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2006/08/13

「アダモステ」現る!

 「できることは何でもやる」
この哲学に私はとりつかれた。

 とくに、不可能と思われること、
どうせ成功しないと思われることでも、
 できることはいろいろ
あるんだから、何でもやる。
 それがいいんじゃないか。

 IT化、インターネットの発達は、
「できること」の範囲を拡大しつつ
あるように思う。
 
 原理的な限界があったとしても、
それがあたかもないかのように
営々と努力する。
 そんな態度がふさわしい時代。

 検索するとどうもその方が良いようなので、
新幹線を大宮で降りて、
 湘南新宿ラインで行こうと思った。

 グリーン券を買って、座って仕事を
しようと思ったのである。

 ところが、グリーン車まで満員で、デッキに
人が立っていた。
 立ち席でもグリーンはいると書いては
あるが、何だか釈然としない。

 仕方がないので、アハ・センテンスを
一つ考えた。

 「動けなかったのに、予定通り
目的地に着いた」

 答えは一番下で。

 三鷹の天命反転住宅。
 桑原茂一さんが、スカイパーフェクトTV
とディスカバリーチャンネルと
やる親子向けのイベントで
 話をしてくださいと頼まれていた。

 桑原さんには、私を野口英世に
仕立てた「前科」がある。
 今回も何かあるのだろうと思ったら、
ハワイの「ロコ」に仕立てられた。
 私の前に、すでに吉村栄一さんが
黒塗り仮面と化していた。
 ミョーに似合って、
昔「オレたちひょうきん族」に出ていた
 「アダモステ」現る!
かと思った。

 鏡の前に座って、
黒く塗られ、
 アロハシャツを着る。

 今日来るこどもたちが、もともと
そういう人だ、と思ったらどうするんだ
と考えたが、
 乗りかかった船だから、そのままぐいぐい
漕いでいく。
 
 そんなわけで、「南の島大学 脳研究所
ドクター茂木」としてこどもたちの
前に登場した。

 さて、このイベント、コンセプトは
桑原さんから伝えていただいていたものの、
あとはその場のこどもたちとのやりとり
を通しての即興。
 キャラクターつくりとか、会話とか、
すべてその場で作っていく。

 このような労働集約的な現場は
楽しい。
 自分の身体とか智恵とか、
そういうのをぎりぎりの密度で
酷使することをしないと、
 仕事をした気がしない。

 それは、研究もそうだし、文章を書くのも
そうだし、このようなライブの場も同じだ。

 何かに似ているな、と考えていて、
 むかし、町内のこども会で
劇団のお兄さんとかお姉さんが
来て、「ふるやのもり」や、
「やまんば」を演じてくれた時のことを
思い出した。

 こどもは、大人がばかなことをやっているのを
見るのが好きで、
 ものすごい勢いで精神的によりかかって
くる。
 もっと、もっと! というエネルギーは、
「八時だよ全員集合」で「志村、うしろ!うしろ!」
と叫んでいた高度経済成長期のこどもと
今のこどもたちは変わらない。

 ぼくがこどもの時、
夏のこども会に来てくれた
お兄さん、お姉さんたちも、それぞれの
青春の都合の中で、何とか時間をやりくりして
 こどもたちのためにとやってくれたんだろう。
 どれくらい練習したり、段取りしたり
する暇があったかわからないが、
 一度こどもの前に出てしまえば
待ったなし、
 容赦はないから、精一杯演ずるしかない。

 別の部屋では、料理ユニット「GOMA」
の人たちがふしぎな味のたべものを供し、 
 そして東京芸術大学の植田工が
ディレクションした「芸大部屋」では、
 ボクサーとか、ボディトレーナーとか、
風船とかがあって、
 奇妙なテーストの空間をつくり出していた。

 こどもたちには、「芸大部屋」
はどのように見えただろう。
 制作者として、ずらりと芸大所属の
名前がならんでいる。
 お父さん、お母さんに聞いて、
美術系の最難関だということを知るかもしれない。
 
 その人たちが、なぜ、一生懸命
あんなばかなことをしているのか、
 そのしみじみした味わいに
何かを感じてくれたらなあと思う。

 オレだって、「南の島からやってきた
ドクターもぎです。日本にアハ体験を広める
ためにやってきました!」
などと言っていたけど、
 ふだんは少しはマジメなことを考えて、
やっているのです。

 三回の授業が終わった後、
取材に来ていたひとたちから質問を受けた。
 案の定、「茂木さんは今日のために
日焼けしたんですね」という人がいた。

 そうではありませんってば。
 黒く塗ったんです!

 助手役の「アダモステ」、吉村栄一さんは、
会話の途中でわたしがつい
 「助手の吉村くんは、マジックが得意だったね!」
などと言ってしまったもんだから、
 最後に「このコップの水を1秒で消してみせます!」
と叫んで、
 ぐるりと一周しながら飲み干す
はめになった。
 
 いやあ、大人とこどもの交渉の場に
表れるさまざまなダイナミクスは実に面白い
ものですね。

 時々童心にかえることのできる
大人に、悪い人はいないように思います。
 見学に来られた電通の佐々木厚さんも、
「うん、うん」と深く肯いていたのでした。

 すばらしい夏の一日をプロデュースして
くださった桑原茂一さん、ありがとうございました。

(答えは「満員電車」)

