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2006/09/09

青空に向かってぐんぐん上昇していく

 Richard DawkinsのThe Selfish Geneの
第二章に、Darwinの適者生存はより一般的に
宇宙の中で「安定したもの」が残るという
原理の一部分である、という考察がある。

 結晶のように、そのまま不変で安定する
というかたちもあるが、
 生物は、変化しつつ、つまりは不安定
でありながら、かろうじて安定を保っていく、
という戦略にもとづいて発展してきた。

 だから、私たちの胸に時に
不安が去来することは仕方がないことだ。

 青春時代というものは、
生物の根源的な不安定さが自分という
存在をゆるがすような姿で現れるが、
 逆に言えば、そのような不安と向き合っている
限り、人はいつまでも青春時代にいるという
ことができるのだろう。

 島根県の松江東高校に来た。
 米子空港で山根先生と田中先生に
お目にかかり、中海の大根島を通る
堤防道路を走っていく。

 また、この風景の中に自分を置きたい、
と思えた。
 そのようなうるわしい土地の姿。
 なにやらゆかし、大根島。
 君は、一体何を秘めているのだ。

 松江東高校は、Super Science Highschool
に指定されていて、様々なひとたちを
講師で読んでいる。
 春のピーター・フランクルさんに
続いて講演会に呼んでいただいた。

 今年度は、あとは
 NHKの小出五郎さんがいらっしゃる由。

 体育館って、こんなに大きかったかなあ、
と思えるようなスペースに全校生徒800名が
入っていて、
 その前でこちらも負けずに声を張り上げた。

 記憶と創造の関係や、
 感情と不確実性の話をした。
 最後に、アハ体験もやった。

 「自己批評」をやってもらった。 
 壇上から見ていて、
 なんだか妙に波長が合ってしまった
眼鏡をかけた「細身の左門豊作」くんに
まずはやってもらい、
 それから、次々とリレーで
自己批評をしてもらった。
 
 二度ほど、先生が登場した。

 「いいですか、みなさん。特に男子生徒。
自己批評ができる能力を身につけると、
モテますよ。お笑い芸人がもてるのは、
そのためです。
 他人から言われて痛い自分の欠点は、
言われる前に言ってしまえ、しかも、
それをユーモアに転化してしまえ。
 そうすれば、ああ、この人はなんて
大きな、すてきな人なんだろう、と
思われますよ」
 
 と焚きつけたあと、
「さて、真打ち登場は誰がいいでしょう?」
と聞いた。

 化学の青木先生は、ジョークを
言うのがうまいという評判らしく、
 トリで登場して大いに会場をわかせた。

 体育館を抜けていく風がさわやかだった。

 ところで、自己批評が必要なのは
個人だけでなく、国家もそうなんであって、
 それはいわゆる「自虐」というものとは
違います。
 自己批評というものは、ゆるぎない
自己への愛、生きる意志というものが
あって初めて生きてくるもので、
 neurotic symptomではないのです。

 NHKの松江放送局が取材に来ていて、
終了後、短いインタビューを受けた。

 「脳の話をこちらからするだけでなく、
自分から何かをした、ということで
学ぶことが多いと思います。
 今日、全校生徒の前に出て、
自己批評をした、あの生徒たちは、
そのことを一生忘れないのではないかと
思います。 
 そういうことが大事なのではないかと
思っています。
 高校という時期は、何しろ、自分という
ものが一番劇的に変わる時ですから。
 だから大切なんですよね。」

 人生、いつも、「自分というものが
劇的に変わる時」なのだから、 
 「大切だ」と思い続けて
いたいものだと思う。

 「細身の左門豊作くん」を始め、
多くの生徒たちがサインを求めて
きた。
 白シャツに描いてくれ、という男子学生も
何人かいて、
 ぼくは心を込めてロケットに乗って
人生を出発するフラワーピッグを描いた。

