« 魂の清涼剤 | トップページ | 「老い」を吉本隆明と語る »

2006/07/16

私の「今、ここ」は

  インターネット時代のパラドックスの
一つとは、
 情報空間内ではいくらでも自由に動けるのに、
身体は相変わらず「今、ここ」
に縛られていることの中にあるのではないか。

 情報の自由に比しての身体の
不自由はまことに味わい深く、香ばしく、
しかし自由と不自由の距離が銀河の
ごとく離れ始めるとき、私たちの
魂は切ないきしみを立て始める。

 佐々木かをりさんとは、
対談などで何回かお目にかかっている。
「国際女性ビジネス会議」は
佐々木さんが主催されて、今度で
11回目。
 
 ビジネスウーマンが1200名会場を
埋め尽くした様子は実に壮観。
 5%のマイナリティと化した男性たちは
どことなく心細そうである。

 私も珍しく少し緊張していた。
 緊張とは、つまり、自分がどのようなモードで
接すれば良いのかわからない、ということ
から生まれる。
 だから、スピーチの冒頭に
「いやあ、こんな時は少し緊張しますね」
とあえて口にして、会場が笑って、
それからおもむろに本題に入ることにした。

 もちろん、計画などない。その場の
即興である。
 
 10分遅れで始まったのだが、定刻に
終わらせた。
 その分さぼろうというのではなくて、
 話の密度を濃くして、タイムキーピングに
貢献したなり。

 私の次のスピーカーが
WHOの進藤奈邦子さんで、
 『プロフェッショナル 仕事の流儀』
の収録以来久しぶりにお目にかかった。

 進藤さんは、私のことを、「先輩!」
と呼ぶ。 
 学芸大学付属高校の同窓だからである。

 佐々木かをりさんも、進藤奈邦子さんも、
とにかく元気だ。
 ひょっとしたら、本当に、現代は
女性が元気な時代なのかもしれない。

 佐々木さんが強調されていたように、
 会場にたくさん人が集まる、
ということの効果は確かにあって、
こればかりはどれほどインターネットが
発達しても、価値が減ずることはない。

 ネットの上ではどこでも飛べるということの自由
と、自分は常に「今、ここ」にしかいることが
できないということの不自由。
 その不自由さを持ち寄ってこその
パワーがあるのだ。

 遠い土地に住んでいる人の日常を、
ありありと思い浮かべるということは、
 ネットでその土地のことを調べるというのとは
違う。

 自分の日々が、慣れ親しんだ東京の
この生活空間の中に展開されるのではなくて、
来る日も来る日も、そのまた次の日も、
 遠く離れた風光と潮の満ち干と人々の
さざめきの中に行われ、自分の身体が
それに包まれて時が流れていく、そのような
人生を、我が事として想像すること。

 ホテル・グランパシフィック・メリディアン
の会場を埋めた人々を見ながら、
私はなぜかそんなことを思っていた。

 博多へ。 

 私の「今、ここ」はゆったりと、
じれったいくらいゆっくりと、
 137億光年の宇宙の片隅の小さな
惑星の表面を移動して行く。

7月 16, 2006 at 09:23 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 私の「今、ここ」は:

» NHKスペシャル「巨大恐竜 繁栄のかげで」 トラックバック Little Tree
昨日、子どもと一緒に観たNHKスペシャルがとてもオモシロかったです。 我が家は、というよりkirikouと私は特に、科学番組や 以前に放送されたNHKスペシャル「地球大進化」というような番組が大好きです。 昨晩は、7時半からの「ダーウィンが来た!生き物新伝説」のモグラのお話も とても興味深く観ました。 kirikouにとっては、2年生の時、国語の授業の中で 自分で調べた「トリビアを発表する」際に 『かがくる』という子ど�... [続きを読む]

受信: 2006/07/17 6:50:17

» 今年も参加しました〜国際女性ビジネス会議 トラックバック Blog LYCKA TILL!
人気ブログランキングに参加しています。応援お願いします☆ 今年もまた、国際女性ビ... [続きを読む]

