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2007/02/10

そのトンガリを

学士会の夕食会で、團藤重光先生に
おめにかかった。

日本の刑法学における重鎮。
私も、法学部時代はその御著書で
勉強した。

学士会の理事長もされており、
講演前、
となりで食事をいただきながら
いろいろとお話をうかがった。

「あなたのやられている分野と
刑法学の境界領域は、アメリカで
随分やられているでしょう」

「はあ」

「やはり、主体性理論との関連に
おいてね。」

「はい、私たちも、agencyや、free will
の問題には関心を抱いています。」

「あなたの脳科学の先生は、どなたですか」

「伊藤正男先生です。」

「ああ、伊藤先生ね。伊藤先生の論文を引用
したことがありますよ。」

講演の時間となり、私は「知の総合性」
についてお話させていただいた。

昨年、京都大学で湯川秀樹、朝永振一郎
両博士の生誕100年の記念シンポジウムが
あったのを機に、
私は湯川博士の生涯をもう一度
振り返ってみました。
そして、博士が、理論物理学という
専門的領域で卓越した功績を上げた
のは、その総合的知性の充実ゆえんだと
確信いたしました。
小川家で、幼い頃から論語や史記などの
漢籍を素読した。
そのような総合的な知性がなければ、
中間子理論の発想にも至らない。
湯川博士は、ノーベル賞を受けられてから
知識人として啓蒙活動をされたと
思いがちですが、
実際には受賞前に優れた
一般書(『目に見えないもの』)を
出版されている。
知に、本来境界はありません。
知は青天井です。
ある分野で卓越した業績を残された方は、
必ず広い分野における素養がある。好奇心がある。
先ほど、團藤先生とお話して、
そのことを再び確信いたしました。

なぜ、日本は、バブル期に知の探求への
熱意を崩壊させてしまったのだろう。

ピア・プレッシャーには二種類ある。
一つは、「平均値に引きずり下ろそう」という
ベクトル。
「わかりやすさ」を追求する日本の
メディアの状況は、まさにそれだ。

もう一つは、どんどん尖る方向に
煽るようなピア・プレッシャー。
「お前、ドゥールーズ何冊読んだ?」
「三冊だよ。」
「そうか。まさか、日本語で読んでいるんじゃ
ないだろうな」
といった、鋭利さを加速させるような
圧力の作用。

日本はいつの間にか前者のピア・プレッシャーの
国になってしまった。
しかし、「わかりやすさ」を標榜して
幻の平均値を設定するのは一種の「談合」
である。

尖るというのは「偏差値」のような単一の
ものさしによるモノカルチャーではない。

みんなそれぞれ尖る方向は違う。
みんな違ってみんないい。
そのトンガリを、
談合でつぶすな。引きずり戻すな。

以上のようなことを申し上げた後、
「これからは、インテリの逆襲の時代ですよ」
と言ったら、会場から拍手が起きた。

講演中に拍手をもらったのは
はじめてである。

まぼろしの「普通」なんて知ったことか。
みんな、それぞれ信じる、愛する
方向にとんがろうぜ。

鈴鳴らしたらアルファー波が出て
頭が良くなるなんて、
たるいこと言ってるんじゃねえよ。

そんな甘ったるいことをうだうだしている
くらいだったら、本居宣長が
その仕事場で周囲に鈴を置いていたという
故事を知る方がよほど良い。

ぼくがワグナーのオペラを好きなのは、
出てくるのがみんな普通じゃない、
バランスを崩したトンがった人だからだ。

2月 10, 2007 at 09:28 午前 |

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みんなそれぞれ尖る方向は違う。 みんな違ってみんないい。 そのトンガリを、 談合でつぶすな。引きずり戻すな。 茂木健一郎 クオリア日記: そのトンガリを [続きを読む]

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コメント

            < 圭角 >

   トンガリの先にあるもの、傷だらけの栄光であれば

           よいのだけれど

    < とんがり損のクタビレ儲け  徒労の数しれず

           村八の人やも  杭は無い >

投稿: 一光 | 2007/02/11 6:22:53

そうですね、私も尖がって生きていきたいですね…。

知の平準化の上に発展はありません。横並びの知識、知識の言い
換え…そんなものがただ出回るだけです。ただ日本の風土にはそ
れをよしとする風潮があるように思えてなりません。

「学」の系譜と相関を改めて見直し、創造性を育む…そんなこと
が必要になってきたのは、教育現場にいると切に感じますし、そ
の点において、茂木先生の講演内容に共感を覚えずにはいられま
せん。もし私がその席上にいたとしても、同じように拍手をした
と思いますよ(笑)


投稿: コロン | 2007/02/11 5:31:57

まぼろしの「普通」なんて知ったことか。
みんな、それぞれ信じる、愛する
方向にとんがろうぜ。

とんがります!

今日も愛する家族の為に!!
美味しい”ごはん”創ります!!!

