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2006/08/26

 ユーミン現る!

ホテルをチェックアウトした後、
私は終わらせて日本に送らなければならない
 急ぎの仕事があったので、
 ロビーにてかちゃかちゃやっていた。

 田谷文彦は、アストリアホテルの近くにある
聖イサク寺院の内部を見学に行っていた。

 突然、誰かが「茂木先生!」
と声をかけてきた。
 目をあげると、雲母(きらら)社の
小熊晃代さんである。

 後ろから、「あら!」という感じで、
サングラスをかけた松任谷由実さんが
現れた。

 先日ユーミンのラジオに行った時、
たまたま二人ともサンクトペテルブルクに
行くということが判明した。
 それで、「できれば現地で会いましょう」
などと言っていたのだけれど、
 ボクがチェックアウトする日に入れ替わりで
ユーミンがチェックインするということで、
これはムリだ! と諦めていたのである。

 ボクたちの飛行機は夜の7時で、
その前に田谷文彦とロシア料理を
食べに行こう、そうだ、もう一度きっちり
キャビアで勝負しよう、しかし、
その前に急ぎの仕事を
終わらせよう、とロビーにいた時に
ユーミンが現れたのである。

 「こんなに早くホテルに来るとは思いませんでした」 
 「飛行機が少し早く着いたの」

 サンクトペテルブルクの神様は
不思議な神様である!

 「ここで待ってますね!」
と言って、ユーミンを見送った。

 仕事を再開し、終了し、
 ちょうど電子メールを送り終わった時に、
ユーミンが
「これ、ウェルカムでもらったの」と
言いながらシャンパンを持って戻ってきた。

 通訳のターニャも一緒である。


ユーミン、ターニャ、田谷文彦、小熊さん
撮影 茂木健一郎

 きらら社というのはユーミンの会社で、
小熊さんはゆっくりシャンパンを飲む暇も
ないくらいいろいろ電話をしている。

 ユーミンたちは、来日するサーカス団との
仕事(ユーミンの歌で、サーカスの人たちが
何かするらしい!)でモスクワに来ている
のだが、
 その合間に、サンクトペテルブルクに
来た、ということのようで、
 そんなこんなを話しているうちに、
「じゃあ、ダヴィドフでご飯を食べましょう!」
ということになった。

 テーブルに座ると、ユーミンの
怒濤の注文が始まった。

 「どうせだったら、一番いいキャビア
食べましょう」
 「今、もってくるので、どの大きさが
良いか、決めてください」
 「そうねえ、じゃあ、これにしましょう」
 「パンケーキがいいですか」
 「それよりも、あの、黒いパンが
いいわ。なんていったっけ、あの、ドイツパン
よりも黒いやつ。あと、アジイカはあるかしら」
 「ないかもしれませんが、キッチンに言えば
つくるかもしれません。あるいは、運転手にそう
言えば市場から買ってくるかと思います」

 ユーミンがいろいろ「おいしそう!」な
アイデアを出すと、ターニャが見事に
それに対応する。
 そのやりとりの
コレオグラフィーを私は
 感心しながら見ていた。

 私など、メニューを見て、まずは
酒を注文して、「これとこれとこれ!」
などとテキトーに頼んであとはぼーっとしている
だけなんだけど、
 ユーミンは組み立てから自分で考える。

 凄いなあ、と思った。

 ダヴィドフはアストリアホテル内の
レストラン。
 アストリアホテルのエレベーターの
横には、過去に宿泊したVIPの名前が
プレートになっていて、
 大統領や王様の類も多い。
 どんな注文にも、柔軟に対応できる
体制はもともとあるのだろう。

 「先日、自動車の中で宮沢賢治の
「注文の多い料理店」の朗読を聞いていたん
ですがね」
 「うんうん」
 「ポップスターと
国家元首は、どっちが注文が多いと
思いますか?」
 
 「あら、国家元首は、そもそもそういうこと
知らないのよ」
とユーミンはキャビアをたっぷり
黒パンに載せながら言った。

 「ぜーんぶお膳立てされているから。何が
おいしいとか、何と組み合わせると良いとか、
そういうことは知らないんじゃないのかしら」

 なるほど。
 私は国家元首ではなくて、
どちらかと言うと南の国の
ボケラッタ大王だが、ユーミンの言った
「アジイカ」
というのは知らなかった。
 話を聞いていると、
香辛料を練り上げたようなものらしく、
とってもうまいものらしい。

 アストリアの厨房がつくってきた「アジイカ」
が満を持して登場、となった。
 しかし、あわれ、これは
ユーミン的には「却下!」になった。
 「これは、サルサっぽいわね」
というのである。
 確かに言われてみるとサルサっぽい。
 幻のアジイカがどんなアジナノカ、
俄然気になってきた。

 「二度付け禁止!」
と叫んでアジイカならぬサルサイカに
いろんなものを付けて食べる
ユーミン。
 「私はウラジオストクの出身なのです」
とにこにこして言うターニャ。
 「あっ、私はこういうものです」
と名刺を差し出し、小熊さんと挨拶を交わす
田谷文彦。
 いろいろな光景が午後の太陽が差し込む
空気に溶け合って、
 記憶に残るランチョンとなった。

 ユーミンは本当に親切な人で、
「エルミタージュ美術館は逃げていかないけど、
茂木さんは今日で帰っちゃうから!」
と、ボクと田谷文彦を自分の車で
空港方面に送ってくれた。

 その途中で、「アジイカ、黒パン!」
とマーケットに寄ってくれた。
 私はウオッカをひっかけて
赤い顔をしてふらふらしていたが、
 ユーミンはしらふっぽかった。

 おかしいな、同じ量を飲んだはずなのに!