受信: 2006/07/17 9:05:29

» 自分力を高める(2) トラックバック コーチングやって、サラリーマン人生が楽になりました
マネージャーの皆さん 脳科学からみた、人間の無限の可能性 7月15日に行われた「第11回国際女性ビジネス会議」のおける特別講演(1):茂木健一郎:脳科学者 のお話についてです。 茂木さんは「脳」という今までは理解し難い対象を素人対象に「分かりやすい....... [続きを読む]

受信: 2006/07/18 1:52:20

» いまここ トラックバック life + shelter associates
[ben] 「いまここにいること」は 「いまここにしかいないこと」であって 「他の時空にはいないこと」である。 無数にある可能性を捨てた状態で、いまここにしかいないことの証明 になっている。ま、考えてみればあたりまえのことなんだけど たまに、あたりまえのことを、あたりまえのように確認したくなったりもするのだ。... [続きを読む]

受信: 2006/07/21 17:34:53

コメント

 小学校4年生のときに、天体望遠鏡で初めて月を見て、
「なんかすごい…どうしよう…」と思ったことを思い出しました。
 今思えばそれは、特別な場所ではなくて、家のベランダで
見たからなのでは?と、ふと思ったのです。
 「今、ここ」から、宇宙を感じる。それはすごいことでした。
 いろいろ知るたびに、宇宙を思うと気が遠くなるような感じが
するようになった…そういう、小学生の時からずっと感じていた
変な感覚が、茂木さんのお話に出会って、やっと居場所が見つ
かった気がする。「ああ、私もこの感じ、わかるなあ…」って…。

 最近日記がコワイ。脳みそしゃかしゃかシェイクされる感じが
して。もしくは、ちっこいモギケンくんがわ~っと私の頭の中に
入ってきて、よいしょよいしょと記憶をひっぱりだして散らかして
いくというのかなあ。
 だから、本当は「出~た~!タケチャンマンセブン(法学
修士)!」だとか真っ先に思うのだけど、すぐに「で?今日の日記
読んで、おまえはどうなんだよ?どう思うんだよ?」え~と…と、
なってしまうのです。
 「親方の厳しい稽古」は、私の中では当分続きそうなヨカン…。
「博士の厳しいレッスン」だと、またちょっと感じがかわるね。

投稿: | 2006/07/17 0:02:03

茂木先生こんばんは。

言われてみると、ネットをしているときはずっと縛られているんですね。
頭だけが飛んで。

先生の講義もそうですが、その場の空気を吸って実感することって、
かえがたいことですね。
自分に引き寄せて想像すること…。

連載が気になりちくまのサイトにいったら、奈良さんの女の子。
これは買わねばと本屋に急いだら、はたまた置いてなく…しょんぼりです。

茂木先生は暑さに強いほうでしょうか?
お体にお気を付けくださいませ。

投稿: | 2006/07/16 23:38:48

私のマンションの前は錦江湾で、桜島フェリーの発着の汽笛が窓の外から聞こえてきます。
桜島は目の前なのですが、今年できた新噴火口は大隅半島側なのでここからは見えません。
私は地理的にも社会的にも少し遠いところに住んでいます。でも気分的にはちょっと遠出して、趣味のよい喫茶店のカウンターでクラシックに詳しいマスターとだべっているような気持ちなのです。といってもここでは常連などではなく、新顔なので謙虚にしなくてはなりませんね。

投稿: | 2006/07/16 21:47:26

本当に現代は女性が元気な時代なのかもしれません。
内田樹さんもブログの中で以前、「これからはフェミニンな時代になっていく」というような趣旨のことを書かれていました。
僕の大学生時代を思い返しても、なんだか、女性の方が、サークルはもちろん、学問の方でもがんばっていたような感じがします。
僕は学術奨学生という成績上位者に与えられる奨学金(給付)を受けていたのですが、それを受けていたのも、女性の方が多かったような気がします。
男の僕としては、生きていくのが難しい、と愚痴りたくもなります(笑)。

