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2007/02/12

人通りの少ない道で営業している店

エンジン01は、三枝成彰さんが
主催されている集いである。

さまざまな分野の方々がいらして、
話をする。
「夜楽」では、数人の講師が
参加者と食事を供にしながら
語り合う。

波頭亮さんが主催された『プロフェッショナル』
のセッションの時にも申し上げたが、
三枝さんはひとつの理想主義に基づいて
行動されているのだと思う。
それは、昨日私が書いた「対称性」
の問題と関連している。

お昼休み、タクシーに乗って会場の
海峡メッセから唐戸に行った。

金子みすずの顕彰碑もあるという。
風が強くて、寒い日だった。

ラーメンを食べようと思ってさまよったが、
商店街はシャッターの降りているところが
多く、思うに任せない。
日曜ということもあるのだろう。

一方、
道路を挟んだカモンワーフは
大変な人出である。
現代風の商業施設。
しかし、そういうところで食べたいわけでは
ないので、もう少し粘ることにした。

唐戸の商店街をさらにさまようと、
一筋だけ、店が何軒か
空いている元気な通りがあった。
「一龍軒」という看板がある。

入ってラーメンと餃子を注文すると、
和がらしがそえてある。

餃子につけて食べると、そうするのは
初めてだったが、実に
ふさわしいような気がしてきた。

「下関もいろいろと問題がありましてね」
と店主が言われる。

「大きなショッピングセンターが建つ計画が
あるんですよ。しかし、そうなっては、せっかくの
関門海峡の景観がだいなしになる。」

「中国から来た人がね、日本にも大きな川が
あるのかと言って驚くんですよ。」

満たされて店を出た。

どうしても逃れることのできない「文脈」
というものの作用を考える時、
私は、いつも、人通りの少ない道で
開業している店のことを考える。

どんなに努力しても、人が通らないんだから
苦しい。
評判を聞きつけて集ってくるというような
道筋もあるかもしれないけれども、
とにかく基本的にはつらい。

世の中の非対称性は、時に
人通りの少ない道で開業している
店の置かれている文脈のような姿をしているのでは
ないか。

自分が先生役になる「脳」のセッション。
木村晋介さん、千住明さん、辰巳琢郎
さんとお話する予定が、
会場に布袋寅泰さんがいらして
飛び入りで参加した。

木村さんがどどいつを披露。
千住さんが深遠なる人生哲学を語る。
辰巳さんのロマンスなる人間観。
布袋さんのロックンロール精神。

四人の異なるキャラクターが
ハーモニーを奏でて、
不可思議な化学反応が起こり、
記憶に残る、本当にすばらしい
セッションになった。

「夜楽」は、私が塾長となって、
ちばてつやさん、
稲越功一さん、
ちばてつやさん、
@YOUさんが講師として参加。

ちばてつやさんの『あしたのジョー』
の力石にまつわる秘話が大変興味深かった。

打ち上げで秋元康さんと話す。

私はみなさんよりも早めに
切り上げて、
ホテルで一人、ブリティッシュ・コメディを
聴き、ドストエフスキーを読みながら
ポテトチップスを食べ、ワインを飲む。

健康に良くないのはわかっている。

昨日コンビニで見つけた
「まちのお菓子屋さん チリポテト」
というのが気に入ってしまった。

下関を発つ前にどうしてももう一回
食べたかった。

考えてみると、私とこのポテトチップスが
出会えたことも、実に奇跡的なことである。

開闢以来の宇宙の歴史の広辺たるを
思えば、
今目の前にあるどんなにありふれたものも、
本当はかけがえのない一期一会である。

ペットボトルの中の水。
名刺の紙。
ストーンウォッシュしたようなデジカメ。
携帯電話。

それらをつくっている原子たちは、
いったいどのような旅をして、
私の前に現れたのか。

かつて、お前たちは、ライオンのたてがみの
一部だったろう。
風にそよぐタンポポの花びらの中にいたろう。
どっしりと動かない岩の真ん中にぎゅうぎゅうと
つまっていたろう。

