントを読んでいて、状況は違うが自分が普段時々職場の若手にアドバイスしていることにとてもにていることに気がつきいた。ありがとうございます。 君が... [続きを読む]

受信: 2007/03/18 17:34:09

コメント

地球はぶぶんぶぶん...
う~ん...
もうちょっと密やかに動いているような気がする.
uuu...n uuu...n
こんな感じかな.
ぶぶんだと,振り落とされちゃいそうで怖いから.

投稿: | 2007/03/22 10:16:48

春に受胎告知をご覧になるなんて、いい状態で繋がれたのではないでしょうか? それも特別にゆっくり母国の空気の中で・・茂木さんって本当に選ばれた方なのですね
告知まで受けられたみたいで・・素晴らしいものは血が新しくなるようにオモウ。幼稚園で初めてもらったお誕生カードの表にあの絵がありました。絵の神秘的さに怖さを感じたのでした。問いかけられ続けています。「胎動」がキーワードなのかな?

ディスカバリーと国際宇宙ステーションのニュースをテレビで見ている瞬間、後ろに映っている地球におもわず「わぁ動いてぇいる!よぉ」てすごく感動!!した日がありました。動いていると知っていたけれど、青い地球は大抵写真だったから・・・。百聞は一見にしかず・・
地球は偉いなぁ あくびのときもちゃんと守ってくれていて。

投稿: | 2007/03/19 21:19:53

現実世界で色々発生した疑問や問題点が
私の中でワアワアで
一気に削ぎ落とすために
車で河口湖までゆくことにしました。

真にリアルのギリギリの感覚は
問題を順に喰らってゆくので
自分の中での優先順位が明確になります。
昔から利用している方法ですが
まあ絶対にお薦めしません。

談合坂のSAではすっかり身軽で
売店のおばさんに真夜中は危ないから
河口湖はやめた方がいいと言われてあっさり了解。

横風すげーし
なによりさむーし
暗闇も山もこわーで
コーヒーうまーで
美味しいものってホントにエライ。

己のバカを自覚すると
同時に色々バカバカしくなれます。

よし。


先生が野澤君に言うことは痛いほど。
だから現実世界に我が身を置きましたが
でもまた霧になりたい。
ネガポジについてが、まさに。

自分をわかりたい人と
先生をわかりたい人と
先生にわかって欲しい人と
先生にしかわかって欲しくない人とがいるとしたら

私もわかっていると頑張ってみせるよりは
いかにわかりやすく外すかが重要なのだと
勝手に役割を感じていました。

「後出しジャンケンも酷いし、
何よりネガポジなんてくだらない。」
あの場で全員がそう思えたらいいという
気持ちの悪い自分の予定調和の在り様を
人の作品を通してただ見つめていました。

まあ、そういった山のような後悔すら
中央道の闇の中に捨ててきました。

私がパロールを鍛えるには
まだまだかかりそうです。
ある程度訓練して自己制御できるようになったら
相手してやってください。
まだ先生と話す次元ではないとつくづく自覚しました。

先ずは本を読み終えます。
課題図書3冊未だ読み終えず。
2週間で読めるかな。


そういえば野澤君の話で思い出したのですが
2年前、NSビルの1Fで
「モルヒネを末期がん患者に痛み止めとして
利用する為の法的規制緩和を求める運動」が
麻酔医師連によって行われていました。

早速質問相談コーナで医師だか麻酔技師だかを捕まえて、
「モルヒネって依存症にならないんですか?」
と適当にカマトった後に

「ところで、思考に支配されている人って
頭の中に常に脳内麻薬が出ているんですか?
食、性、睡眠、排泄、それと同じで
思考も快楽欲なんじゃないんですか?」
と聞きました。

彼はキョトンとしたあとニヤリと笑って
「君はいい人に聞いたね。僕はね、
丁度分裂病のその研究をしていたんだよ。
ただ、結論から言うとね、何もみつからなかった。
何の関連性も見つけられなかった。
何の分泌物も検出できなかったからやめざるを得なかった。
でも今でも必ず関連はあると信じているよ。」

