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2006/06/22

Horaceの元気な姿

 6月のイギリスは美しい。
 たとえ曇っていても、
その性質はやさしく、
 どこか地上の楽園を思わせるのだ。

 Horaceが元気にやってくるのを
見たとき、何だか胸がいっぱいに
なってしまって、
 元気でいてくれるだけで
うれしい人というのは
いるんだなと思う。

 Horace Barlowは1921年生まれ。
今年85歳のはずだが、
 とてもそんな風には見えない。
 
 「ケン、今回は何しに来たんだい」
 「オックスフォード大学で開かれる、
意識に関する会議に参加するために
来たんですよ」
 「ああ、そうだったね。」
 「Horace、今は本を書いている
ということでしたけど、どうですか?」
 「今、3分の2まで来たところだよ」
 「何について書いているところですか」
 「いやあ、意識についても少し触れる
ことになると思うよ」
 「何を書くのか、intriguedです。
Cambridge University Pressですか?」
 「いや、MIT pressから出す、と約束
したような気がするよ」
 「宣伝、流通はMIT pressが良いよう
ですね。」
 「そんなうわさもあるね・・・」
  
 今回は、Horaceにいろいろ
研究上の相談もあるのだけれども、 
とりあえず元気な姿を見てほっとする。

 やるべきこと、やらねば
ならないことを思い描いていると、
昨年書いたあの文章を思い出す。

 しかし、その時の私はファンタジーに浸っている閑がなかった。散歩自体がスケジュールの間隙を縫って実現したものであったし、具体的に考えておかなければならない段取りもあった。私の頭のCPUには、遊んでいる余分な時間があまりなかったのである。そのような「機能的」な脳の使い方を余儀なくされていたことも、あるいはあの時のことに関係があるかもしれない。
 オックスフォードを流れるテムズ川の畔には、様々なカレッジのボートハウスが立ち並んでいる。コックスに励まされてエイトたちが懸命にボートを漕ぐ中を、13人のイギリス首相を輩出したクライスト・チャーチ・カレッジの緑野に向かって歩いていた時、ある啓示がひらめいた。
 数学も、科学も、文学も、芸術も、要するに生きるという上での実際的な配慮に比べれば、大した問題ではない。精神的価値を追求することは良いが、バランスを失ってはいけない。芸術至上主義など、もっての外だ。そもそも、生活者としての知恵に密着した地点からしか、本物の芸術など生まれない。テムズの緩やかな流れを見つめながら、そんなことを考えた。
 イギリスの田園の風景は、確かに美しい。とりわけ、ケンブリッジ、オックスフォードの両大学は、自然の美しさの中で深い思索にふけるための空間的配慮に満ちている。
 しかし、いくら、この風景が美しいからといって、そんなものに耽溺し、感傷していても仕方がない。ただ、人生の中でやるべきことを淡々と実行しながら、その実際的な時間の流れの中に、ほんの少しだけ風景の美を鑑賞しさえすれば良い。実際、賢い人たちは、そうして来たのではないか。

(茂木健一郎 『クオリア降臨』より抜粋)

 批評性とは、Aの横にBを置くことであるが、
日本の横にイギリスを置いてみると、
いろいろ思うところがある。
 もちろん、日本の自分も同じことである。

6月 22, 2006 at 04:05 午後 |

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コメント

Horace Barlow 先生 にお会いできて
予定に追われる現実から一息つかれたでしょうか?

「イギリス」は茂木先生にとって
充電できる場所ですか?
尊敬する先生から可愛がられる(?)茂木先生のことを
またうらやましく感じてしまいます・・

プロフェッショナルのコラム、待ってます。

投稿: | 2006/06/23 13:26:54

『人生の中でやるべきことを淡々と実行しながら』

人はそれぞれの人生の中で
等しい価値をあらわしていくことができることを

ふと想い描いておりました…

『いのちの重さにかわりはない』 と信じたい…

日本にある私は、ただそれだけを想っております。

投稿: TOMOはは | 2006/06/23 8:47:46

茂木先生が、英国へ出張なされている間に、ひとつ、インターネットへのアクセスを我慢しよう(つまり1週間でも、ネットと縁の無い生活を貫いてみよう)と試みてみたが、結局失敗に終わった。如何せんこの「日記」がみたくて、我慢しきれなかったのだ。


同じ島国でも、ここ日本は、ジメっぽくてムシムシする「梅雨」独特の気象である…。
英国の、地上の楽園のような気候が羨ましい。

私も、茂木さんは如何しているんだろう?という気持ちでいっぱいだった。ので、恐る恐るアクセスしてみたら、恩師にお会いできたとのことで、「嗚呼、茂木さんも元気だったんだな」と嬉しくなった。

それはともかく、Horace Barlow先生にお会いできて本当によかったですね!

恩師の先生にお会いできた喜びは、いかばかりか!

それでは、私は仕事がありますので、これにて失礼致します。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/06/23 5:46:10

茂木先生へ

イギリス滞在は、先生に、新たな発見をもたらしているのでしょうね。イギリスには行ったことはないのですが、オックスフォードはテレビや映画で観たことがあるのでイメージ出来ます。

所で、昨日、イギリス映画「BREAKFAST ON PLUTO」日本題も同じ「プルートで朝食を」を観ました。5☆でした。今年観た映画の中で最高にすばらしい映画でした。イギリスでは、もう終わっちゃったかな? 

1970年代のアイルランドとイギリスが舞台です。その時代のヒット曲に合わせて、純粋な心のゲイの青年が家族や先生の無理解に苦しみながら、実の母を求めて旅をする物語ですが、ポップとユーモアと人情と愛と、その時代のIRAの政治色も背景に、美しく生きる物語でした。とても心に染みる物語でした。

監督はニール・ジョーダン。主演はキリアン・マーフィーですばらしい演技! その他脇役も。もし公開されていて、時間があったら観てね!

所で、最近、一斉に「アハ!体験」セガのCMやってますよ!
茂木先生のお声がテレビから届いています。(^-^)
イギリスで素敵な時間が過ごせることをお祈りしています。

投稿: | 2006/06/23 3:57:40

恩師の方と嬉しい再会ができたようで良かったですね! ・・Horace Barlow氏はとても素敵に年を重ねられている方みたいですね!!

2週間、間が空いた「プロフェッショナル」、とても楽しく拝見しました。色々と心の琴線に響くところが満載でしたが、一番「スゴイッ!」と思ったのは、自分で実際にムシ君になって舞台で、「子供の反応を体に刻む」というところでした!

‘Professional’という言葉は元々は英語ですが、例えばこの番組がイギリスで作られたら、どういう番組になるのかな、ってフト想像してみました。明らかにタッチが違うように仕上がるだろうな、とは思うのですが。。例えば動物紀行でNHKとBBCでカラーの違いを感じるみたいに。。こういうところにも、この二つの国の、似ているところも意外にあるけれどでも違う、という個性の味付けが色んな形で現れてきそうで面白いナと思いました。

投稿: | 2006/06/22 23:55:21

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