« 物質的アバンダンス | トップページ | (本日)新日曜美術館 »

2006/11/26

まるで子守歌のようにずっと鳴り響いていた

 空港には森島留美子さんがいらしていて、
タクシーで高速をいく。

 渋滞かと思ったけれども、
案外早く進んで、
 ふと見上げた時には
銀座のあたりを走っていた。

 高速を降り、アークヒルズの横を
抜けて六本木に向かうとき、
 なんてキレイなんだろうと思った。

 日本の街並みが、今までにないくらい
うつくしく油の表面のように光り輝いて
見える。
 テクスチャが洗練され、
心に時々刻々染み入ってくる。

 コルカタの街並みを想い出していた。
 全てがすすけて、土色をしていて、
ぴかぴかやつるつるとはほど遠かった
あの空間。

 テレビ朝日のビルディングに入り、
森島さんと社員食堂でラーメンを食べているとき、
 私はソルジェニーツィンの
『イワン・デニーソヴィッチの一日』
のイワンのような気分になった。

 イワンは、強制収容所の中で
調子が悪いと医務室に行き、
結局はぎりぎりの体温でその日は
働くことになるのだが
 (サボタージュだと判断されると、
営倉入りしてしまうのだ!)
 医務室の中で座っているその時間の
流れを、
 「こんなにきれいなところでじっと
座っていられるなんて!」
と大いに感激して受け止める。

 ああ、インド経由で東京に戻り、
ロシア文学の気分になるとは。

 61会議室。
 松岡修造さんがいらっしゃる。
 
 親子と実験をして、そしてその後
脳のレクチャーをした。

 『修造学園』として近日放送されると
思います。

 松岡さんは本当に丁寧な方で、
最後に、私の荷物を持ってテレビ朝日の
玄関まで見送りに来てくださった。
 
 礼儀は美しき心なり。

 午後11時過ぎに終わって携帯を
見ると中央公論の岡田健吾クンから
「ゲラを持って近くまで来ているんですよん!」
という留守電が入っている。

 こんな所まで追い立てに来るとは!
 さすがのオカダケンゴくん。

 タクシーで途中まで帰りながら、
打ち合わせる。

 明けて今日、重大事項山積し、
やむなく一つ予定をキャンセルする。
 本当だったら、東京駅7時50分の
新幹線で西に向かうはずであった。

 ごめんなさい。

 どこかでナットをゆるめないと、
スットンと倒れるなり。
 ものごとには限界があります。

 インドは遠くなりにけり。
 ただひたすら仕事をする。

 えいえいと目の前の営為に没入しながら、
ときどきふと、
 コルカタの土まみれの街頭に横たわっていた
あの小さな子どもの耳に
まるで子守歌のようにずっと鳴り響いていた
 クラクションの海のことを思う。

11月 26, 2006 at 11:56 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: まるで子守歌のようにずっと鳴り響いていた:

コメント

モード変換、めまぐるしい日々ですね.
何卒,何卒,,ご自愛下さいませ.

投稿: | 2006/11/26 18:11:20

砂埃(すなぼこり)にまみれ、煤けたカーキ茶色と赤青黄緑の極彩色が入り混じったカオスのコルカタと、ツルツルぴかぴかにして、油のようにてら~っとしている東京の光景。

対照的なふたつの光景が、茂木先生を、清潔な医務室でじっとして喜んでいる「イワン・デニーソヴィチ」のような気持ちにさせる。煤けた世界から輝く世界に戻ってきたら、茂木先生でなくても誰でもイワンのように喜んで受け入れるだろう。

私には、コルカタの光景の中に、地に足つけて生きる、人間としての豊かな営みが息づいているように思える。あのほこりっぽい街の中で、子供も犬もそしておっちゃん、おばちゃんも、みんな一所懸命に生きているように思えるし、生き生きしているような気がするのだ。

油のようにテラテラで、コンクリと鉄骨の塊が寄り集まった東京に済む我等のほうが、やっぱり何故か非人間的な営みを強いられているような気がする。

しかし、都会で生まれ育った人間である我々は、土ぼこりにまみれた混沌世界よりも、てらてらピカピカの先進的世界のほうが生きやすいのかもしれない。

無論、都会に戻ってきたら戻ってきたで、沢山の「多忙」がフラワーピッグを待ち構えていたというわけか。その為に一つ予定をつぶさなければならないなんて…。

オカダンゴムシ、じゃなかった(失礼!)中央公論の岡田健吾氏からメールは来るは、今朝になって仕事が山積みになっているは、東京に戻ってからのご苦労、本当に心からお察し致します。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/11/26 12:55:09

茂木先生、インド旅行お疲れ様でした。
私も3ヶ月半の間だ、中国安徽省に行ったり来たりしたのですが、成田空港に到着すると、日本は何て清潔なのだろう! と、その度ごとに感嘆しました。そして、何故かほっと安堵するのです。

その後、東京駅からタクシーで青山通りを走るキラキラした街路樹とビルを目にした時、何て日本は景色が美しいのだろうと。(あそこは特にキレイかも知れませんが)茂木先生と同じようなことを感じました。

よくよく考えると、日本は水に恵まれているのですよね。雨が降るから。道路という道路が舗装されていることもあるかもしれないけど、土埃が舞っていないし、手入れが行き届いているし。

茂木先生の日記を読んでいたら、子供の頃読んだ絵本『青い鳥』を思いました。
ソルジェニーツィンの『イワンデーニーヴィッチ』は読んだことがないので今度本屋で探してみま~す。

投稿: | 2006/11/26 12:45:21

コメントを書く