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2006/05/17

ああ、ヘンジンはめんたいこご飯

内田樹さんのブログ
を拝読していたら、
「2006年度大学受験出題頻出者ランキング」
で、私が2位だったと書いてあったので
驚いた。

1位 上田紀行 2位 茂木健一郎 3位 鷲田清一
4位 山崎正和、夏目漱石 5位 正高信男、斎藤孝
6位 内田樹、養老孟司、柏木博、河合隼雄

 入試問題というのは一生懸命読むものだが、
のど元過ぎれば、で案外忘れられてしまうもの
ではないか。
 自分の年に何が出題されたかも、もう覚えていない。
 忘れられても、出会いがあればそれでいい
という考え方もある。

 聖心女子大学の授業は、知性
(general intelligence)のことを
中心にやった。

 心理学の講師控え室でいつもの
ようにコピーをお願いして、
 別の棟にある教室まで
向かう。
 廊下を歩いて、二回エレベーターを
乗り換える複雑なルート。

 途中で、聖人の額が掲げられた
場所を通る。
 いつも、そこにくると「あっ、こっちだ」
と思う、一つのランドマークになっている。
神の眼に見つめられているようで
ぴしりと身が引き締まるのだ。

 脳についてのとびっきり基本的な
ことは押さえつつ、 
 ごくごく最近の研究動向も紹介する。

 一つの物語としての脳の面白さが伝わると
いいなと思っているのだけれども。

 夜、佐藤雅彦さんの築地の事務所に伺う。
佐藤さんが制作中の本を見せていただき、
いろいろブレストする。
 佐藤さんは、「気配」を感じる人間の
能力に着目して、その本能を覚醒させようと
している。

 確かに、気配は重要だ。ものを考える
上でも、ざわざわとした胸騒ぎ、
何かが潜んでいるような雰囲気、
 いろんなものが飛んでくるようないきおい。
そんなものを感じ取って概念空間の中を
進んでいかなければならない。

 佐藤さんのやることはいつも
面白い。
 あれほどのこだわりと執念と創造の
くらくらがないと、遠くには行けないだろう。

 事務所から、佐藤さんだけが
エレベーターに乗って送って下さった。
 
 「お話があるから」と言われるから、
ナンダナンダと思っていると、
 「茂木さん、ぼくのこと変人だと言っているでしょ」
と佐藤さん。
 「えっ、言っていないですよ・・・少しは言っている
かも、もごもご」
 「この前の紀伊国屋ホールでも言っていたでしょ」
 「えっ。何で知っているんですか」
 「佐藤グループの人は、どこにでも出没するんです
よ。ふふふ。まあ、茂木さんだったら、何を言っても
いいけど。」

 世界のマサピコに釘を刺され、私は
変人トークを少しトーンダウンせねばなるまい
と思った。

 タイミング的に夕飯を逃し、
はらぺこオオカミとなった帰路、
 最最寄り駅ではない駅から歩いた。

 そこはいくつかの大学がある街であり、
遅くまで開いている飲食店がたくさんある。

 Jazz Barやラーメン屋やトンカツ屋の
間を「うまそうだなあ」と徘徊しながら、
 私は、ふと、時間がいつの間にか過ぎ去っている
ことに気がついた。

 私は同じ世代の中では圧倒的に子供っぽいというか
いつまで経ってもふらふらぶらぶらだけど、
 自分がその学生街を徘徊している
若者たちくらいの年齢だった頃のことを
考えてみると、
 もっと「何にもねえ」という感じが
強かったように思う。
 あいつらも、きっとそうなのだろう。

 こんなに毎日「これをやるあれをやる」
というコミットメントがあるのは
ありがたいことだが、
 宙ぶらりんとは違う。

 ああ、オレは根津の吉野屋の横を歩いて
銭湯に行き、研究室に帰って椅子を三つ並べて
眠っていた、あの大学院生の頃から
圧倒的に流されてきてしまったんだなあ、
と思わず感慨にふける。

 帰宅すると関根崇泰からSfNの
アブストラクト原案が届いている。
 なんと、SfNのサーバーがダウンして
少し延びたのである。


 とはいっても、deadlineは午前2時。
あまり時間がない。
 
 ここに教師信号を書いてしまえば、
タカヤス君のアブストラクトは、まず、
論理的構成がすっきりしていませんでした。
 科学論文に用いる英文というのは、
緻密な論理パズルのように組み立てるのが
理想です。
 つまり、あることを言うためにはさ、
その前提になることをちゃんと書いて
おかなくてはいけないんだよ。
 いい英文は、ちゃんとそうなっているよ。
というかさあ、そこからずれると、
「うっ、これは気持ち悪い!」
と思えるようになるんだよ。