やがて、浸食され、流され、すくい上げられ、
加工され、色づけられ、運ばれ、
ようやくのこと私の前に来た。

万有のメタボリズムに比べれば、
人間の考えるリサイクルなど、
どんなにちっぽけなことだろう。

ささいなことも、かけがえない。

出会うものが
「今日は何人客がきた」というような統計に
堕してしまわないような、そんな
人通りの少ない道で営業している店を
心の中に一つ置いておきたい。

2月 12, 2007 at 08:01 午前 |

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» エンジン01文化戦略会議オープンカレッジin下関 トラックバック ~ココロ~ ◆ machiko◆
2月とは思えないぽかぽか陽気&真っ青な空の連休、 下関で開催されたエンジン01文化戦略会議オープンカレッジin下関に、参加してきました。 『エンジン01文化戦略会議の目的と理念』 ”異分野の専門家が自由な意思を持って集まり、相互に学びあい、新時代の文化を創造していくことを目的とし、この目的を果たすための活動を行う上で、公正と無私の心を基本理念とする” こんな面白そうな会議なのに、 この私としたことが、 開催を知ったのがなんと、3日前。 しかも。 年明けに市政だ... [続きを読む]

受信: 2007/02/13 0:16:33

コメント

昨日トラックバックさせていただいたmachikoと申します。
オープンカレッジ、素晴らしかったです!茂木先生の「90分でわかる脳」どうしてもチケットが手に入らず・・・・でも、「プロフェッショナル」でたくさんのことを吸収しました。実りある2日間でした。
先生が「対称であることで生まれるコミュニケーション」のことを言われていたのを思い出して、えい、やっ!と、勇気を出してコメントさせていただいてます!
またどうぞ下関にお越しください。
私のふるさとの海は、優しく、ときに厳しく、そしてどこまでも澄んで
とても美しいのです。

投稿: machiko | 2007/02/13 21:29:11

エンジン01や下関の情緒が茂木先生にとって熟思の機会となったようですね。

都会と田舎という対称性の現実を生きる人たちに息づく、本来忘れるべきでない、日常の中に無限、永遠を掴むことの重要性を改めて感じました。また、その事実が、仮想ではなく、現実に今、ここに存在する自分を意識できたように思います。

私も教師として、”出会うものが「今日は何人客がきた」というような統計に堕してしまわないような、そんな人通りの少ない道で営業している店を心の中に一つ置いておきたい。”という気持ちは大切にしていきたいと思います。


投稿: コロン | 2007/02/13 6:03:20

完全に壊れてしまっていた携帯電話が奇跡的に直りました。
それも、新しい携帯を見に行ったその日に、勝手に直っていたのです。
私は携帯を買い換えるのをやめました。
だってその携帯がいじらしくて、可愛くて仕方がなかったから。
タダ同然で並べられていたその子を、必要に迫られて手にしたのが最初だったけれど。
とても尊い出会いだったのだ、と何度も撫でてやりました。

その携帯で最初にメールをしたのは、のちに夫となる人でした。

私に出会いに来てくれたすべてのことにありがとう。

投稿: | 2007/02/13 3:54:44

なんと豪華なセッションが、
近くの下関であったというのに、
参加できず、こうしてブログを見て歯噛みをしています。
この催しを知ったときにはチケットは売り切れいたのです。
それでも行くべきだった。

今度一龍軒に行って、
追体験をしてこようと思います。

投稿: | 2007/02/12 22:49:21

今、私がここでコメントを残すことも 
ちっぽけだけどかけがえのない 出逢い でしょうか?

そう感じて頂けたら嬉しいです。

先生が自分と同じ誕生日だと知ってから
時々おじゃましています。

お体をおだいじに。
では また いつか どこかで 。。。


投稿: | 2007/02/12 22:36:01

いつもながら詩人ですね、茂木さんって。
ところで、夜楽に似たイベント「夜塾」を
ご存知でしょうか?
eAT KANAZAWAというイベントの最後に
出演者と参加者が大宴会場で呑んで
夜通し語り、騒ぐというイベントです。
かのWiiも、ここでの宮本さんと僕とトミノさんの
論争がきっかけだったかもしれないです。
化学反応起きまくりですよ。

