« [師弟座談会]「養老教室」へようこそ  養老孟司 布施英利 茂木健一郎 | トップページ | トンカラリン »

2006/09/30

「とっとっと」

おっちょこちょいは同じ原稿を二度書くというのは
本当のことである。

 今どの仕事をしているかは、この日記では
基本的に公開しないことになっている。
 それは、関係者から、「あいつ、オレの
があるのにアッチを先にやりやがって」
というスルドイ怒りが飛んでくる
こともあるからである。

 でも今回は敢えて記さないと、
リアリティが立ち上がらない。

 空港に移動しながら『プロフェッショナル
 仕事の流儀』の第6巻用に、塚本こなみ、大瀧雅良、
植村比呂志の三人のゲストについてのコラム
を書いていた。

 それぞれ約1300字。
 まずは塚本さんのを書き終わり、
その後大瀧さんのを書いている途中で
空港に着いた。

 さっそく塚本さんのを送ろうと思って
書いている大瀧さんの原稿を見ると、
ファイル名が「塚本こなみ.doc」となっている。

 ん?

 と一瞬とまどって、すぐに何が起きたか
わかった。

 フォントなどの情報が移って便利なので、
書き終えたファイルを新しい名前で保存して、
そこに文章を書くことがよくある。
 塚本さんのファイルを、大瀧さんの
名前の別ファイルにセーブしてから書き始めた
つもりだったのが、
 塚本さんのまま大瀧さんになってしまった。

 書いたはずの塚本さんについてのエッセイは、
いつの間にか大瀧さんになって、雲散霧消
してしまった。

 こんな時、茂木が大切にしている言葉がある。

(黒バックに白字で、ピアノの「ぽーん」という
音が鳴って)

 起こってしまったことは、振り返るな。

 さっき書いたのに、と思いながら、
めげずにまた書いた。
 全然違った文章になった。

 おっちょこちょいは同じ原稿を二度書くというのは
本当のことである。

 熊本空港に着き、芦北学園の鶴田先生
とお話しながら、移動中に無事三つ目の
コラムを書き終えて送った。

 NHK出版の小林玉樹さんからの、

茂木先生
お疲れ様です。
高井のほうからご連絡させていただいている6巻用のコラム
(=樹木医の塚本さん、清水商業の大瀧さん、ムシキングの植村さんのお三方分)につきまして、スケジュールがいよいよ厳しくなっております。現在いかがな状況でしょうか。
お忙しいとは存じますが、
なにとぞよろしくお願い申し上げるしだいです。

というメールにこれで応えることができた。

 日本重症心身障害学会に呼んでくださった
芦北学園発達医療センターの
松葉佐正先生、それに宮崎大学医学部の布井博幸先生、
熊本大学医学部の遠藤文夫先生
と昼食をご一緒する。

 「脳と創造性」というタイトルでお話する。


 
 科学的問題の難しさを表す、『ノーベル』
という単位がありまして、私がつくったんですが、
 その問題を解くと、ノーベル賞がもらえる、
というのが一ノーベルです。
 その基準で言うと、意識の問題、クオリアの
問題というのは、百ノーベルくらいの
難しさです。
 つまり、そう簡単には解けないということ
ですね。(笑)
 仕方がありません。何しろ、古代ギリシャ以来
二千余年の難問ですから。

 さて、脳にできて、コンピュータにできない
ことと言えば、何といってもコミュニケーションと
創造性です。この二つは関連し合っていて・・・

 講演を終えて、引き続き学会のセッションを
聞いた。

 遠藤先生の再生医療の話。

 音楽療法についてのシンポジウム。

 となりに座った松葉佐先生の気配のような
ものが伝わってくる。

 漱石の『それから』に、代助が
三千代に再会する場面があって、
 そこにある「持調子」という言葉が
好きだった。

「待つてゐらつしやれば可かつたのに」と女らしく愛想をつけ加へた。けれども其調子は沈んでゐた。尤も是は此女の持調子で、代助は却つて其昔を憶ひ出した。

 漱石が第五高等学校(現在の熊本大学)に赴任し
たのは、29歳の時である。

 伝わってくる松葉佐先生の持調子は、
「内に秘めた誠実さ」のようなものだった。

 明けて午前中に『和樂』の「日本のクオリア」
の取材で熊本県内の装飾古墳を回るというので、
橋本麻里さんが合流する。
 
 デザイナーの原研哉さんとデザインの
プロジェクトをやっているという
浜田醤油の濱田康成さんをご紹介いただいた。

 濱田さんが、「兄貴分」という
熊本クボタの西山忠彦社長の待つ
馬刺しの店「管乃屋」に連れていってくださる。

 大いに馬に親しみ、歓談した。

 内に秘めた
繊細なるものを明るいエンタティンメント
でくるんだのが濱田さんの持調子。

 一方、西山さんは、何だか懐かしい気がした。
どこかで似たような人と親しくしていた
ような気がする。


濱田康成さん(左)と西山忠彦さん(右)

