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2007/02/02

つきたてのおもちのように

この日記は楽しそうに書いているが、
実はここのところ完全な時間破産であって、
水面の下では足はバタバタいつも動いている。

 いつの頃からか、どんな方に会っても、
相手が社長でも、タレントでも、マルチな
クリエーターでも、
 「絶対に自分の方が忙しいに違いない!」
と直覚するようになった。

 「忙しさじゃんけん」ではきっとずっと
勝ち続けている。

 昨日の『プロフェッショナル 仕事の流儀』
では、私の朝の仕事術が放映されて
しまって恥ずかしかったが、
 あれはやらせでも何でもなくって、
 本当に朝起きた瞬間からものすごい密度
で動き回っている。

 でも、脳の深い快楽原理
(脳は、学習にこそaddictしている臓器
なのだ!)に基づいているから、
苦にはならない。

 今回の番組は、
 住吉美紀さんがディレクターとなって
企画、取材、編集されたが、
 自分でも多くの発見があった
(詳しくは『プロフェッショナル日記』で。)

 忙しい理由の一つは、ボクが、性質の
異なる仕事を引き受けているからである。

 研究がある。
 大学院生の指導がある。
 文筆がある。
 講演がある。
 テレビの仕事もある。

 これらの仕事は、それぞれの世界で
要求されることが少しずつ違う。
 パスポートも持たずに私は
行き来している。

 「マルチ」という言い方はあまり
正確ではないし、好きではない。
 万華鏡のような複雑な乱反射の中に、
あるくっきりとした輪郭線を見る。

 「ちくま」の連載「思考の補助線」
では、いかに分裂してしまった諸学を
再び統一するか、そのために
補助線を引くかということを考えてきたが、
 最近では、自分が身をもって
補助線になっちまえば
いいじゃないかと思ってきた。

 つきたてのおもちのように
ぎゅうと伸ばされた、
 補助線としての私の人生よ。

 わが信頼する筑摩書房の編集者、
「たけちゃんマンセブン」こと、
増田健史が「Brutus」で寄せてくれた
言葉は心に響いた。

 「怖い」というのは、すぐ怒るとかそういう
意味ではなく、茂木さんの仕事の根本に「怒り」
があるからなんです。それは科学というものを
消費物としてしか見ない世間への怒りだし、その
一方で学者村に閉じこもって世界の豊饒さを見よう
としない科学業界への怒りであって、しかもそれは
茂木さんの最もコアな部分での「倫理観」に発している。
だからこそ怖い。強度が違うんです。

 たけちゃん、ありがとう。
 お言葉を胸に、補助線は走ります。

2月 2, 2007 at 06:48 午前 |

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コメント

多分パソコンはMac bookですよ。 朝起きた時に髪の毛をかきむしっているシーンはちょっと笑ってしまいました(失礼ですいません) 音楽流すのは早速試してます

投稿: ワンダーボーイ | 2007/02/03 21:03:19

茂木先生の多忙さは客観的に見ていてもよく分かります。
でもそれだけ先生に求められているものが多いということ
も真ではないでしょうか。

「Brutus]の増田健史さんの寄せ書きにある「怒り」…
これには私も共感します。ただ、「怒り」の奥底に、幼少
時代からの知へのあくなき探究心・好奇心があるように思
います。そして未開発の領域を開拓し、”人間”に常に寄
り添ってきた茂木先生だからこそ、今の科学への”人間”
からの乖離に一石を投じ続けているように思えてなりませ
ん。

これからも健康に留意されて頑張ってください。心より応
援しております。

投稿: コロン | 2007/02/03 5:28:19

自分自身が、異なる世界(ここではいわゆるジャンルのこと)をつなぐ“補助線”になってしまえばいい…。う~ん、言い得て妙だ。

実をいうと、わたしも生まれてこのかた、いろいろなジャンルのもの・ことに頭からつっこんだりしていた。吹奏楽に頭をつっこんだり、インディーズミュージックに頭を突っ込んだり、果てはSONYの世界にまで頭を突っ込んだこともある(もっとも、SONYへ頭を突っ込んで、そのユニークな企業的個性に触れたことにより、私は茂木さんという存在を知ることになったのですが)。

しかし私はやはり、茂木さんのように
快楽原理に根ざして多数の仕事をこなすことが出来ない。
補助線になりきれていないからだ。

学問を消費財とみなす事無く、
専門性のタコツボに篭もらず豊穣を見つめ、
この世の多様性をこよなく愛し、
さらにいろいろなことをするのに喜びを感じるからこそ、
フラワーピッグはどんなに沢山の、密度の高い仕事を抱えていても、
苦闘しつつ喜びながらやりきってしまえるのに違いない。
補助線に徹しきっているといえるだろう。

そういう人はほかにはなかなか見当たらない。日本には茂木さんの他に数人しか見当たらない。

自分ももっと、世界の豊穣と多様性に飛びこんでいかなくてはならないような気がとてもしている。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/02/02 22:32:22

昨日の《プロフェッショナル》興味深く拝見しました。 茂木さんに習い 自分も音楽&寝しなのDVDをすべく 新しいPC購入を検討中です。 出来れば茂木さんとオソロいPCを狙ってます。 昨日の番組を凝視し、 PCの種類をつきとめたいと思います。

投稿: 火山鯨 | 2007/02/02 15:14:47

 補助線:幾何学的な解決の為の関係性を浮かび上がらせるひらめきの1つの線分.記号表現の書き換え変換の分析とは異なる?(数式など);早朝からあつあつの湯気を出して活発な頭脳!1日4時間睡眠の脳外科医より忙しい?!脳疲労にならないのは休息の質が良くなる毎日なのでしょうか.つきたてのお餅のような柔軟かつ粘り強さを持ち,白く神聖なおそなえ.(多分そのような意味を込めた比喩だと思いました.)補助線引きまくりの,万の補助線になって,事実上の不老不死に至るのでしょうか.
 意識は解離性同一性障害の私の解釈から脳の比較的広い部位に非局在する働きで生まれているのではないかと思っています.
 茂木様は無意識の働きと統合されつつ最適な超並列処理をこなしている頭脳の持ち主に違いないと敬服しております.

投稿: ISHIKAWA,Hiroichi | 2007/02/02 7:51:02

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