違いますよ。11月にもう一度
田園都市線は、なぜあんなに時間がかかるの
だろう。
余裕だ、と思って各駅停車に乗っていると
ひどい目に会う。
開始時間12分前にすずかけ台の駅に着き、
リボビタンDを三本買い、「片手で三本持つ」
というわざを見せながら歩いていった。
柳川透、小俣圭、恩蔵絢子の
博士の予備審査。
リポビタンDは、彼らのためである。
こういうのは、本人もそうだが、
指導教官もどきどきするものである。
指導教官は、「主査」ではあるが、
同時に「弁護人」でもあり、
しかしあくまでも審査だから、
直接助け船を出すわけにもいかず、
はらはらしながら見守るしかないのである。
三人とも無事切り抜けた。
良かった。
私が、最近、どんな方にお目にかかっても、
大抵「きっと私の方が忙しい」と思う理由の一つは、
私がそれだけ多くの文脈を引き受けている
(引き受けすぎている)ということに由来する。
博士号をとらせるということは、
その論文を投稿し、通すということの
面倒を見るということであり、
これは一大事業なのである。
それが、学生の数だけ私にふりかかって
くる。
本当に大変なのである。
博士号は、そう簡単にオートマティックに
とれるものではない。
論文を書けることはもちろん、
人の前で自分の研究についてちゃんと
客観的に、文脈付けて説明できなければならない。
そこまで行くのは本人も大変だ。
宮下英三先生に、「関根崇泰くんはどうしました?」
と聞かれたので、
「あいつは今年はあきらめました」
と答えたのだが、間違っていた。
終わったあと、軽く打ち上げをしようと
すずかけホールで待っていたら、
関根崇泰もいっしょに歩いてくる。
「あれ、来てたんだ!」
と思った。
やはり、今回の予備審査はパスだとしても、
同期のなかまたちと一緒にいたいのだろう。
カモノハシ(関根のあだ名。似ているのだ)の心中を
思った。
「お前、あと一年やるんだろう」
「違いますよ。11月にもう一度予備審査が
あるじゃないですか。あれに出したいんです。」
「お前、それじゃあ、その時までに論文投稿しないと
だめだろう。」
「ええ。だから、SfN(北米神経科学会)の間に、
書こうと思っているんです。」
「そうだったのか!」
関根が論文を書く、というのは、つまり
私がかなりの手助けをしなければならない、
ということを自動的に意味をする。
一日のうち何回か、「こりゃあ死にものぐるいで
がんばるしかないな」と思うことがある。
私は、すずかけ台キャンパスに残る
豊かな森を見上げた。
青葉台で打ち上げた後、
同じ方向の関根、小俣と電車の中に座って
関根のPCでSfNの発表のパワーポイントを
直した。
関根の研究は2004年に続いてslide presentation
(口頭発表)に選ばれた。
ということは、Society for Neuroscienceの
reviewerの中に関根のやっていることが
面白いと思っている人たちがいるということであり、
ちゃんと論文にすれば良いところに通る可能性がある
ということなのだが、
関根はなかなか書かない。
慶応の経済出身なのに、英語ができない。
「ここも違うよ」
「これじゃ、意味が通らないよ」
関根にジャブを出しつつ、
ひたすら打ち込む
ああ、打ち上げのあとも車中でパワポを
直すあわれな魂よ。
関根、小俣と別れ、私は書評しなければ
ならない本を読み始めた。
つぎからつぎへと、文脈が私を通り過ぎていく。
10月 12, 2006 at 07:33 午前 | Permalink
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コメント
学生のみなさんが博士号をとるのも簡単では勿論ないし、指導教官の責任も博士号をとった学生の数だけ責任が重大だし、おまけに茂木先生のばあい、他にいろいろな「文脈」を引きうけているから、普通の大学教授に比べると余計に大変なのが、きょうのエントリーを読むと伝わってくる。
茂木先生、本当に健康面はご自愛なされませ。何事もおからだが資本で御座います。
それにしても、季節は晩秋に向かいつつありますね。ムシの響きも少しずつ小さく弱くなって参ります。
ところで、茂木先生の教え子の関根さんって、そんなにカモノハシに似ているのかな?
それはさておき、東工大のすずかけ台キャンパスの森も少しずつ、秋色に染まっていることだろう。
明日はまた、秋晴れ日和ですね。きょう、現場近くの公園で、トンボが飛んでいるのをみかけました。
明日も明後日も、茂木先生にとっても、また我々にとっても充実した、また絶対無事故の日でアリマスように…。それでは。
投稿: 銀鏡反応 | 2006/10/12 19:57:37
編集者みたいですね・・・。
茂木編集長。かっちょいいかも。
トライアスロン挑戦中のように常にいろんな競技に励んでらっしゃるみたいですね。
きっと
ゴールしたあかつきには、素晴らしく強い肉体と精神、すがすがしい気分が待ってる・・・に違いないと思います。
ファイトっ おーっ。
投稿: 平太 | 2006/10/12 17:52:05