たぶんですが、eAT KANAZAWA実行委員会に
「出たいんですけど」と言えば、お招きされると思いますよ。

>万有のメタボリズムに比べれば、
>人間の考えるリサイクルなど、
>どんなにちっぽけなことだろう。

そんな感じで、建築写真撮るのがめんどくなって、
自然風景ばかり撮るようになってしまいました。
やっぱ自然のダイナミズムは人工物のそれに比べて圧倒的です。

投稿: 中村剛志(HogeHoge) | 2007/02/12 16:47:07

茂木先生の講座を受講しました!!
最高でした!!
下関であんな素敵な素敵な講義を受けれるなんて。
アドレナリンがでまくりでした。

色々なお話の中で、琢己さんが質問されていたことをテレビを見ながら
私も疑問に思っていました。茂木先生のご意見ということでしたが、自分の中のモヤモヤが解決できました。

またぜひ下関にいらしてください!!
お待ちしています。

投稿: | 2007/02/12 16:18:03

はじめまして、残念ながら力石(リキイシ)ではなく、
ちからいしと申します。
たまたま「力石」という名前が出ていたので、
これをきっかけに、エイ、ヤー!(*>_<*)と
コメントを書こうと思いました。

いつも先生のブログ(プロフェッショナルも含め)楽しみに
拝読しています。
歴史上の人物はおろか、友達の名前さえ忘れてしまう私は、
およそインテリとはほど遠い脳みそをしていますが、
先生の言葉から、共感や学びを頂いています。
難しい言葉は調べたりして読ませて頂いています。(恥
これもいい勉強です。

毎回のように様々なことを感じさせていただくのですが、
最近では「そのトンガリを」が個人的なスマッシュヒットでした。
「たるいこと言ってんじゃねぇよ」にはグッと来ました。
そして、色々と感じる所がありました。

先生の存在に気づいたことも、私も含め、多くの方に取って
奇跡的なことかも知れません。

今回の原子の話も、教えて頂かないと気づかない視点でした。
目の前に置かれた人工的な物体から一瞬にして場面が変わり、
サバンナに連れて行かれるようでした。
途方もなくロマンティックな感じがしました。

これからも先生のご活躍を楽しみにしています。

最後に・・・
「まちのお菓子屋さん チリポテト」美味しいですよね。
どうぞ食べ過ぎには注意してくださいね!
と言いつつ、私も体に悪いと分かっていながらPAULの
「ショコラバナーヌ」というheavyな菓子パンをほおばって
幸せに浸っています。。

それでは、また遊びに参ります。^^

投稿: ちからいし | 2007/02/12 16:08:38

       人通りの少ない店 マニア

下関駅(目的地)なんて忘れて、ふらふらと独り エンジン音も無い

行く筋違い  ドアの色に惹かれ入った 骨董店 初老おんな店主

年代もの へび~な、セカンドbag get  zero① 記念の品

ふらふらと辿る駅前 知らないうちに目前に 明太カルボナーラ

        ぼーの ぼの 奈  一日 

    おそらく一期一会の店   でも  忘れない 

      
     @天空タワー 最上階でお茶すればよかった。

投稿: | 2007/02/12 14:45:40

自分の姿をうつす鏡をみることが自己批評と考えたけど、それでは甘いと考えなおしました。

鏡を通して見ては、甘いなあと。
もっと、ちゃんと突き放してみなければ、と反省しました。

まず、こちらで毎日日記を拝読し、自分の幼稚さ、馬鹿さ、を認識することだけでも、あぶら汗でるほどの思いを持つときがありのですが、
茂木さんに頼ってばかりでなく、自己批評できるようになりたいと思います。

ライオンの目になって、鷹の目なって、シロクマの鼻の鋭さをもって。

投稿: | 2007/02/12 12:05:21

力石徹で思い出すのは、あのファンによる“お葬式”のニュース。私は幼少だったが、大変な話題だったらしい。

よど号事件であったか、ハイジャック犯が投降する際に、いった言葉が印象的だった。

「我々は“あしたのジョー”である。」

それはそうとエンジン01、とても盛況だったそうですね。

深淵な哲理が出たかと思えば都都逸が飛び出し、ロマンスが出たと思えばロックンロールが飛び出したり、いろんな知と文化、藝術が交差し、飛び交う、素晴らしいセッションであったと推察いたします。

自分も含めて、この世に在る全てを構成する原子、さらに細かくすれば素粒子はある法則にしたがってか、想像もつかない旅をして、私たちや私たちの身の回りにあるものを構成している、そんな「万有のメタボリズム」に思いを致してみたいものだ。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/02/12 11:10:23

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