 また、英語は、冗長性(redundancy)を
きらいます。
 Natureの英文は、editorの手も入って
良いものになっていますから、
 それを沢山読んで、感覚を身につけましょう。

 とは言っても、私もまだ英文については
学習曲線の途上にあり、奥が深い道である。

 英検一級、国連英検特A級などは
学部生の頃に取ってしまったが、 
 あんなものは英語の小学生のようなもので、
その先は限りなく長い。

 英語Native化計画は依然として進行中だが、
まだまだ私も修業中の身。セキネタカヤス君、
一緒にがんばりましょう。

 一般に、何でも学習曲線の途上だと思うと、
限りなく楽しい、と思うのは、ひょっとしたら
私も佐藤さんと同じ変人だからだろうか。

 ああ、ヘンジンは深夜関根のabstractを書き終わり、
送り、ため息をついてめんたいこご飯を食べ、
コンビニで買ってきた『庖丁人味平』を読んで
5分も経たないうちに眠ってしまったので
ありました。

5月 17, 2006 at 08:23 午前 |

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コメント

<佐藤さんのやることはいつも面白い。>
 
思わず、2・3年前の佐藤さんの著書『毎月新聞』を再読しました。
そのなかに、 
 「「基本が大事」なのは勿論である、しかし同時に、基本を学
  ぶ事は難しい。だとしたら、僕はいつか、基本の大切さや意
  味を取り戻すための義務教育のアフターサービスのような新
  しい教育を、TVやインターネットなどのメディアでやって
  みたいと思っている。」
とい文章を見つけました。
 変人とは、恐ろしく「基本」ということについて考えている人なのだ、、、と、理解するに至ったのであります。
今回も、物事の本質というか生きていくうちに何だかずれてきている自分の中の何かをハッと気づかせてくれました。

「かわいいお客さん」の章は私の一番すきなコラムです。
佐藤さんの膝の上で近所の3歳のひろと君がピアノを滅茶苦茶に大作曲家風に弾いて遊んでいて、突然「あっ、まちがえちゃった!」
と。「そこに、人間が持つ枠の無い想像力の一端を垣間見た」と結んでありました。
私には年輪のような枠がある事に気づいた次第です。

 

投稿: sakagutinoriko | 2006/05/18 11:13:23

ものを考える上で、大切なのは“気配”か…なるほど。
思考するとき、何かが自分の背後から、またはいきなり自分の前に、潜んでいたのが現われる雰囲気や何かを感じたときの胸騒ぎ、そうしたものを感じ取って概念世界の中を進んで行く…これはなにも茂木先生の属する世界に限らず、いろいろなジャンルでも言えることなのかもしれない。

気配はひらめきにつながるような気がする。

芸術の世界でも、何かが自分の中から生まれる気配を感じ取り、それを作品にするというのは大事なことだ。ただ、それはかなり思いつきに近い行為でもあるので、新たなものを生み出すには経験も大事だというシュワンクマイエルの“格言”を大事にしたい。

自分は大学に通った経験がなく、学歴は高卒どまりなのだが、たしかに高校時代と比べると、結構遠くに“流されてきて”しまっているのかもしれない。

人生は何でも学習曲線の延長と思えば、世知辛い世の中もわりと面白く、前向きに生きられる。それはおそらく、死ぬまで続く。

茂木さんや佐藤さんはそういう生きかたを実践されているから素晴らしい。

嗚呼、我もまた、そんなポジな変人として生きたや!
(〇〇〇イといわれてもイイ)

それにしても『類は友を呼ぶ』いいですねぇ。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/05/17 18:14:21

今日の一言は『類は、友を呼ぶ』でしょうか?


何から発せられるのかは、定かではありませんが

何らかの波長があってしまうこと=ラジオのチューニング(?)みたいなもの・・・

が、たしかにあるような気がしますが、いかがでしょうか?

電磁石のように、オンとオフがあることも考えられるかも・・・?


さて、竹内薫さんの 「四次元を思い描く方法」を
少しずつ伺っているところですが

図解しているものまでは、なかなかイメージできないところが
残念です。

ただ、その気配や雰囲気、声のトーンは
十二分に楽しめます!!


それから「生きて死ぬ私」は、もったいないので
なるべくゆっくり、読みすすめるつもりです・・・

と言いながら、さきに「文庫版あとがき」を読んでしまったので・・・

アノお話が微笑ましく、その方のお人柄を想いうかべてしまいました。

投稿: TOMOはは | 2006/05/17 16:37:37

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