私はどうやら
あれは、田森佳秀と理化学研究所で
同僚だった頃の話。
ある学会で、田森と喋っていて、
ある人の理論はダメである、意味が
ないとしきりにくさしていた。
田森はにやにや笑いながら、私の
相手をしてくれていた。
ひとしきり喋って、「お昼に行くか」と
立ち上がった時、
近くにいる知り合いに「一緒にいきませんか」
と声をかけた。
田森が大声で笑った。
その人は、それまで口をきわめて
非難していた、まさに当該人物だったからである。
何が起きていたかと言えば、
実は声をかけた時にはその人だという
ことを忘れていた。
理論のことにあまりに夢中になっていて、
「目の前の人はまさにその当人だ」
という単純なる事実に気付かなかったのである。
「忘れること」の大事さを
考えていて、何となくそのエピソードを
思い出した。
人間というものは、生きている
うちに様々な体験をして、「澱」
のようなものがたまっていく。
その「澱」にとらわれてしまうと、
純白なる生きる力が失われる。
過去にがんじがらめにとらわれて
しまって、
時に自己嫌悪に陥ったり、撞着したり、
ただひらすらに前進するモメンタムが
失われる。
だから、「忘れる」力が大事である。
忘れるといっても、本当に消えてしまう
わけではない。
心配しなくても、脳の中にはちゃんと
痕跡が残っている。
過去に何があろうと、「今この
瞬間から」と前に進めばいいんだ。
本当は痕跡は残っていても、
それとは関係なく「空白」をつくり出す
能力。
そのような能力を、私たちは持った
方がいい。
一週間、あまりにも多くのことが
あって、呆然とするが、
とりあえず忘れることにした。
私はどうやら今朝生まれたばかり
のようらしい。
世界がすべてキラキラと新鮮に見える
のである。
3月 31, 2007 at 09:19 午前 | Permalink
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 私はどうやら:
» 忘れる トラックバック 文系人間の公務員試験~別館ブログ~
今日で平成18年度も最終日です。
明日から平成19年度。
私の公務陰歴、5年未満は今日で終了です。
明日になれば6年目突入です。
あと少なくとも5年間はヒラのままの予定です。勝手にそう思っています。
実際、うちの組織の年齢別の階層を見ると、この国の少子化よりもひど... [続きを読む]
受信: 2007/03/31 10:04:56
» 告白 トラックバック 御林守河村家を守る会
昨年の秋、裏庭の池の底で、
大きな蝦蟇蛙が、三匹あおむけになって死んでしまいました。
それからというもの、裏の池は死の池になってしまいました。
それから二週間ほどして池の底を見ると、
ちいさな、それは水面に目をちかづけなければ見えないほど
ちいさな生き物�... [続きを読む]
受信: 2007/04/01 0:12:37
» こんなにも動くのかと… トラックバック なんでもあり! です 私の日記!!
昨日、レオナルド・ダヴィンチ「天才の実像」展に行った。
想定の範囲内とは言え、とても混んでいた。
*
マリアの指先、ガブリエルの衣服の色…
見た瞬間から「実物の凄さ・本物の迫力」に圧倒された。
照明の関係もあるだろうけれど
ガブリエルの衣服が、血の色に見えた。
でもそれは、嫌悪感につながる血の色ではなくて
自分の体内を脈々と流れる血液が
そこに凝縮されたようなそんな感じがした…
そうして、身体中がふるえ出すようだ... [続きを読む]
受信: 2007/04/01 1:58:52
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
私の場合は、「う~~ん、う~~ん、あ~~~・・・」とひたすら自己嫌悪したり落ち込んだりしていろいろな考えや思いがひと段落決着したところで、いつも、ジャキンと切り取るはさみのイメージで一区切りします。いろいろ考えたあげくに至った、納得した形が自分の中では「痕跡として残っている」んだと思います。その痕跡が、今の自分やこれからの自分をつくっている、つくっていくような気がします。
投稿: 俊 | 2007/04/01 11:24:19
嫌な事を忘れるように忘れるようにしてきた結果、
夕方に今朝あった事もよく思い出せない、
2日前の事なんて何も覚えていない感じになりました。
すなわち僕の人生は1日単位でしか存在しません。
忘れなきゃ、人間やっていけないですよね。
記憶を「痕跡」と呼ぶのって、絶妙だと思いました。
確かに「痕跡」っぽいです、これは。
第二のお誕生日は4月1日(エイプリルフール!)