 しかし、赤いコートがちょうど良い
カモフラージュになっていたのかもしれない。

 きっとそうだ! 夏にウオッカを
飲む時には赤い服に限る!


顔が赤い私と、服が赤いユーミン。サンクトペテルブルクの市場にて。
撮影 田谷文彦

 ユーミンにこっち、こっち、
と言われて手の上に載せてもらって
なめたアジイカは、
 香辛料たちが自分たちを生んでくれた
母なる大地に帰る途中のような、
 そんな味がした。

 ユーミンたちは、タクシーで
エルミタージュに向かい、
 どうぞこの車で空港まで行って
くださいと言う。
 かたじけない。
 このお礼は、いつかどこかで。。。

 手を振って車が走り出すと、
風景がふわーっと溶け出した。

 飛行機に乗り、フランクフルト
の空港に降りる寸前、深々とした
森が見えてきた。

 フランクフルトにはトランジットで
何回も来ているが、
 いつも眠っているか通路側で、
こんなに深く、広い森があるとは、
私は知らなかった。

 昔愛唱していた、ゲーテの詩が
浮かんできた。

Über allen Gipfeln
Ist Ruh',
In allen Wipfeln
Spürest Du
Kaum einen Hauch;
Die Vögelein schweigen im Walde.
Warte nur! Balde
Ruhest Du auch. 

 最後の
「待てよしばし、もう少しで
お前も憩うのだ」
というフレーズを、人生の慰めに
していた時期もあったのである。

 中央駅まで電車で出て、
張キさんは別のホテルで、
田谷とチェックインし、
 近くの店まで歩いて
ビールとハンバーガーのようなものを
食べた。

 旅の終わりに、何だか少し憩うた
気がする。


フランクフルトの小さなレストランで。
撮影 田谷文彦

 飛行機の中でもらったDie Zeitという
新聞に、
 「私たちは新しいフェミニズムを必要としている」
という記事があった。
 「15人の女性たちが、いかに彼女たちが
男たちの心の準備を過大評価して、結果として
力を受け渡してしまったか、ということを記述する」
と副題。

 メディアの論調が
国によって違うことにはいつも新鮮なオドロキを
感じる。

 ドイツの新聞を読んでいて、日本が
地理的な距離以上に遠く感じた。


8月 26, 2006 at 02:29 午後 |

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コメント

ユーミンとの時間が素晴らしすぎてぼーっと、なってる?!

茂木さん、ぶっきらぼうに立ちすぎです!

ユーミンのポーズのとり方、さすがですね。きれいです。

お二人に差がありすぎて、笑ってしまいました。

投稿: 平太 | 2006/08/26 18:51:03

「夏にウォッカを飲むときは赤い服に限る!」なんて、茂木先生、愉快なことを言っちゃってくれちゃってます。

夏にウォッカを飲む時赤い服なら、冬は毛皮にくるまって飲んだりして・・・何のこっちゃ(@_@)
ウォッカを飲むなら赤を着て、シャンパンを飲むなら白を着て、赤ワインを飲むなら黒を着たりして・・・。
清酒を飲むなら浴衣着て、泡盛飲むなら紅型で・・・。
これまた失礼致しましたm(_)m

投稿: 銀鏡反応 | 2006/08/26 16:15:03

あら〜!
ホテルをチェックアウトするぎりぎりにユーミンに会えて、よかったですね〜、茂木先生!(^0^)
ウォッカをひっかけて赤くなっている茂木先生の顔をユーミンの赤い服が見事にカムフラージュしてくれてます。
それにしても同じ量を飲んだはずなのに先生は赤ら顔になり、ユーミンのほうがしらふっぽいなんて・・・。
ユーミン、お酒はどうやら先生よりお強いのかもしれませんね(笑)

アジイカ、どんな食べ物なんだろう?私も食べてみたいなあ。母なる大地に香辛料が還る味・・・なんて、とてもいい表現ですね。食べるときはクロパンもお忘れなく!ってことですね。
「待てよしばし、もう少しでお前も憩うのだ」このフレーズに「永遠の休日」という言外フレーズが、我が脳内から浮かんできました。
永遠とはいわなくても、このロシアでの、茂木先生の一週間は、お忙しいけれども、憩いの時がちゃんとあって、まさに「忙中閑あり」を体現しているのではないか、とワタクシ的には思ったのですが、如何でありましょうや。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/08/26 15:50:42

ユーミンの笑顔、かっこいい! 
偶然会えるなんて、縁ですねえ。
ホテルのロビーも、写真の部分だけ見てもすてきなかんじです。いってみたいなあ

「アジイカ」はじめて聞きました。サルサみたいに、ディップで食べるんですか。。
味もにているのかな。。気になります。

ユーミンは食いしん坊なんですね。
食いしん坊のひとには、けっこう無条件でひかれてしまいます。
甘いもの好きだったら、もうばっちり(笑)
食べ物の好みが似てる人とは、かなりの率で気が合う感じがするんですが、味覚って性格となにか関係してるんでしょうか。。

酔っ払い先生も、ビール片手のお写真すてきですね。
ゲーテの詩のところ、じーんときました。。

投稿: M | 2006/08/26 15:18:06

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