 濱田さんの話が面白い。

 「熊本はね、言葉の国なんですよ」
 「はあ」
 「小さな缶を、カンカン、大きな缶を
ガンガンというのです。小さな頃、
おじいちゃんが、「おい、あのカンカン持ってこい」
「あそこに、ガンガンがあるだろう」と使いわけ
していました」
 「それは濱田家だけではないのですか」
 (横から西山さんが、きっぱりと)「熊本
みんなそうですよ」
 「程度を区別するんですね。
びっくりする、の最上級もあるんです。
「うったまがる」と言うのです。」
 「うったまがったなあ。」
 「オノマトペも充実しています。すきま風が
あって、寒いことを、「すうすうすう」
と言います。「その席は、もうオレがとっている」
というのは、「とっとっと」と言います。」
 「あっ、濱田さん、その馬刺し、とっとっと」
 「熊本は、言葉に敏感なんですよ、茂木さん」
 「さすが、漱石がいただけのことはあるなあ」

 「とにかく日本一うまい」という
天草の奴寿司や、
 「セレブの宿」だという「五足の靴」
など、うったまがる話をいろいろ聞いた。

 それでいて、ウェブ2.0だとか、
アフィリエートだとか、サーチ・エンジン・
オプティマイゼーションなどについても
熱く語ったのだから、なるほど、これは「火の国」
になるはずだ。

 夜風に吹かれながら見上げた
熊本城が思いの他高いところにあって、
 まるで天空の城のような印象。

 今回も、お城を親しく拝することはできなかった。

9月 30, 2006 at 07:18 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「とっとっと」:

» 100ノーベル賞級 トラックバック 夢への滑走路(名も無きポスドクの愉快な旅)
ずっと書こうと思っていたことがある。 先日、脳科学者の茂木健一郎氏の講演を聞く機会があった。 茂木健一郎というと知らない方もいるかもしれないが 最近ではNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」 ... [続きを読む]

受信: 2006/10/01 1:03:04

» 茂木健一郎先生のブログ「クオリア日記」にてご紹介いただきました トラックバック 美味しい味をお届けします【濱田醤油】醤油コム
現在濱田醤油では、新しい濱田のチャレンジとして ・隈研吾氏による蔵のリノベーショ... [続きを読む]

受信: 2006/10/12 22:35:55

コメント

熊本城、懐かしいです・・!

私は小学校の低学年の頃、熊本に住んでいたのですが、毎年春に「熊本城スケッチ大会」があって、必ず桜の咲く頃に行っていました。 そのお陰で今でもチラッと映像が流れても、あ、熊本城!とすぐ分かります。

武者返しに感心したり、一階の暗い井戸のある部屋を通る時はいつも結構ドキドキしたり(笑)。。それでも天守閣を登りたくって、いつもスケッチが終わるとお城にワーイ!と一目散に入っていました。そういえば、父がお城の昔からそのまま残されている部分にも入れて貰った事があるらしく、今でもその壁には、その昔、兵糧攻め対策として蓄えられた干したお米が壁の中に蓄えられて(塗りこめられて?)いるとかも言っていたように思います。

投稿: | 2006/10/03 22:32:14

茂木様
Hopeful Monster 今、その言葉にしっかりはまっています。その前にも茂木様のいくつかの言葉に、落ちてしまいこのクオリア日記は日々の生活から離せないものになりました。そして、今回熊本からの日記、故郷の天草の登場!!異常に興奮しています。以前、御所浦にもこられたと言う情報がありますが、是非!また!天草へ!!待っています。