投稿: サイン | 2006/07/16 17:52:21

茂木さん。ステキなお話をありがとうございました。
国際女性ビジネス会議の1200分の1を占めた幸運な一人です。
今年は、どうしても茂木さんにお会いしたくて、目の前の席をゲットしようと開場直後に到着したのですが、すでに席は半分近く埋まっており、茂木さんのお姿ははるか遠く・・・
それでも、お話が聞けて大満足でした。

この秋に2つ目の会社を立ち上げる予定なのですが、その名前を「クオリア」にしたいと思っています。数年前に偶然「クオリアマニュフェスト」を拝見して以来、この言葉の虜になってしまいました。

クオリアという言葉が私にパワーを与えてくれるのです。
内なる声に導かれ、新しいことにチャレンジしようと思います。
昨日の講演では、チャレンジへの希望と恐れとを抱えながら、進んでいくための勇気をいただきました。
ありがとうございました。

投稿: arara | 2006/07/16 16:32:44

ところで「国際女性ビジネス会議」は、
なかなかパワフルな雰囲気だったようですね!

内容を見て、とても関心がありました。

いま、女性たちが生き生きとしていけるように

女性自ら声をあげて、社会に向けて何か行動していくことは
とても大切で、心強いことです。

ときに、弱音を吐きたいときもありますが…

やっぱり、もう少し元気を出して、やってみましょう!!

投稿: TOMOはは | 2006/07/16 15:31:59

今朝「こころの時代」で歎異抄を取り上げていました。

何かを深く見つめつつも

日々の暮らしは、そのままに目の前に現れてきます…

時は、ながれるものか…変わらぬものか…

わたしのほうが、変わりつつながれゆくのか…

どうも、マジメになりすぎるのでしょうか?

これでも、思いっきり羽目をはずしているつもりなんですけれど…

投稿: TOMOはは | 2006/07/16 15:20:57

この夏は全国各地での講演が目白押しのようですね。
お疲れさまです。

茂木さんは頭の回転の速さをあらわすかのような早口でいらっしゃるけど、
お話が聞き取りにくい、わかりにくいということが全くありません。
先日の朝日カルチャーで体感しました。不思議です。

これもひとつの才能なんでしょうね。
お体にはどうぞお気をつけて、全国の皆さんに知的な快感を与えてあげてくださいね。

投稿: | 2006/07/16 13:31:33

“インターネット時代のパラドックスの一つとは、情報空間内では幾らでも自由に動けるのに、身体は相変わらず「今、ここ」に縛られていることの中にあるのではないか。…情報の自由に比しての身体の不自由はまことに味わい深く、香ばしく、しかし、自由と不自由の距離が銀河の如く離れ始めるとき、私たちの魂は切ないきしみを立て始める。”

たしかに、ネット世界では自分の「存在」は自由に行き来が出来るのに本当の存在である自分の身体は「今、ここ」から動けない。しかしネットの上では何処でも飛べる自由さと、実際椅子に座ってキーをたたいている自分の肉体、精神をひっくるめた不自由さを併せ持ってこそ、やはり、現代での人間の強みは発揮されるに違いない。

ネット世界に耽溺しきっている「ギーク」(オタク)の人々は、情報空間内を自由に飛び回れる自由を重んじるあまり、実際に「今、ここ」にある自分の身体の不自由を軽視してしまっているのではないか。だから「人生を“リセット”したい」なんて言葉を口を突いて出て来るのだろう。

ぶっちゃけ言って、身体の不自由に縛られている人間の人生なんて、絶対リセットなどできない。ゲームじゃないんだから、しょせん。

風の流れと潮の満ち干と、人々のさんざめきの中で関係を持ちながら一度きりしかない限りある人生を生き切ってゆくのが人生の本道なのだ。

今の時代は本当に女性が元気な時代なのかもしれない、という茂木先生の洞察はおおむね正しかろうと思う。

何故なら、21世紀は、女性がこの混迷せる社会、国家を平和で幸福な方向にリードしなくてはならぬ時代だからなのだ!

投稿: 銀鏡反応 | 2006/07/16 11:19:28

コメントを書く