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2006/10/04

不可一覧性と多様性

『プロフェッショナル 仕事の流儀』の打ち合わせ
をしていたら、
 有吉伸人さんが妙なことを言った。

 「茂木さん、午前11時に出なくちゃいけない
んですよね?」
 「えっ? そうでしたっけ?」
 「何か、お昼にどこかでトークしなくちゃ
いけないから、打ち合わせが11時まで
ということになったと思うんですけど」
 「あれ? ボク、12時に中央公論の
岡田健吾さんが西口玄関に来て、写真を撮ることに
なっているんですけど。」
 「いや、確かにお昼に仕事があると言って
ましたよ! 調べた方がいいですよ」

 有吉さんに促されて、コンピュータを
開けてカレンダーを見たら、
 何と、確かに12時から1時間経済関係の
トークをすることになっている。

 あわてて岡田さんに電話した。
 「茂木さん、そろそろマネージャーつけた
方がいいですよ」
と有吉さん。

 打ち合わせはいつも決まった小部屋でやる。
 番組で流れるVTRを見ながら
進め方について詰める。

 危ないところだったなあ、と動揺しつつ、
ちょっぴり安堵し、何だか指が寂しくなって、
ぱちぱちと写真を撮った。


『プロフェッショナル 仕事の流儀』台本


打ち合わせ中。住吉美紀アナウンサー(右)、池田由紀ディレクター(左)


打ち合わせ中。有吉伸人チーフプロデューサー(左)、小山好晴デスク(右)

 活字と映像の仕事の感覚はいろいろ
違う。
 住吉美紀さん(すみきちさん)のように
10年以上やっていると、
 ボクなんかが未だにわからない
 感覚が立ち上がっていくらしい。

 収録に活字のヒトがゲストに来た。
 ちょっと嬉しいのである。

 幻冬舎の石原正康さん。
 山田詠美さんの直木賞受賞作
『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』を
24歳の時に編集したり、
 村上龍、吉本ばなな、渡辺淳一らの
作家とミリオンセラーを連発したりと、
 まさにスーパー編集者なのである。

 活字の仕事のうれしいところは、一文字まで
自分で責任を持って詰めていけることである。
 
 一方、映像は、どんなことを言っても
編集の過程で落ちてしまう可能性がある。
 活字と違って、不特定多数の視聴者が見るという
性質上仕方がないこととはいえ、
 スタジオでのトークが白熱し、高まって、
奇跡のようなことが起こった時に、
 それが放送では使われないのはちょっと寂しい。
 
 でも、ベストな瞬間を志の高い有吉組
のひとたちが拾ってくださるだろう!
 と信じて、いつもがんばっている。

 石原さんと「文学の毒」の話になった。
 文学は、作家という世の中に少し不適応な
野獣が生み出す毒のようなもので、
 適量ならば薬にもなるが、
 処方を誤れば死に至ることもある。

 話しながら、きっとここは使われないだろうな
と思った。
 NHK総合テレビで放送するには、
ちょっと濃すぎる。

 しかし、それでいいのである。ぎりぎりの
線でがんばっていなければ、エキサインティングな
ことはできないのだ。

 DVDになる時には、放送できなかったトークも
収録されるので、その時に、奇跡は世に降臨する
かもしれない。

 メディアの特質というものは個人の思惑を
超えて、さまざまなことを規定していく。
 そのようなこととの葛藤の中に、
表現というものがある。

 それを言うのならば、活字にも限界があり、
やはり映像でなければ表現できないこともある。

 幻冬舎の大島加奈子さん、電通の佐々木厚さん
も交えて打ち上げに。

 ぼくはちょっぴり眠くなってしまって、
飲み会の最中にこっくりするという得意技を
披露した。

 開けて今朝、
仕事をしながら、カヴァレリア・ルスティカーナの
DVDをかけた。
 グランド・オペラ全盛のイタリアに、突然
降臨した、ごく普通の人々の生活を描く
ヴェリズモ・オペラ。

 字幕をイタリア語にしておいて、ちらちらと
見ると面白い。

 パッションの文化である。こういう血の気の多い
人たちのつくりだす音楽や文学があって、良かった。
 結局は多様性こそが救いになる。人生も文化も
モノカルチャーは良くない。
 森林は容易に見通すことができないが、だからこそ
多くの生きものたちが根付いている。
 不可一覧性と多様性はおそらく同じこと。
 世界の中の簡単には見ることのできない、隠された
ものをこそ思い、その豊饒さを味わいたい。
 
 石原さんはハワイに取材に行くという。
 今のボクからは、ハワイは隠されて見えず、
だからこそその豊饒さがうれしい。

10月 4, 2006 at 08:35 午前 |

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受信: 2006/10/06 0:21:34

コメント

こんばんは。

double booking 危うかったですね! 