投稿: | 2006/10/02 2:33:39

茂木先生。
また熊本にきなはったときは、青い城・・(もとい!!)熊本城ば、はじめ、熊本の魅力。天草の魅力にまあだまあだ親しく触れてもらいたかですね。
装飾古墳の話は「和楽」で読むのが楽しみです。次回装飾古墳の旅があれば、千金甲古墳はとっとってください。
橋本麻里さん。今度は茂木さんと天草のクオリアの旅をよろしく!!地方が元気になるクオリアを!!
茂木先生。最高においしい馬刺しに負ける醤油(馬刺しでなくてゴメンナサイ!)を贈っておきます。

投稿: 腰抜けの濱田醤油 | 2006/10/01 14:23:38

持調子・・辞書にはでていなかったので、想像してみると
     なんともいえないお酒の良い香りがしてきました。

お酒飲んでまろやかな香りのベールにつつまれて、誰かを思うと持調子という言葉になるのかな~。
悲喜こもごも、すべて含んで持調子。

投稿: | 2006/09/30 16:02:47

注意喚起のつもりで かいてますので おきを わるくしないでくださいね。(^ ^;)

バッテリー問題だけでなく(Power Book)
https://support.apple.com/ibook_powerbook/batteryexchange/index.html?lang=ja
あたらしいものには リスクもあるようですね(ほこりは こわいですね)
2006年03月18日 MagSafeコネクタであわや発火か?

http://www.kodawarisan.com/k2006/archives/2006/03/index.html

投稿: | 2006/09/30 13:03:58

九州熊本の擬態語、オノマトペはとても面白いですね。
すうすうすう、とっとっと、うったまぎる、
でかい缶=ガンガン、ちっちゃい缶=カンカン。
なんだか様相や形が思い浮かぶようでいいですね。
標準語にはないユニークな味わいがたまらんですねえ。
とっとっと...お菓子の「おっとっと」みたいでかわいいですねえ。

日本語にはこのように地方ごとに、豊かな生きた味わいがあるのに、みんな標準語をしゃべるようになってしまったら、そういう味わいが薄くなってしまった感じがする。
もっと方言を大切にしたいものだ。といってもおいらのような東京の人間の場合、標準語と江戸弁が同じような言葉に聞こえてしまう。(あ!茂木先生も東京生まれだったんだ!)
とにもかくにも、標準語と江戸弁の区別がつきにくい。標準語が江戸弁から分かれてできたのは、明治の頃だという推測はつくけれど、明治のいつ頃からそうなったのかはわからない。

もし、関西弁が標準語のもとになっていたら、若しくは名古屋弁、東北弁が標準語のもとになっていたら、非常にユニークな面白いものになっていたかもしれない。
そして日本は、地球史上稀に見る面白い言葉の国として知られたかもしれない。
それはさておいて、きょうの東京の空は曇りがち。

私は土曜の仕事が済んだあと、SONYビルにより、きょうでQUALIA
東京も最後だというので、コンシェルジュの方とお会いし、支配人・
築澤様ともお会いし、いろいろお話ししてきました。もちろん、茂木先生の話題も出ました。

QUALIAもなんと三年半続いたんですね。

ただ、商品よりもコンセプトを提供した茂木先生のほうがブレイクするとは、ショールームに来始めた三年半前には思いもよりませんでした。

あのムーヴメントはきょうで終わってしまうけれども、茂木先生のクオリア探求の日々はこれからも続いてゆくんですよね。

私たちも引き続き、応援しています。
長くなりました。それではこのへんで。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/09/30 13:00:48

>熊本城が思いの他高いところにあって、
>まるで天空の城のような印象。
>今回も、お城を親しく拝することはできなかった。

ご存じかとおもいますが Mac版もあります。そらから眺める熊本もいいですよ
探すこつは 北を上にして通常のマップを利用して 地図の位置を 把握するとさがしやすいです。
http://earth.google.co.jp/#utm_campaign=en&utm_source=en-ha-apac-jp-google&utm_medium=ha&utm_term=google%20earth

投稿: | 2006/09/30 11:30:53

ウェフ2.0 熊本語

投稿: | 2006/09/30 9:36:11

風土、情、その土地が培った郷土愛・・・
そういったものにムショウに触れたくなりました。

火の国・・・なんて惹かれる郷土名だろう。いったん虜になっ      たら引き返せない気がする。

西山さんって生まれも育ちも火の国の方なんだろうか・・。
お眉が(ザ・くまもと)な感じなのですが。
お二方、ひょうひょうと、物静かで、熱い印象をうけます。

投稿: | 2006/09/30 9:28:55

コメントを書く