ですね。おめでとうございます。
投稿: HogeHoge | 2007/04/01 9:01:03
お久しぶりです茂木先生。
>私はどうやら今朝生まれたばかり
のようらしい。
>世界がすべてキラキラと新鮮に見える
のである。
とても素敵です。『「忘れる」力が大事である』『「今この
瞬間から」』。これらの姿勢に結びつく効果。それは本当に前進する為の原動力となるような、純粋なる根源的な生の喜びだと思います。
とてもシンプルな赤子も、このように、一部分的にスペシャルな能力を持っている。大人には無いその有能なシンプルさを、比喩として用いてくださった事で、理屈よりもシンプルに受け取る事ができました。このような価値ある理解が私に眠る常のマイナス思考をいつも吹き飛ばしてくれます。茂木先生、感謝いたします。プラス力となるとても素敵な時間となりました。
投稿: タンポポ | 2007/04/01 4:19:43
ホワイトマジシャン
茂木センセイ
ところで、サクラは、淡いピンク色ですが、白に近い色ですね@
サクラ吹雪というのは、春の雪吹雪みたいなものかしら@@@@
アハハ@@@
当方、その後、アハハ体験がしばらく停滞しています@
BSキャラでおなじみの、ななみちゃん、身長が77.7cm、体重は7.77Kg、しっぽ立ちは7.77秒。一般公募で名前を募集して、この7が3つ並ぶ数値から「ななみ」と命名されたという特徴があるのですが、これ、ラッキーセブン 777@@@アハハ@@@
わたしとしては、身長や体重よりも、しっぽ立ちというのは、ななみの大きな特徴のように思います。あれをすると、ななみは、男の子のようにも見えます@@@アハハ@@@(意味不明かも?)
ななみちゃんが、いつも、気分はほんわかなのは、「忘れる能力」があるからなのかとセンセイのログで思ったりしちゃいました@
いや、人間のように、言葉があんまりしゃべれないからか。わたしは、このななみちゃんの要素は、全身白であるという、色にあるように思えちゃいます@これは、ホワイトカラーのパワーだろうか@@@@@
アハハ@@@
センセイは、ななみちゃんの魅力を、ホワイトカラー VS 忘れる力どちらを評価されますか?どっちもっていわれちゃうかな@
ななみちゃんは、かなり重傷@
やっぱり、忘れる力なのかな@
あしたも、しあわせ、みつけられるかな@
投稿: Emi.W. | 2007/04/01 2:27:44
キラキラとした朝を迎えた先生の喜びに祝福のキス。
なんだか一緒になって物凄く嬉しい気分になれます。
「忘れる」だけではなく
次が「空白」が何だかとても見つめやすい。
今日は新宿御苑で裸足になって
寝っころがってメモに手書きで文章を書いていました。
桜が物凄く綺麗。
今日で3日連続のお花見です。
お昼休みや社内全体集会を抜け出して
同僚と来ていましたが、今日はひとりです。
今年はひとりの方がいい。
土曜だからと、人が多くて疲れるかと思いきや、
皆嬉しそうで楽しそうでこちらまで笑顔になれました。
踏まれる芝生にとっては迷惑でしょうが、
草の香りが立って、また良い。
毎年私の花見は、今年こそ見破ってやるぞと息巻いて
満開の桜を前にあっさり降参。
そして解放した気持ちで再び眺めるのです。
風が物凄く気持ちいい。
桜を見て何かを言うは今年も無理みたいです。
多分一生かかるんだろうな。
ダビンチもモナリザを一生かけて描いたというし
モネも一枚の絵に何年もかけている。
一生かかって出来ないことって沢山あるんじゃないかしらん。
多分出来ないまま死ぬことの方が多くて
きっとそんなことばかりだから人生も桜も凄くって
儚くて、いとしい。
投稿: maya | 2007/03/31 22:59:35
生きる力を、と、よく言われるけれど、
だれかに、そう言ってもらうと嬉しく思うけど、
なぜか、あんまり肝心な力は出てこない。
「忘れる力が大事」と、先に言ってもらえると、
純白なる生きる力が、すうっと目の前に現れてくれる。
自己嫌悪で、ううっ・・・となって、歩けそうにもないとき、
ワスレルチカラ・ワスレルチカラ・ワスレルチカラ
それを呪文にして、自分に魔法をかけてみようと思います。