8月 13, 2006 at 08:47 午前 |

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コメント

親子ドキュメンタリー教室で感化され、アロハを親子で買いそろえ考えました。「そろうと、おわると言われる・・・・」アハ破りお願いします。

投稿: のんちゃん | 2006/08/16 18:39:59

Gomaです。
土よう日はお疲れさまでした。
もじもじ族なため、あまりお話できませんでしたが、
ご一緒できてとってもうれしかったです。
茂木さんのお部屋にいけなかったのがとても残念です。
コドモたちの表情を見たかった。
ちなみにGomaの部屋ではすごいヘンな顔とか見れましたよ。

でもって「日焼けしていますね」と言おうとしてました。
が、塗ってたのかぁ。。
でもアロハの大王みたいなの、とてもよくお似合いでした!
またどこかでお会いできたらよいなあと思います。

投稿: Goma | 2006/08/14 13:16:57

Gomaです。
土よう日はお疲れさまでした。
もじもじ族なため、何だかお話できませんでしたが、
ご一緒できてうれしかったです。
「日焼けしてますね」と言おうとしてました。
が、塗ってたんだ。。笑 
でもアロハの大王みたいの、とてもよくお似合いでした。
またどこかでお会いできたらよいなあと思います。

投稿: Goma | 2006/08/14 13:13:14

済んだ事は、振り返らない 哲学に取り付かれました。

どうせパターン化された自分だから 開き直りもパターン化 

葛藤の先には 又元の自分 意味は無い。

変われない自分に味方 回りの所為にする。

なんて立派な 大人でしょう。

せめて前進いたしましょう。 本を読んだり 掃除をしたり

投稿: 一光 | 2006/08/13 22:41:01

茂木さんのご著書の裏表紙のお写真、思い出しました。
「野口英世」だったんですね!
すっきり納得。
私はこういうアイデア大好き。
とても印象に残っています。

茂木さんとこどもたちとの交流楽しそう。
ステキな夏休みの思い出ですね。
私は明日、こどもたちとの工作教室に
病院へ行ってきます。
(毎回、こどもたちの発想の豊かさに脱帽)

投稿: ユリ | 2006/08/13 20:51:01

初投稿です。
「自分の身体とか智恵とか、
そういうのをぎりぎりの密度で
酷使することをしないと、
 仕事をした気がしない。」
とは、まさにその通りですよね。
自分も、子ども達相手に仕事をしていますが、
『いかにバカになれるか』が子どもの
心をつかむのために大事だと思います。

ただ、夏休みの子ども達の元気パワーに押され、
ただいま1週間の静養中です。

茂木さんも童心に返るのもいいですが、ほどほどに。
子ども達のパワーは底なしですからね★

投稿: 健一 | 2006/08/13 16:42:26

おはよう御座います。
「アダモステ」と聞いて、かつてTV「オレたちひょうきん族」などによく出ていた、黒塗りもじゃもじゃアタマのキャラクター「アダモちゃん」を思い出したのは、ワタクシのみではありますまい(笑)。「アダモッちゃんでーすっ!ふぁーい!」なんていうのが彼のギャグだった。

コドモと言うのは、普段は“エラそうな”コトを言っている大人の姿をよーく見ているから、そんな大人が徹底的にバカをやっていると面白くてしょうがない。それはやっぱり「8時だョ!全員集合」を毎週見ていた我々の小学生時代も、イマドキの子供もまったく変わらない。

「全員集合」ではドリフターズが只管舞台で壮大なバカをやって観客を笑いに巻き込んでいた。天井から洗面器がメンバーの上に降って来たり、いきなりセットがぶっ壊れたり、本物のクルマが舞台に乗り込んで来たりと、毎週、とにかく本当に凄かった。

今回の皆さんのライヴは、その「全員集合」の系譜に繋がる、子供が滅茶苦茶大喜びするパフォーマンスなのだろうと思う。いや、大人も大喜びするやつだと思う。
しかもその舞台が、あの三鷹天命反転住宅というのが、ニクイではありませんか。

あの天命反転住宅で、大の大人がひたすらおバカをやる。さだめし何とも言えない面白い光景だったに違いない。

でもお馬鹿をやるには、童心にかえれることが大事なんだな。
童心にかえれない大人は、お馬鹿をやれない。エラそうにふんぞり返っている夜郎自大な権威者には到底無理な芸当であろう。

それはさておき、茂木先生の黒塗りアロハ調「アダモステ」風の姿、見てみたかったです…。さぞかし本家と似てたりして…(大笑)。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/08/13 10:47:55

植田工さんんのディレクションした「芸大部屋」に
子どもと一緒に行ってみたいです!!

こどもにとっては、肩書きは…意味などないのでしょうけれど

オモシロいもの・ことには、敏感に反応するのではないでしょうか?

ウチの子も、ユニークなお笑い系のようですが
ははとしては、理解できないことも多々あります…

このギャップも、面白がったり楽しめるようになりたいです…

(もう一回送信すると、ダブってしまうかもしれませんが…)

投稿: TOMOはは | 2006/08/13 9:27:06

植田工さんんのディレクションした「芸大部屋」に
子どもと一緒に行ってみたいです!!

こどもにとっては、肩書きは…意味などないのでしょうけれど

オモシロいもの・ことには、敏感に反応するのではないでしょうか?

ウチの子も、ユニークなお笑い系のようですが
ははとしては、理解できないことも多々あります…

このギャップも、面白がったり楽しめるようになりたいです…

投稿: TOMOはは | 2006/08/13 9:25:59

お盆で周りじゅうがグルグルしている時に
南の国のドクターが「あ、はー!」なんて、
子供でなくても笑ってしまった。
日本国中を東奔西走して、暑さボケの脳みそを
刺激してくださってありがとうございました。


投稿: kusafumi | 2006/08/13 9:22:35

この記事へのコメントは終了しました。