茂木先生は、スケジュールの密度が濃すぎて、いくら先生の頭脳が優秀でも、そんなthrillingなオチがあったなんて、ちょっとホットします。

私は、今日、「ひゃ! 体験」をしました。夕方早稲田に行ったのです。用事が済んでから、コーヒーが飲みたくなって、喫茶店に入りました。そこでコーヒーとチーズケーキを食べながら、

中断していた漱石の「こころ」を読み始めました。その喫茶店は、この辺りでは少々高いらしく、お客は非常に少なく、落ち着いて読書が出来ましたので、ついでに、晩ご飯もここで食べてしまおうと思い、レトロなピザとコーヒーを追加して注文しました。

窓側のカウンターで、誰も気兼ねすることなくピザを食しながら読書に埋没していました。
食べ終わっても暫く読書に集中していました。

ふいに、お皿をかたづけられたので、そろそろと思い、お財布を出そうとバックを見ると、
無い! のです。オサイフが・・。

「ひゃ! 体験」です。無銭飲食の文字が頭を過ぎりました。 他にお客が2名ほどいましたので恥ずかしかったのですが、事情を話し住所と電話番号を書いて、明日持って来ます、とお店の方に約束しました。

地下鉄をパスネットで乗るので、すっかりオサイフには気が付かなかったのです。
時々自分のおっちょこちょいに赤面している私です・・。

投稿: tachimoto | 2006/10/04 22:07:49

「不可一覧性と多様性はおそらく同じこと。世界の中の簡単には見ることのできない、隠されたものをこそ思い、その豊ギョウさを味わいたい」。

この世には、眼に見えているもののほかに、眼には見えざる、隠されたものがたくさんある。むしろ表に現れているものより、隠されているもののほうが多いのではないか。

薔薇の花の「華美」なる「美しさ」の裏に秘めた「醜さ」、ラフレシアの花の「醜さ」の裏に輝く「美しさ」、そうした隠然たるものが世の中には沢山あるということを、心に描きつつ、味わいたいものだ。

人生も文化も、この我等が生きる各種世界は多様性に満ちて当然。むしろいまの日本が何故かモノカルチャーの方向へ行こうとしているのはやはりおかしい。

みんなで同じような方向へ走り、同じような格好をしたがり、同じようなものを食べている。これははっきり言って健全ではない。

冷たい文化を好むものがあるいっぽう、血の気の多い文化を愛するものがある、というほうが、健全なのだ。

日本は「一億総中流」というモノカルチャーに嵌り過ぎた結果、所得の格差が広がり、結果、箆棒な金持ちと極貧のライフスタイルの二極化を招いたのに違いない。

しかしそのいっぽうで、一部もののわかっている人達の間では、多様化のあり難さが分かってきつつあるのではないだろうか。

なんでもありの世界が健全だと言う事が分かってきたのかもしれない。

それでも、メディアの一部は、自分達の“誘導”したいと望む一方的な方向へ私達を引っ張りこもうとしている。

そういう手合いのメディアの手には、ゆめゆめ引っかからぬよう、用心しつつも、目に見える世界の中に隠された、簡単に目に触れない多様性に満ちたものものに思いを馳せつつ、生きて行きたいものだ。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/10/04 19:00:05

「そろそろマネージャーつけたほうがいいですよ」と有吉さんに言われたそうですが、この問題の最良の解決法は、マネージャーを付けなくてもいい生活に戻す、ということではないでしょうか(笑い)。マネージャーを付けて動く茂木さんというのはどうもイメージしにくいですし、端で見ている限り人間一人で対応するにはとにかく戦線が広がりすぎているように思えます。詰まりすぎた字間行間は読みにくいものです。
解決法は簡単です。私の信条をお教えします。仕事は入れない広げない逃げる避けるがんばらない出かけない付き合わない眼をつぶる耳をふさぐ閉じこもる。リターン・ザ・茂木健一郎!(笑い)

投稿: 五十嵐茂 | 2006/10/04 14:50:11

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