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2006/08/02

みーんみーんみーん

私が連携教授をさせていただいている
東京工業大学大学院の入学試験。

 すずかけ台キャンパスで、
受験生のみなさんの真剣なプレゼンテーション
を聞き、
 質疑応答をする。

 事前に修士一年の野澤真一から
メールをもらっていた。
 石川哲朗といっしょに、すずかけ台に
いるから、
 昼になったら連絡をくれ、
というのである。

 私の研究室の学生は、修士一年の時は
授業などもあり、すずかけ台にかなり
くる。
 その後は、五反田のソニーコンピュータサイエンス
研究所が主な研究の舞台になる。

 今は、野澤と石川にとって、
「すずかけ台時代」である。 

 それで、「昼になったら連絡をくれ」
というのは、すずかけ台の駅前にある
てんぷら屋「てんてん」で飯をおごれ、
というのである。

 私は、新しい場所にいくと必ず
周囲の飲食店をサーチするという
犬のような習性をもっているが、
 すずかけ台駅の場合、
周囲は静かな住宅地で店らしい店も
ない。

 サーチはあっという間に
終わって、
 おいしい店はてんぷら屋の
「てんてん」にトドメを刺すということが
すぐに判った。

 てんてんがすり込まれた
私の脳髄は、用事があってすずかけ台
に行くと、「てんてん」に行くのを
楽しみにしている。

 野澤に、「なんで今日すずかけ台
で試験があるって知っていたんだ?」
と聞くと、
 「だって、知能システム科学専攻の
ホームページに載って
いたじゃないですか」
と言う。
 
 それはそうだが、野澤の動機が、
後輩たちが入ってくるのはいつかを知りたい、
ということにあったのか、
 それとも衣がついて油で揚げられた
魚介類への志向性にあったのかどうかは
判然としない。

 いずれにせよ、お昼、
めでたくテーブルに着く。

 私と石川は天丼、野澤は
天ぷら刺身定食。

 「こういうところに来るとね、柳川透は
一番高いものを頼むんだ。この前夜
来た時には、あわびの天ぷらを頼んだんだよ。」
と教えてやったら、
 野澤は躊躇なく、尊敬する先輩を
見習う道を選んだようだった。

 夜、渋谷でNHKの細田美和子
さんが正式に「番組開発部」から
「プロフェッショナル」班に移動
されたことをお祝いする会。

 少し遅れて会場に行くと、
大変な数の人たちがいた。

 博多から異動して、
PDとして参加することになった
石田さんとしばらく話す。

 石田さんによると、
NHKの先輩が、
 「そうか、今NHKで一番過酷と言われる
現場に行くんだな、オメデトウ」
とはなむけの言葉をくださったとのこと。

 過酷ではあるが、intenseな
経験なのだろうと思う。

 宴もたけなわ、
撮影、音響効果、音声、編集、フロア、スタッフ
などなどの様々なセクションの方々が
立ち上がり、番組に対する思いを語る。

 印象的だったのは、撮影班の百崎さんが、
「プロフェッショナル」の現場を通して、
ドキュメンタリーの本来の醍醐味、
つまり、最初から教科書的な答えが
あるんじゃなくて、
 一体何なのか、正体がわからない
対象に対して、そのわからないところに
こそ本質があると信じて迫っていく、
 そのような原点を思い起こさせて
もらった、そのような場を
与えてくれた有吉伸人さん
ありがとう、と語っていらっしゃった
ことだった。

 制作現場には、様々な思いが
あふれているが、それは最終的な
「プロダクト」に明示的な形では
書き込まれていない。

 しかし、人々はそのような
思いを、最終的に形になったものから
暗示的な形でも必ず受け取っているのではないか。

 消費者行動を理解する
上での鍵となる概念とされる
「インサイト」にしても、
 そのような暗黙知の
伝達を考えて初めて意味のあるものとして
立ち上がるのではないか。

 そんなことを考える。

 最近の私にとっては、
歩きながら考えるのが何よりの
快楽になっている。
 「逍遥学派」であるが、
現代のショウヨウガクハは雑踏の中を
リュックを背負って歩く。

 昨日は、すずかけ台や渋谷を歩きながら、
一つは、小俣圭のSOMによる
マガーク効果再現の意味と、
 もう一つは、不確実性に対する記述
としていかに確率概念を超えるか
ということを考えていた。

 確率は、factualとcounterfactualを
ひとまとめにしてアンサンブルとして
扱うが、
 その二つを明確に分けて処理の
流れを考える必要がある。

 その具体的なプロセスは脳の認知
感情記憶回路にあるはずだ。

 秋のような涼しさ。しかしまた
暑さがやってくるだろう。

 これからが人生の夏の盛りであるような気がなぜか
してくる。

 みーんみーんみーんと懸命に
鳴いてみよう。

8月 2, 2006 at 06:37 午前 |

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コメント

その人にとって、歩きながら考えていることは違うけれども、科学者にとっては考えること自体が快楽なのだから、逍遥的行為は忙しい今の茂木さんにとって、とっても!貴重な行為なのかも。

ちなみに、自分が歩きながら考えていることは、その時々で違うけれども、いま主に考えているのは「どうやったら茂木さんのような知性の人ともっと仲良くできるか」ということだ…。お気を悪くしたら申し訳ありません。

学生時代から、数学も苦手で、科学もいまいちだった私が、何故かこうしてこの「日記」にコメントを書きこんでいるのは、ひとえに茂木さんの知的守備範囲の広さと、心的スケールの大きさに引かれたからに他ならない。

ただ、もう少し、誠実に振る舞えたらいいと思うこともしばしばだ。

ウチの近くでも、やっと、みーんみーんみーん、と蝉がせわしなく歌い始めた。

茂木さんの人生の夏に僥倖あれ。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/08/02 18:35:48

すずかけ台にいくとヨダレが出る先生。
パブロフのわんですなあ。

日記で、どうして東五反田の研究所っぽいのに
学生さんが出てくるんだろうと思っていた
なぞがとけました。

いいなあ、先生の研究室。
わたしもあわびてんが食べたい
カラスになればいいのか…

ショウヨウガクハって
カタカナで書くと、ちょうちょうみたいですね。

投稿: M | 2006/08/02 7:36:13

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