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2007/02/13

原点に戻って

エンジン01の控え室に
たくさんの講師たちと一緒に
いた時。
 アナウンスで、「ただ今、会場で
講師の先生方の本を販売しております。
よろしければぜひお買い求めください」
と流れた。

 確か、会場入り口で販売していた。
 ああいうのは、地元の本屋さんが
やられていることが多い。

せっかくいらしているんだから、
一冊でも多く売れた方が良いだろう。

ちょっと「販売促進」にサインでも
しようかと、降りていった。

台に近づくと、向こうから
「あら、茂木せんせい」と声をかけてくださる。

「私の本があるなら、サインをしましょうか」
と申し上げると、意外な答えが返ってきた。

「茂木先生の本はありません」

「あれれ?」

「先生の方から、これを置いてくれと
お返事がなければ、ありません!」

それでうろ覚えに思い出した。エンジン01
事務局から、「販売する本のリストを送れ」
という問い合わせがきたような記憶がかすかに
ある。

例によってすっかり忘れてしまって、
私の本はリスト漏れしたのだろう。

「どちらの方ですか?」

と聞くと、名刺をくださった。

「本の中野」とある。

下関の古くからある本屋さんで、エンジン01
の書籍販売の手助けをされているのだという。

何となく申し訳なかったので、
「どちらにあるのですか?」
と聞くと、私の滞在しているホテルの
すぐ近くの、唐戸商店街の中にあるという。

「それでは、明日、帰る前にうかがって
私の本にサインをしましょうか?」
と申し出ると、大変喜んでくださった。

ホテルに帰って、「本の中野 下関」
で検索すると、たくさんヒットした。
もともとは「中野書店」という老舗で、しばらく前、
苦境があって、
「本の中野」として再出発したのだという。

翌朝、ホテルのロビーで、
エンジン01の地元運営スタッフの方々に
「あのう、この近くにある本の中野という
ところに行きたいのですが」
と伺うと、一人の青年が
そこまで連れていってくださった。

商店街の中の一角。ちょうど開店するところ
だった。

シャッターが開くと、陽光が中に入って、
店内が明るく照らし出された。

カウンターの上に私の本が積まれている。

「実は、先生がサインにいらっしゃると
いうので、ほとんど予約で一杯になってしまった
のです」
という。

そこにある本に全部、さらに、「本を買って
おまけに色紙が欲しい」というお客さんが
二、三人いらっしゃるというので、その分の
サインをした。

「本の中野」の取り置き分の色紙も書いた。

カウンターの中でお二人の笑顔がまぶしい。

本を買いにいらした父と娘が、
ご親切に新下関まで送ってくださるという。

ありがとうございます、と車に乗せていただいた。

道すがら、いろいろな話をした。

本州と九州を結ぶ関門トンネルには、「人道」
もあり、
15分くらいで海峡を渡ることができるのだと
いう。

「私など、健康のために妻といっしょに何回か
往復することもあるんですよ」

 先生もどうですか、と誘われたが、
 NHKでの打ち合わせのため新幹線に
乗らなくてはならない。

 また今度ぜひ、と固辞した。

 親切な笑顔の人と握手をして、車上の
人となる。

 朝ご飯をとっていなかったので、
幕の内弁当を食べる。

 広島でのぞみに乗り換えて、
睡魔に襲われ、目覚めてからはひたすら
仕事をした。

 人間が人間として向き合う時には、
現代風の装いがどんどん落ちていくのは
どうしてなのだろう。

 浅智恵ははがしてしまった方が、
人間であることの健康のためには良い。

 創造の方法論は、起源にさかのぼることである
というのが最近の持論であるが、
 人間を再生するためには、
人間が人間になったその源にもう一度
立ち返る必要があるのかもしれない。

 ボクたちは、一人残らず原点に戻って、
再生してみたらどうかと思う。


「本の中野」の方々と、私の色紙

2月 13, 2007 at 06:09 午前 |

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コメント

キリンさんの絵は、今度はキリンさんに見えますね!
私がもらったサインは、帽子を被ったダルメシアンかと思ったのですけど・・。
けれど、なんだか、はっきり解らないものの方が奥深く茂木先生らしい感じがします。
そのサインも良いけれど。
それにしても、茂木先生は本当に、人間一人一人に愛情を掛けて、そのふっくらとした先生のお顔は、時にアンパンマンのように愛を与えて、三日月のようになってしまわないかしら? と思う次第です。

先生にとって、与えることが受け取るということなのですね! 生命活動に置いて。
生命の躍動ですね!

