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2006/08/09

その点は触れないでください

 高知から羽田に帰ってきて、
空港で朝ご飯を食べた。

 南ウィング到着出口2番
を出たところにある
Bakery & Cafe Blue Sky
は思い出の場所。

 『脳と仮想』の前書きで触れた、
サンタクロースの会話をふと耳にした
場所である。

 2001年の暮れ、私は羽田空港にいた。朝一番の飛行機で旅行から帰ってきて、レストランでカレーライスを食べていた。私の横に、家族連れがいた。五歳くらいの女の子が、隣の妹に話しかけていた。
「ねえ、サンタさんていると思う? 〇〇ちゃんは、どう思う?」
 それから、その女の子は、サンタクロースについての自分の考え方を話し始めた。
「私はね、こう思うんだ……」
 その先を、私は良く聞き取れなくなり、カレーライスの皿の上にスプーンを置いた。
「サンタクロースは存在するか?」
 この問いほど重要な問いはこの世界に存在しないという思いが、私を不意打ちしたのだ。

茂木健一郎 『脳と仮想』(新潮社)より

 もう、4年半たつのか、
とガラス窓の前に立って思った。
 あの時、あそこの席に座っていて、
女の子はあそこにいて・・・と
はっきりと思い出すことができる。

 カレーライスを食べ終え、
空港のターミナルを歩き始めた
私は、
 思考の確かなとっかかりを掴んだ
よろこびに、高揚していた。

 ふとしたことがきっかけとなり、人生を
確実に変えていく。
 波乱はいつ訪れるかわからない。

 羽田のあの店は
私にとっての聖地の一つだ。

 余裕だろうと思って乗ったタクシーが
首都高速の大渋滞でなかなか着かない。

 雨が降ると車が混むとは
言うが、
 ずっとのろのろ。これならば
モノレールに乗れば良かったと
併走する高架をうらめしく見る。
 
 NHKの打ち合わせに遅れて
到着。
 申し訳ありませんでした。
 
 『プロフェッショナル 仕事の流儀』
の最初の収録の時に意気投合して
結成した
 「極悪三兄弟」。

「次男」の小池耕自さんがクローズアップ現代に
移籍予定ということで
解散の危機に瀕している!

 しかし、
 「三男」の河瀬大作さんが
デスクを勤めた「花火師」の
VTRが面白かった。
 極悪三兄弟、
 「長男」はともかく、
次男三男はすばらしい活躍ぶりである。
 次男も「クロ現」で暴れるだろう。

 NHKを出て、
一路東方へ。

 吉本隆明さんにお目にかかる。

 吉本さんには、いつもながら
虚を突かれる。

 皆、老人と決めつけるが、
100歳まで生きるか、150歳まで
生きるか、わかるはずはないじゃないか、

 人類の歴史というものは、畢竟
個人史ではないか。

 マルクスは「限定された類」と言ったが、
本当に限定されているかどうか、
わからないじゃないか。

 吉本さんの言葉を自分の内側に響かせて
いるうちに、
 精神の中でなにかがうごめき始める。

 触発されるものが世間で流通している
回路とは違う。
 人間のあるべき、に対する
感度が違う。

 学問を超えた総合性とでも
言うべきものだろう。
  
 カメラが入り、
対談風景を撮った。

 最後に吉本さんと並んで、
二人で収まった。

 吉本さんのお宅には、あと何回か
うかがう予定。

 ヨミウリ・ウィークリーの
川人献一編集長がご栄転で、
今までお世話になったことに対する
お礼の会が丸ビルで。

 川人さんが時折考えにふけるような
表情を見せ、 
 週刊読売以来の川人さんの
編集人生を垣間見る思いがした。

 川人さん、ありがとうございました!
今後も宣伝部長としてご活躍くださいますよう!

 家に帰ってくると、徳間書店から
重版通知があり、
 何だろうと開けてみると、
うれしい驚きだった。

『生きて死ぬ私』

を8月31日に
2000部増刷すると言う。

 

 1998年に8000部発行され、
その後絶版状態だった
この本に動きが出たのは、
『生きて死ぬ私』(ちくま文庫)
を発行してくださった
「たけちゃんマンセブン」こと
増田健史さんのお陰である。

 文庫本で読める、ということは
本当にありがたいことだけれども、
読者の皆様の便宜のためにお伝えしたい
ことがある。

 徳間書店版とちくま文庫版には実は重大な
差がある。

 徳間書店版には、その頃出始めたばかりのデジカメ
で私が撮影した写真が多数掲載されていて、
それが原著の独特の味わいとなっていた。


「結婚式」(『生きて死ぬ私』より)

 ちくま文庫版のあとがきを書いている時、
「もとの本には写真があったが」などと
触れたら、たけちゃんから「茂木さん
お願いだからその点は触れないでください」
と言われてやめた経緯がある。

 というわけでございまして、
 二つの本は性格が違うので、
徳間書店版は写真を含めた「愛蔵版」
ちくま文庫は携帯に便利な判型として、
両者ともどうぞご愛顧いただければ
幸いに存じます。