投稿: まるち | 2007/02/10 20:43:48

昔から普通であること、平均をこなすことにまるで魅力を感じなかった。
それができたところで、周囲の人らに「褒められた」に過ぎないし、見ている先はそんなところではない。
「この服が一番売れています」と言われると絶対買わない。
けれど、この宣伝文句が生き続ける限り、日本にトンガリ君が褒められる時代はやって来ないと思う。
ごく一部の、トンガリ君ならぬトンガリ先生が、専門的な世界で評価され、
普通人には「彼は天才だ」と生まれた時点で違ったことにされる。
そんなはずはない、彼らは自分のトンガリを信じ愛して歩き続けた勇者なのだと思う。
そんな、いわゆる天才を見かけた時、勇気が湧いてくる。
自分も張り切ってトンガろう、自分の道を愛そうと。

投稿: 和泉 | 2007/02/10 20:33:57

茂木さんになら本音をポロッともらしてしまっても
大丈夫!という安心感があるんです。
一方的にそんなことを言われてもご迷惑かとは思いますが。
「いいひとだけれどこの人たちには、私の言葉は
通じない。。。」と勝手な判断で心を閉ざして、
うわべだけの楽しげなやりとりになってしまうコトも多い
私にとっては、とても貴重で力強くて有難い存在なんです!
茂木さんの存在に頼ってばかりでなく、
自分で努力しないと!とおくればせながら
最近、ちょこちょこと自己改革中です。

なんだか気が急いて、
音声ファイルを聞く前にコメントしてしまいました。

赤シャツを着たシロクマくんに
雪のプレゼントが届く前に、桜の花が咲いてしまいましたね。
せっかく暖かくなったというのに
鼻ぐずぐずで「花粉症!」と言われてしまいました。。。
私は「風邪」だと思いたい!!!!!ので、今日は
ニンニクたっぷり食べておきます(笑)。

投稿: まり | 2007/02/10 19:48:43

いま、映画館にて「バブルへGO!」なんていう映画がかかっている。もっとも、私はそんな映画を見ようとも思わないが。

「バブル」の時代へ逆戻りするくらいなら、いっそ、明治の初年頃か、大正の終わり頃に一気に戻って、明治初期に始まった知への探求の「誤れると思われる部分」(=例えば、当時の文部省の教育政策スタイルをドイツ式にするところをイギリス式に改めること)や、まだ軍部があらゆる各層に「牙」を向いていない大正末期に、軍と政府に直談判して「中国から全軍を引き上げよ、治安維持法を廃棄せよ、さもなくばこの国は破綻するであろう!」と堂々と言いまくったほうが、今日の日本の談合体質をもとから改変することもできるかもしれない。

もっとも、時空をさかのぼるタイムマシンなんてできっこないのだけれどあくまで「仮定」としての説なのでご容赦を...。

「バブル」の後の知への探求の熱意を崩壊させた後に、実に科学的な証明不能なオカルトじみた疑似科学が蔓延りだした。「ゲーム脳」とか「水は答えを知っている」など・・・。茂木さんじゃないけど、ふざけるなよ!

だいたい、鈴を鳴らせばアルファー波が出て頭がよくなる、なんてたるいことを言って、みんなを騙すなんて、極悪の最たるものではないか。

そうやって視聴者から、自己の頭で真偽・善悪を考える「あたま」を奪っていっているんだ。「鈴をならせば頭がよくなる」とか「みそ汁でやせる」「納豆でやせる」といった嘘をきちんと検証せぬままタレ流したTVの罪ははなはだ重いと言わざるを得ない。

そんな嘘をみんなそろって信ずるよりは、それぞれが愛する方向、信ずる方向にとんがった方が「モノカルチャー」の中で馬鹿にならずに済むというものだ。

みんなそれぞれ尖る方向は違う。みんな違ってみんないい。そのトンガリを談合で潰すな、引きずり戻すな・・・まさにその通り!

個々の生きる道はみんな違っていいはずだ。それを同じ方向にという、誤った「軌道修正」をしようとする奴らの思惑なんか、ぶっ飛ばしてしまえ。幻の「普通」をぶっつぶしてしまおうじゃないか。

きょうの「日記」を読んで、またまた知の探求なき日本の嘆かわしい現状に怒りを覚えた次第。

そして、茂木健一郎なる「闘うインテリ」の叫びに我も!と奮起する次第であります。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/02/10 12:20:50

ピア・プレッシャーには二種類ある、わかりやすくてすごく納得しました。
すぐに人をとやかく言ったり、よい杭をたたくような人は、根本的に独立心の欠けた談合体質なんだと思います。
よい杭の可能性をつぶす人にだけはなりたくないです。

とんがります、愛する方向へ、自分の信じた方へ。。
 知は青天井
出すぎた杭(笑)になってみたいなあ

投稿: M | 2007/02/10 11:07:34

いつも楽しく拝読させていただいてます。
トンガリ、I love it!です。大学の教授から言われた「T字型人間になれ」の「T」をどこまでも大きくすること(特に垂線を!)を思いながら拝読しました。私事ながら、尖がるがため浮いています。でも「平均的」の壁はためらわず破ります。その力になる刺激をいつも受けています。これからも頑張ってください!

投稿: ZAK | 2007/02/10 9:57:58

いつも楽しく拝読させていただいてます。
トンガリ、I love it!です。大学の教授から言われた「T字型人間になれ」の「T」をどこまでも大きくすること(特に垂線を!)を思いながら拝読しました。私事ながら、尖がるがため浮いています。でも「平均的」の壁はためらわず破ります。その力になる刺激をいつも受けています。これからも頑張ってください!

投稿: ZAK | 2007/02/10 9:57:16

誰が決めたかしらん「普通」の世界ほど窮屈なもんはない。
今朝も、PCの前でたくさん拍手いたしました。
ぱちぱちぱちぱち。

投稿: 平太 | 2007/02/10 9:39:35

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