そうご回答いただけました。

論文を見たわけではないのですが
これも私の中では大切な「点」です。
中途半端ではありますが、もしも野澤君の
何かの役にたてましたら幸いです。


さて
仕事が少々危険です。

今回のプロジェクトは7年共に戦ってきた
戦友の評価が決まる企画でもあります。
完全集中する為次回講義までの2週間、
短い期間ですが筆を置きます。

桜見れるといいですね。

見たら日記にご報告ください。
私の「点」に致します。

投稿: | 2007/03/18 19:49:43

今日の日記では、ダヴィンチと並んで主役をはってましたね>野澤真一さん。公開指導。いくら、なかなか大学で会えないからと言って。
大変困難なテーマに取り組んでいらっしゃいますが、次回日記に登場される時は、きっと茂木先生から「よくがんばった。脱帽だ。ぱちぱちぱち」の一言が添えられていることでしょう。
がんばれ~(^_^)/~
先日の飲み会でご一緒したrenrenでした。

投稿: | 2007/03/18 18:18:49

        地球は 部分と 部分と

        統合失調症で 出来ている。

  僕も 私も              統合失調症

     ばれてる人と  ばれてないと思ってる人

           それだけのこと

     クヨクヨクヨクヨ ナヤマズニ オソトニ デカケテミマショウネ 


         

@軽症は 好都合○  重症は  不都合●  それだけのこと

投稿: | 2007/03/18 16:02:41

茂木さんの著書「脳」整理術の中で快適刺激も傷になることを知った。
傷は、悪、忌み嫌うものという概念が崩れ去った瞬間だった。

「受胎告知」というフィルターを通して輝く世界を垣間見る。
絵画の快適刺激のなせる業。
生病老死を深く感じる時 世界は今までと違った輝き、姿で見える。
その感覚が、永劫に持続しないっていうのが、私が凡人であるがゆえ。

仏教の教えに 恋愛の苦悩が無いのはどうしてなのかと
生病老死と書いて気がついた。
恋愛感情は、コントロール不能で
ぶぶんぶぶんと勝手にかなり激しく心が活動するのに。
ドーパミンも大放出され、
心をなだめるためのホメオスターシスもフル稼働であるはず。
「愛する」という概念が日本語には存在しなかったという
茂木さんの今朝の新聞コラムに通ずるのでしょうか?

投稿: | 2007/03/18 14:47:43

生命って何がしたいんだろう。
なんでこんなに愛しいんだろう。

この間見た春の海はきらきらとまぶしく輝いたり、
雲がでて不安定な反射をしたりしていました。

新しいことに踏み出すときの気持ちのようでした。

植田さん、いろんなことに出会って、がんばってね!

投稿: | 2007/03/18 11:51:19

水も空気も、森も山も、そして意識も生命も、
すべては生きて、動いている。

宇宙空間で、地球はぶぶんぶぶんと、動いている。
その上で茂木さんも私達も、ぶんぶんぶぶぶん、と動いている。

それらは、もしかしたら宇宙を貫いている
万物流転(Panta Rhei)の生命の法則にのっとって、生きて、動いているのではないか。

いつもそんな事を感じている。

服、持ち物、壁、うっかりすればモノとして
見過ごしがちなモノタチも、
真剣に悠然と向き合えば、
モノの中に内在せる本来の力動が垣間見える…。
その中には流転する生命法則が秘められている。

全ては生きている、万物は動く、という考えかたは、仏教の哲理と通底する。

仏教では成・住・壊・空という「四劫」という分類で
万物が「動く」ことを説明している。

成(成劫)は生成と成長、住(住劫)は定着と維持、
壊(壊劫)は崩壊と分解、空(空劫)は新たな成劫が
生まれる為の空白状態を示すとする。

宇宙に遍在する万物、また宇宙自身は
この四劫を永久に繰り返して存在していると、
仏教では教えている。

生きて呼吸しているものも、そうでないものも、
みな本来の潜在的な力動を秘め、
その力動の中に、流転する「四劫」の法則を
秘めているのではないだろうか。

きょうも、万物はぶぶんぶぶんと、
生きている…。
フラワーピッグも我々も、水も、草木も。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/03/18 11:25:12

「結局意識も生命もこの宇宙の万物が
「動く」という神秘に基づいている
んじゃないかと思った。」を読んで、ユングの「死者への七つの語らい」に出てくるアブラクサスを思い出しました。
善か悪かのどちらかでもない「作用の神」。」なんか深い感慨に浸らされて頂きました。
ありがとうございました。

wasser

投稿: | 2007/03/18 10:05:20

コメントを書く