その間合いの不思議さに
インドなんて巨大な存在は、
どうせわかりっこない。
だから、気楽な気持ちで来た。
シンガポールでトランジットし、
E04搭乗口へ歩いていくと
次第に気配が濃くなって、
機上のひとになると
どんどんその場所へ近づいていった。
飛行機を降り、入国審査を抜けて
たくさんのひとたちが待っている
風景を見ると、
ああ、来たなあという思いが強くなった。
コルカタの闇は濃く、スパイスの
香りがした。
ホテルの人が名前の書いたカードを持って
立っていてくれた。
はにかみ気味に水とおしぼりは
どうかと聞き、
いいです、と断ると、
白い立派な帽子をかぶって、
車が動き始めた。
「何分かかりますか?」
「だいたい30分くらいです」
それが、交わした唯一の会話である。
あとは、ずっと車窓から見ていた。
午後11時だというのに、人が歩いている。
人力車が走り、
斜めにカットインしてくる車がある。
その度に、制帽をかぶった運転手さんが
こともなげにスピードを落とす。
そうか、さっきからずっと、
信号がないんだ、と気付いたのは
しばらく経ってからだった。
犬が多い。あちらこちらを歩いている。
そういえば、空港の荷物受け取り場には
白黒のぶちの猫がいた。
かがんでやっと入れるくらいの、
背が低い小屋がたくさん並んでいる場所が
あった。
どうして信号がなくても皆ぶつからずに
走っているのだろう。
その間合いの不思議さに、すでに
魅せられている自分に気付く。
途中、黄色い光が点滅している場所は
あったが、
とうとう一回も信号待ちをしないで
ホテルに着いた。
キングフィッシャーを飲み、
ちょっと仕事をしてから眠ってしまったので、
自分がどこにいるのかよくわかっていない。
窓の外をのぞくと、ちょうど赤い太陽が
昇るところで、
下の通りを人びとが行き交っている。
おばさんが、何に腹を立てたのか、
茶色い野犬に、こら、こら! とばかりに
棒のようなものを振り回しているのが見えた。
インドに来て、初めて見たあからさまな
人間のパッションであった。
11月 21, 2006 at 10:21 午前 | Permalink
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コメント
こんにちは。いつもブログ拝見させていただいてます。
インド。
理解しようと思っても難しい。
信用できるかな、、というところで躊躇。
インド人もみな口をそろえてインド人を信用するなと言う。
「いったい何なの?この人達は!」
今までの常識が通用しない。
一方ですごく純粋でかわいいと思うこともある。
この人達を理解しようと苦しむ。
そしてインド人を解ろうと思うことをやめた。
またインドを訪れたい私がいる。
投稿: たえこ | 2006/11/23 5:39:40
先生は、インドは初めてですか?それとも何回か行ったことあるのですか?私は、行ったことがないのでインドのことはあまり知らないのですが、インドの子供達の数学レベルが高いと聞いてます。
投稿: sekiya | 2006/11/21 23:28:59
はじめまして茂木先生。インドですかいいですね海外。
一度も行ったことありません。
ところでメールを送ってもエラーで届きませんよ。
メルアド教えて下さい。
お話しましょう。でわでわ・・・インドの夜明けの空はドーンパープルですか?
投稿: はなちん | 2006/11/21 22:35:37
コメントするのは初めてです。オヤジスカルプタ-と申します。始めまして。
物作り(フィギュア)から、なぜ?あることはなぜあることとしてある?と考え始めた者です。茂木さんの思索には引き込まれますし共感します。
海外に行くと、これまでの、日本における、「ふり」のクオリアが全て崩壊して、全く違う生活感のクオリアが立ち上がってくるのではないでしょうか。僕は海外に行くと、不思議とそのような気配が内側から立ち上ってくるのを感じるんです。
そうですね、そういう感覚は、不思議な事に一生忘れないですよね。たとえそれが勘違いだったとしても。恐らくその時の新鮮な感覚が作り出すイメージだとは思いますが、まさしく「先行するクオリア」って面白いですよね。予測クリアはどこからやってくるのか興味があります。
旅の途中での茂木先生の話を期待しております。
投稿: おやじスカルプタ- | 2006/11/21 21:46:49
カルカッタは、インドの中でも一番強烈だと聞きました。
悪い人にだまされないよう、気をつけてくださいね。
北のインド人よりも、南のインド人のほうが人がいいらしいです。
投稿: ろん | 2006/11/21 21:42:51
きょうのエントリーを読むと、印度は混沌の地だということが伝わってくる。
フラワーピッグこと茂木先生は、無事、印度はコルカタの地に一人立たれた。
嗚呼悠久の歴史を刻む大地よ…などと「ええかっこしい」なことを言っている場合ではなさそうだ。
印度の風土は底知れない深淵を含んでいるようだ。文化的なもの、宗教哲学的なもの、雑踏的なもの、高邁なものと世俗的なものが極彩色で入り混じる亞大陸特有の混沌とした世界。コルカタはそんなところだ。
もっとも、コルカタだけでなく、ムンバイもデリーもそうなんだろう。印度は何処へ行っても「カオス」なのだ。
スパイシーな芳香の流れ行くコルカタの闇に、フラワーピッグの魂もふるふると震えたことだろう。その闇の向こうには旅人の気付かなかった、大いなる混沌の世界が広がっているに違いない。
印度は牛が多い、と聞いているが、コルカタでは犬が沢山歩いているのか。空港にも猫がいるなんて、何とも不思議な光景が浮かんでくる。
人力車とクルマがぶつかりそうになって走っているのに、1度もぶつからないという間合いの不思議さ。そのうえ、この21世紀に人力車が普段の脚として使われていることに、コルカタという街の、何とも言えない不思議な面白さを感じる。
何もかも日本とは違い過ぎなんだなぁ。同じ東洋なのに。もっとも、違っていてあたりまえなんだもんなぁ。
頭に大きなターバンを巻くのはシーク教徒だと聞いている。もし茂木先生が頭にターバンを巻かれたら、昔TVでやっていた「チキンラーメンカレー味」のCMに出てきた南伸坊さんのような感じになるのか知らん?
フラワーピッグの場合、頭が大きいから、ターバンを巻くとただでさえ大きい頭が余計大きく見えてしまうのかもしれない。
印度は、まさにカオスの世界なのだなぁ。
投稿: 銀鏡反応 | 2006/11/21 20:10:23
ひゃ〜〜
クリオネ,,,クオリア日記を読んでいると,
自分もコルカタの空港に下りたって重たい空気の中入国審査を待つ列に並んでいるような,
そんな感覚に襲われます.
これこそブログでトリップ状態ですね.
ライブ感覚でブログを楽しんじゃうと,本屋に行く回数も減ってしまいます.
投稿: choshichohie | 2006/11/21 12:45:36