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2007/03/06

銀色の弾丸

菅原ますみさんにお目にかかる。
 幼児の発達がご専門で、お茶の水女子大学
で教鞭をとられる菅原さん。

 子どもの成長についての「本当のこと」が、
世間では案外認知されないと嘆かれる。

 どのような方法であれ、それ一つで
発達の問題が解決するというような
「銀色の弾丸」があるはずがない。

 アメリカの認知発達の研究コミュニティ
では、子どもの「可処分時間」を
どのように様々な活動の間で分配するか、
その多様性こそが重視されていると
言う。

 日本では、モノカルチャー的な
議論が受け入れられがちだ。
 百マス計算であれ、フラッシュカード
であれ、
 たった一つの方法で認知発達の
問題が一挙に解決されるはずがない。

 「詰め込み教育」と「総合学習」
どちらが望ましいか?
 答えは、「どちらもやるのが良い」
に決まっている。

 コンピュータか自然の中の生の体験か、
という問いの立て方もしかり。
 AかBかという問いに対しては、
常に、「AもBも」という答えが
正しいに決まっているのである。

 ただ、限られた時間の中で何を
するか、
 その選択と優先順位の付け方に
世界観が現れる。

 菅原さんに、Judith Rich Harrisの
興味深い論文を教えていただいた。

http://www.apa.org/journals/features/rev1023458.pdf 

 Harrisは専門の研究者
ではないが、心理学会で最も権威のある雑誌の一つ
Psychological Reviewに、パーソナリティの
発達に関する論文を発表して、学会賞
(George A. Miller Award)を受けた。 
 
 ハーバード大学の修士課程から
博士課程に進む際に、教授から「追い出された」
というHarrisの長年の探求が結実した
論文。

 このような「アウトサイダー」の事績をきちんと
評価できるコミュニティーは健全である。

 Harrisのレビューは、子どもの発達においては
両親の役割と同じくらい子どもをとりかこむ
同年代の子どもたちのグループの影響が
大きいことを論じたもの。

 「幼い時は母親が家庭にいなければだめだ」
などという俗論がまかり通る日本との
風土の違いを感じる。

 思いこみによる議論は、単に害がある
というだけではない。
 何よりも知的につまらない。

 evidenceに耳を傾けるということの
大切さを思う。

 三枝成彰さんのご紹介で堀紘一さんに
お目にかかる。
 豪快な方だった。

3月 6, 2007 at 08:27 午前 |

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コメント

細かいことですが「銀色の弾丸」ではなく「銀の弾丸」ではないですか。
「銀の弾丸」とは、狼男を殺せる銀の弾丸のような絶対的な方法のことで、「銀色の弾丸」じゃ狼男は殺せないでしょう。

投稿: | 2007/03/07 18:13:31

そうですね…、教育活動に特効薬はありません。

知識の授受の効率性や耐性を高める、また1対多のやりとり
や生徒間のコミュニケーション活動の中で埋められる理解…
など、一斉授業で享受できるものはまだまだ多くあるように
思います。ただ、それはあくまでも概念、スキーマの獲得で
しかなく、各自の体験から直接得たものではない…。だから
生きた知として醸成させる場合、獲得した知を生かした本人
の創作的活動の場を保障する必要があります。そこに総合的
学習の存在意義が見出せます…。

ただ実際、教育活動に携わる身からすれば、時間的制約など
教育を取り巻く様々な障壁にジレンマを覚えます。だからこ
そ子どもたちに豊かな学びをどのように提供できるかは真摯
に向き合わなければならないのでしょうが…。

投稿: コロン | 2007/03/07 4:52:56

百マス計算といい、フラッシュカードといい、
それ単体では子供の認知発達の問題が
一挙に解決するわけがないのは理の当然である。

しかし、
日本の教育界は如何せん、
「有効な一つの処方箋」
を求めがちである。

「つめこみ教育」なら「つめこみ」の方に、
「総合教育」ならそっちへ偏重しがちだ。

茂木先生のおっしゃるように、
どうせなら両方やってしまえば正解なのに、
何故か一つのやりかた(モノカルチャー)にコダワル。

本当に未来を切り開く力を持つ、
人間らしい人間を教え育む為には、
これらの偏重傾向は是正しなくてはならないだろうし、

また、母親を無闇に家庭に縛りつける、
という日本の風土にこびりついている
古い俗論を排し、
子供が人間らしく成長する為のやりかたを
模索していかなくてはなるまい。

「アウトサイダー」とされる研究者の意見や
考えを参考にするのも一考だろう。

日本は未だに、教育の役目を
母親に押し付け過ぎてはいないか?

教育というのはみんなで
担い合うものではないのか?

昨今の悲しい事件を見るたびに思う。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/03/06 19:01:45

毎度、誠に参考になります。ありがとうございます。
なんかこう自分の中でもモヤッとしていたものが
スッキリした感じです。

投稿: HogeHoge | 2007/03/06 15:40:40

冒頭の文章の強い調子から
ああ、しまった、やっぱり
申し訳ないと思います。
読み勧める迄も無い位。

匿名の立場から好き勝手なことを言って
つまらないことをウダウダ書いて
いつもズルくて申し訳ないと思っています。
何より色々と助けてくださってる先生を
不快にさせてしまってすみません。

松山といい、ユング心理学会といい
今日のことといい、
毎日宝のような経験をしていると
常々思っています。
もう少し考えてからものいうようにします。

投稿: | 2007/03/06 14:27:06

「思いこみによる議論は、単に害があるというだけではない。何よりも知的につまらない。」なるほど、と思いました。新たな知を得る為に議論をするのに、俗説や思い込みは邪魔なだけですね。
小さな子供を保育所に預け出してからのめざましい成長ぶりを見て、一般に出回っている育児書の内容の中にはあまり参考にならない(頼りにするものではない)物もあるのだなと実感しています。生の人間とのかかわり合いがどれだけかけがいのないものか・・・!

投稿: | 2007/03/06 12:51:01

前日、前々日の講演に参加させていただきました
愚かなことで両日とも遅刻してしまったのですが
情けないことにそんなに遠くはない(川崎住まいなのに)のに都会に慣れていないせいです
(更にあり得ない話ですが特に渋谷が迷ってしまい絶望的でした)
前々日のプロフェッショナルの講演は横井さんの話が面白すぎて参考にしようと言うより、持って帰って友達とかに聞かせてやろうという気持ちで聞いてしまいました
茂木先生は叡智が詰まっているとおっしゃっていました、多分無知の僕には分からない独自の哲学の上で出した答えあってこその話だったからでしょう

また、前日の霞ヶ関の講演では年齢層が高かった故か派手な話はなかったですがお笑い芸人のトーク割り込みバトルとかの話は面白く
また、足りないモノの話はこれまた持って帰って使えるモノで、一緒に行った弟とも帰りにその話で盛り上がりました
弟は僕は名前は忘れましたがイルカとか無重力とかを研究しているマッドサイエンティストの話をもっと聞きたかったけどあの場所じゃ無理だろうなぁと言っていました、そこにオモシロいものが隠れていたかと思うと残念ですが
また、機会があったら足を運ばせていただこうかと思います
(なので4月の芸大の授業な内容が楽しみだったりします)

それでは、ご健康とご検討をお祈りしております

投稿: | 2007/03/06 12:04:03

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