 気付くと、一時間が経っていて、
体育館はいつの間にか800の椅子が
片付けられ、バスケットボールを
やる部員たちで一杯になった。

 ぼくも高校の時は人生の激動期だったが、
あのような青空に向かってぐんぐん上昇して
いくようなフェーズを、これからも何回も
迎えたいものだと本気で思っている。

 だから、松江でまさに真っ最中の
やつらと出会って時間を共有したことは
良かった。

 成層圏を目指す、青年たれ。

9月 9, 2006 at 07:12 午前 |

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コメント

茂木先生御講演ありがとうございました!!
なかなか面白い話だったので最後まで飽きず、眠ることもなく聞くことができました。
僕たちのすぐ隣にカメラがあったのも要因かもしれません(笑)
また島根もしくは鳥取のほうで講演をされることがあったら足をはこばさせてもらいます!!

投稿: 通りすがりの学生H | 2006/09/12 18:53:23

 そのような不安と向き合っている限り、人はいつまでも青春・・・。これで分かった!?少しは自分が肯定できました。いつも興味深く拝見しています。読むというよりは、話を聞かせていただいているって感じですね。

投稿: yumi | 2006/09/10 7:11:35

『青春』って、いい言葉ですね!

ちょっと、『青春』という言葉忘れていました。
『青春とは、勇気を持って、自信を持って、行動出来ることであ~る』だったかな~、誰の言った言葉か分かりませんが、この言葉が好きでした。

青春って、青い梅のイメージがします。

引っ越しを考えていて、今日、物件を案内して貰っていたのですが、窓から、相撲部の太った人たちの姿が見えて、オマケに、丸裸で、まわしをつける所で、その光景が目に入り、ビックリしましたが、青春だな~、と微笑ましくなりました。

不安を抱えているのが、青春とは・・では、私もまだ青春といえるかしら。
これからは、『成春』、って感じで行こうかな。
フラワーピッグはロケットに乗っているんですね。
私は、割れない風船に乗ったフラワーピッグにして貰おう!

投稿: tachimoto | 2006/09/09 22:33:15

「人生、いつも、自分というものが
劇的に変わる時なのだから大切だと思い続けて
いたいものだ」という言葉にジーンときました。
茂木さんが相田みつをさんのように思えて
しまいました。

投稿: ユリ | 2006/09/09 20:45:04

嗚呼、大根島!一体何を秘めたるや…。

今宵の夢でフラワーピッグが、たくさんの大根たちと盆踊りする光景を見るかもしれない。

青空へ向かってグングン伸びる年頃に抱いた、底抜けするような、自分の存在自体が危うくなるような不安から目をそらさずに生きていれば、肉体は100歳なれど、心は何時でも青春のままでいられるのかな。

周りを見ていると、みんながみんなそうでないけれど、肉体は10~20代なのに心は100歳、という人がけっこう多い。

そういう人は、一概には言い難いけれど、不安から逃げ出そうとして、もがいてばかりの人のように思える。

若者よ、もっと不安に立ち向かって乗り越える勇気を!

そこに成層圏に向かってロケットスタートでダッシュするくらいの生きる力が沸いてくるものだ。

不安からは畢竟、逃げられないのだ。

人は不安と立ち向かって乗り越えて、一つ一つ成長していく存在なのだ…。

脳研究者の立場から、不安に苛まれて悩んでいる人に勇気と希望あふれる言葉を投げかけてくれるフラワーピッグこと茂木先生よ、有難う。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/09/09 20:13:46