投稿: tachimoto | 2007/02/14 2:25:47

茂木先生のブログの記事を読んでいて、ソクラテスが頭に浮かびました。

『汝自身を知れ』…自分自身の本質の探究に人間としての価値観を見出したソクラテス。あまりに日常から切り離された自分を生きることの多い昨今、自分を省みる必要があるように思います。

そのことと茂木先生の人間の原点回帰とは少し離れているかもしれませんが、ただ”自然に帰る”ことのできない今の人間は、自己の省みの中に人間社会の深刻な歪みを矯正する志向性を見出すべきなのでは…と考えた次第です。

投稿: コロン | 2007/02/13 19:28:58

茂木先生の「きりんさん」の絵、とてもユーモラスで味わいがアリマス。「本の中野」のお2人も、本当にうれしそう。

さて人間同士が向き合うと、お互い本音をさらけ出すようになる、そのときに、現代風の「浅知恵」の装いが剥がれてきて、互いが“裸の人間”に立ち返るのかもしれない。

「人間を再生する為には、人間が人間になったその源にもう一度立ち返る必要があるのかもしれない。」

…人間もやはり「原点回帰」が大切なのだな。うむ。

原点を忘れて現代風の装いを凝らした人々が、
街並といわず、TVといわず、実にいろんなところを闊歩している。

虚飾、権威づけ、人気…。
これらすべての「装い」を剥ぎ取った時に、その人の真価がまるわかりになる。

茂木先生の思索も多様性のそれから、起源の問題へとたどり着いていく。

人類を人類たらしめた起源とは、人類が初めて“文化”を創り出した時に初めて得た“何か”なのだろうか。


投稿: 銀鏡反応 | 2007/02/13 19:09:09

 最近、茂木さんはとても落ち着かれているのではないですか?前が悪かったという言葉ではないのですが、こう心に地面ができたみたいに。文章を読んでいてそう感じます。

投稿: エミコ | 2007/02/13 17:55:14

なんか読んでいて、じーんとしました。
ルソーが「原始社会」を想定したのも
今の茂木先生と同じような問題意識を
抱えていたからなのかもしれないと
ふと、思いました。

投稿: 石曽根康一 | 2007/02/13 16:20:18

原点に戻る・・・私も再生したいです。
風船にぶらさがっているきりんの子供がかわいいですね。

投稿: 心のつながりコーチ | 2007/02/13 16:00:48

いつも楽しみに拝読させていただいています。

僕は現代美術をやっているのですが、いつも制作に没頭すればするほど無駄なものがそぎ落とされて「原点」に近づいていくような気がします。
創造のためにさかのぼる、というよりは創造に夢中になっていたらさかのぼっていた、というのがアーティストの理想なのかもしれません。
そういう意味で「集中力」はベーシックな能力を引き出すための引き金と言えるのかなあ。

ともあれ先生の発言は普段から共感することが多く、また新たに気付かされることも大変多く、とても勉強になっています。
最近考えていたことがここに書かれてあったので、今回おもわず初コメントにいたりました。


それはそうと茂木先生の声を聴いていると、難しい話をしているにも関わらず心地よくなるのはなぜだろな。文章もしかり。
不思議だ。

投稿: spaceegg77 | 2007/02/13 15:54:41

 「海峡のまち・下関」へ行っていたのですね。「海峡ウオーク」を企画した私のともだちは1年半前にスキルス性の胃癌で帰らぬ人となりました。
 現場というか、その時々、人との出会いを大切にする茂木さんらしい日記で、元気をもらいました。「素の人間の美しさ」を見つめながら生きていければいいのですが…。
 「ありふれてみえる町の日々の1つ1つには、人がそこで生きている無言の物語が籠められている。
 語られることのないそれらの物語を語ることができなくてはならない。平凡な日常を生きている人びとの日々の匂い、感覚をとらえるのだ。それが自分の仕事だ」―茂木さんの日記を読んで、アンダスンのこんな言葉を思い出しました。

投稿: 安竜昌弘 | 2007/02/13 12:14:56

 「海峡のまち・下関」へ行っていたのですね。「海峡ウオーク」を企画した私のともだちは1年半前にスキルス性の胃癌で帰らぬ人となりました。
 現場というか、その時々、人との出会いを大切にする茂木さんらしい日記で、元気をもらいました。「素の人間の美しさ」を見つめながら生きていければいいのですが…。
 「ありふれてみえる町の日々の1つ1つには、人がそこで生きている無言の物語が籠められている。
 語られることのないそれらの物語を語ることができなくてはならない。平凡な日常を生きている人びとの日々の匂い、感覚をとらえるのだ。それが自分の仕事だ」―茂木さんの日記を読んで、アンダスンのこんな言葉を思い出しました。

投稿: 安竜昌弘 | 2007/02/13 12:13:37

浅智恵とは、漱石のことばを借りて「利害の念」。だと思う。

もし、そうだとしたら、たくさんたくさん、私は念を着込んでいる。
暖冬であるし、春になるのだし、脱がないといけない。

投稿: 平太 | 2007/02/13 11:57:32

昨日の日記を読んで、
「茂木さんは、裏通りや寂しげな町の本屋さんには行かれるのか?」
と思っていたところで、本日の日記を読んでほっとしました。

投稿: 平太 | 2007/02/13 11:05:06

超多忙のなかでこういうことに時間を割くというのはとても茂木さんらしい話ですね。書店の人はこういう著者がいてくれることでがんばれるのだと思います。よかったよかった。

投稿: 五十嵐茂 | 2007/02/13 10:21:31

おはようございます。
・・・そうでしたか。
・らしくて いいな♪
サイン頂きたかった 残念。
素適な心持に 完敗です♪

投稿: tomo | 2007/02/13 7:27:49

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