投稿: フミ | 2007/03/31 22:41:04
ありがとう
”私はどうやら今朝生まれたばかりのようらしい。世界が…”
そう感じられる時が私にもあった。
今は怖くて そう感じないようにしてしまっているよう…
明日、ちょっと頑張らなければならない日。
過去にとらわれ、執着し、身動きとれずにいる私。
頑張る力を求めて茂木さんの日記を開きました。
いつも”忘れること”、真白い心で日々をむかえられたらと試みてはみるも頑固な私の頭は言う事きかない。
さあ、もう一度頑張ろう。
いつも温かな気持ちになります。ありがとう。
投稿: siroitannpopo | 2007/03/31 21:57:56
一週間、お疲れ様でした…。
忘れることの大切さ…今、それを噛み締めています。
何事にもとらわれすぎると前に進めないし、一歩前に進んだとき
そこに道が現れる…そんな感じですよね。
このブログの記事を読んで、すっきりしました。
ありがとうございました…。
投稿: コロン | 2007/03/31 19:24:10
ありがとう
”私はどうやら今朝生まれたばかりのようらしい。
世界がすべて…”
そう感じられる時があったような…
今は怖くてそう感じないようにしてしまってる。
明日、ちょっと頑張らなければならない日。
正確には明日から…
過去にとらわれ、執着し、そして怯えて身動きとれずにいた私
ちょうど頑張る力を求めて、日記を開いてみました。
ありがとう
”忘れて”白い気持ちで日々迎えられるよう努力してみよう。
投稿: siroitannpopo | 2007/03/31 18:11:51
昨夜の六本木でのイヴェント、本当におつかれさまでした。
“今朝生まれたばかり”のフラワーピッグこと茂木さんも、
キラキラ輝く世界と同じように
一緒に輝いているのではないか。
“忘れる”なることが、アタマにおいていかに大切か・・・。
まぁ「忘れちゃ困る」というものも
(例えば、戦時中に日本軍がアジア各地で行った蹂躙、
などといった歴史的事実、など)ありますけれど。
茂木さんのいうように、人間というものは、
人生上のいろんな体験によって自己の内に「澱」がたまっていくものらしいが、
それにとらわれないようにするのがなかなかに難しい。
でも、そうであっては清々しい生など生きられないだろう。
私は昔よく、過去にとらわれ、
雁字搦めになりすぎて、鬱に近い状態になったことがある。
今になって思えば、とにかくあの時は、
前進へのモメンタムが完全に失われていて、
にっちもさっちもいかないことがままあったものだった。
今では、ようやくある意味「忘れ上手」になり、
物事を前向きにとらえることができ、
人生の上で、前進するモメンタムを維持できるようになった。
それでも、多少は昔の癖が残る。
これが私の脳に刻印された、過去の痕跡なのに違いない。
「過去に何があろうと、『今この瞬間から』前に進めば好いんだ。
本当は痕跡は残っていても、それとは関係なく『空白』を作り出す能力。
そのような能力を、私たちは持った方が好い。」
そうだ、如何なる過去の痕跡が脳にあろうとも、
私たちは常に空白を作り出し、
「今ここから、この瞬間から」と、
未来に向かって第一歩を踏み出すべきなのだ。
茂木さんのいう、「今生まれたばかり」とは、
今この瞬間から、といった新たな人生の
出発点のことなのに違いない。
投稿: 銀鏡反応 | 2007/03/31 15:43:13
「忘れることは大事だ」といわれると、
ほっとします。
過去にあったことで自己嫌悪に陥ることもあるので。
それはそれとして、
新たに、「空白の」今日を埋めていきたいと思います。
毎日。毎日。
茂木先生、お体にはお気をつけて。
気温の変化が激しいですから。
投稿: サイン(koichi1983) | 2007/03/31 15:09:30
今朝のメールを拝見し、驚きました。
昨晩(講演会に参加)はあんなにストレスを溜めているご様子でしたのに、
なんと切り替えの早いことでしょう。
見習いたいと思いました。
投稿: APF | 2007/03/31 10:59:31