松江東高校SSH担当 泉雄二郎 です。

茂木先生、
ご講演ありがとうございました。

また、クオリア日記には、
素敵なコメントを綴っていただき、
とてもうれしくなりました。

9月8日の午後、さわやかな風が、
校内、とりわけ、
生徒の脳内を吹け抜けていきました。

サヤサヤと、その余韻が、
校舎内(生徒の表情)に残っています。

一歩だけ前に進む勇気を、
生徒達に与えていただき、
松江東高にとって、
とても有意義で爽快な講演会でありました。

「発展的な歩みを続けるには、
”安全地帯”を持つことが大切」
とのお話がありました。

「生徒は、地域、家庭、学校、
クラス、部活動、友人たち
・・そして自分自身の経験、
どこかに、
”安全地帯”を構築できているのだろうか?」と、
不安になりました。

「人生における、
いざとなったら帰ることのできる場所」
高校が、そんな存在になるといいな、
と思います。

生徒に、
多様な体験を与えつつ、意欲を引き出しつつ、
私も、
ドーパミン系を活性化し、
ますます教育欲を高めていこうと思います。

投稿: 泉雄二郎 | 2006/09/09 17:06:06

松江東高校SSH担当 泉雄二郎 です。

茂木先生、
ご講演ありがとうございました。

また、クオリア日記には、
素敵なコメントを綴っていただき、
とてもうれしくなりました。

9月8日の午後、さわやかな風が、
校内、とりわけ、
生徒の脳内を吹け抜けていきました。

サヤサヤと、その余韻が、
校舎内(生徒の表情)に残っています。

一歩だけ前に進む勇気を、
生徒達に与えていただき、
松江東高にとって、
とても有意義で爽快な講演会でありました。

「発展的な歩みを続けるには、
”安全地帯”を持つことが大切」
とのお話がありました。

「生徒は、地域、家庭、学校、
クラス、部活動、友人たち
・・そして自分自身の経験、
どこかに、
”安全地帯”を構築できているのだろうか?」と、
不安になりました。

「人生における、
いざとなったら帰ることのできる場所」
高校が、そんな存在になるといいな、
と思います。

生徒に、
多様な体験を与えつつ、意欲を引き出しつつ、
私も、
ドーパミン系を活性化し、
ますます教育欲を高めていこうと思います。

投稿: 泉雄二郎 | 2006/09/09 17:03:51

“自己批評が必要なのは個人だけでなく国家もそうなんであって、それはいわゆる「自虐」などというのとは違います”。
巷間、世間に跋扈する「ぷち/がちナショナリズム」を唱える人々や、それに付和雷同する人たち、いままでの歴史観を「自虐史観」などと言って攻撃する人たちというのは、その自己批評と自虐とをごっちゃにしてしまっているのではないかと思う。きちんとした自己批評の出来る「真の大人」がこの国に増えないと、本当に日本は大人の国にはなれない。

“自己批評というものは、揺るぎない自己への愛、生きる意志というものがあってはじめて生きてくるもの”
ここでいうところの揺るぎない自己への愛、とは「ナルシシズム」ではなく、いつ劇的にかわる自己の存在を大切に思い、かつ、他者の存在をも同じように大切に思うことであると解するが如何でしょうか。

結晶のように不変なものを目指すのではなく、自己の存在を揺るがすほどの不安と向き合いつつ、フレキシブルに生きてゆきたい、だってそうでなかったら、人生、停滞したままになっちゃうでしょう!

ただし!これだけは茂木さんとは意見が違います。自己という人間の生命の奥底に、全宇宙を貫く生命の法則を常に知覚し、意識しながら不安と向き合って生きていこうと思っている。
人生の出発を意味するロケットに乗り、どうせなら成層圏を突抜け、銀河の中心をめざす・・・というような、生き方をしたいものだ。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/09/09 11:54:32

島の眺めと波の音…

どこかこころの奥に響くものありて…


さて、やはり松江といったら「小泉八雲」でしょうか?

いつぞや、そんなお話をなさっていませんでしたっけ?

もしかしたら「八雲立つ」さまをご覧になられたのでしょうか?

季節はやがて移りゆき

青いこころを携えて  いまだ旅する  秋の夕暮れ

投稿: TOMOはは | 2006/09/09 7:48:01

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