 ここのところ本当に仕事に追われていて、
紙一枚も挟むスペースがない。

 ASAP(as soon as possible)
で小俣圭、柳川透、恩蔵絢子の
論文をしあげなければならないし、
 本当に苦しい毎日である。

 そんな中、この日記を書いている時だけ
人心地がする。
 
 オレはひょっとしたら千日回峰行
をやっているのであろうか。 

8月 9, 2006 at 07:03 午前 |

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久しぶりの連休をとり、心機一転。今日は、六本木の新装開店のクラブから引き合いが入りました。クラブ内に飾るインテリアフラワー(店内装花・ディスプレイ)のお見積もりをして欲しいとのこと。まだ、内装工事中なので、内装が出来次第来週の頭にでも現地視察に伺う事に...... [続きを読む]

受信: 2006/08/22 19:59:35

コメント

     ・・・千日回峰行・・・

今日は、何日目?   初日です。 毎日が初日です。
     
初日を1000日 重ねたとして 悟れるはずも無く

   ましてや 千日回峰行 放棄の自由意志も無い

      悟る人は悟るべき時に悟る

 ***** ***** *****

☆ 脳とクオリア ☆ 1ページ目 より
 
    人間には本当は自由意志はないと思っている。

私は、今でも、人間の脳の中の分子は究極的には物理法則にしたがって動いていると信じている。脳に意識が宿ることによって、分子のうごきが変わることはないと思っている。したがって、本書にも書いたように、人間には本当は自由意志はないと思っている。  1997年著

   2006年 現在も?

自分の世界観が変わってしまうような出来事は、一生のうちでも何回もあるわけではない。とも

*とりあえず 意志が強い 意思が弱い 辺りから
三日坊主は、出来ないことをしようとしただけ坊主 ということから 考えて見ます。*

   

投稿: | 2006/08/09 21:18:54

その人の声を自分の中に響かせていると、精神の中で何かがうごめき始める。ということは、それは自分自身が新しく“生まれ変わる”ということと大いに関係あるに違いない。

吉本さんとの対談は、茂木さんの自己を新しくする作用をもたらすのに違いない。

とにもかくにも、すぐれた人物との出会いは、自分を変える力を持つ。

それにしても、本当にお忙しい茂木さんではある。しかし、忙しいということは、それだけ世間に必要とされている証しでもある。
それでも、やはり、ご本人にとっては、ココロからの休養というものが必要なのもわかる。

でも世界中を見渡せば、茂木さん以上に忙しく動き回っている人々はたくさんいる。休みたくても休めない、あるいは休まない人たちが沢山いる。

それを思えば、もし自分が茂木さんと同じ立場になった時、忙しいからズル休みしたいとは、口が横に裂けても言えないだろう。

しかし、今の茂木さんとしては、一番欲しいのが“暇”なのに違いない。精神が一番暇を欲している時期なのに違いない。

ともあれ、仕事仕事で苦しい毎日をやり過ごす為には、何か発想を転換する必要があるようです。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/08/09 19:54:20

番組製作の舞台裏って面白そうですね。
クローズアップ現代とか、しぶい番組でも、裏ではやはり爆発しているんでしょうか。
作り手でがらっとかわったりするのかな。
次男さん楽しみです。

写真入り『生きて死ぬ私』もとっても楽しみです。
先生は写真もお上手なんですね。早くみたいなぁ。

千日回峰行って・・厳しそうですね。

この間、日記を読み始めて百日が過ぎたことに気づきました。
不精者のわたしが、知らぬうちにお百度参り。(少しあいたことありました・・)
これも先生の日記が楽しいせいであります。
人心地がうつってしまうのかもしれません。
どうせならなにか願をかけておけばよかったなあ・・。
無事にお百度も過ぎ、先生も紙一枚状態が続きそうなので、
御参りの頻度を減らすべし、とスタメンを拝見して考えました。

さいきん、吉本隆明さんのご近影をよく目にするんですが、見るたびに、うみがめのような、なんともいえない優しい表情をされているんだなあと思います。


投稿: | 2006/08/09 14:37:17

写真には、言葉にならなかった想いを
定着させる力と、意識と無意識をつなぐ
何かの力があるといつも思っています。

茂木さんの撮られた写真、是非観てみたい。

どんな茂木さんに会えるのか楽しみです。

「生きて死ぬ私」
徳間書店版、楽しみにしています。

本当に、日々、お疲れ様です。
でも、茂木さんの美しい想いは、その犠牲によって
確実に、拡がっていると思います。

千日回峰行、達成される日は近い気がします。

投稿: | 2006/08/09 9:13:49

『千日回峰行』とは…

なかなか良い譬えかもしれませんね…

瀬戸内寂聴さんの「釈迦」を読んで
いたく、こころに響くものがありました。


それから「チョコとコーヒー」のお話を、昨日読んできましたので

その修行にも、きっと「~~ハイ」のようなことがあるのかしらと
不謹慎な想像が浮かんでまいりました。

(ところで、ず~~っと気になりながら、伺えずにおりましたが
読売ウイークリーの挿絵を書いていらっしゃるのは
先生にゆかりのある方なのでしょうか?
先生のおはなしと、とてもよくあっていて
チョッと可愛くて、子どもの心を残しているような…
実は、今度はどんな挿絵なのかしら…と楽しみにしています!)

投稿: TOMOはは | 2006/08/09 7:32:15

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