« 「ひらめき脳」4刷 | トップページ | 東京大学 駒場キャンパス 授業(本日) »

2006/04/26

そこには一つの生態系がある

聖心女子大学で「現代の脳科学」
の授業をしていたら、
 突然
 ドギュドギュドギューン!

 と大音響が鳴り響いた。

 思わず身がすくんだが、
雷だった。

 授業を終えて外に出ると、
大変な雨。
 やり過ごして移動し、
外に出ると、もう上がって
晴れ間が出ている。

 雷というと、映画『宇宙戦争』
のエイリアンの円盤を思い出してしまう。

 『宇宙戦争』の円盤は怖かったが、
幕末の人たちにとっての「黒船」も
同じように何をするかわからない怪物
と映っていたのではないか。

 NHKへ。
 「視点・論点」の国際版
Insight & Foresight
ができるというので
その収録。
 NHK worldで放映されるらしい。

 日本語の「視点・論点」には何回か
出させていただいたことがあり、
だいたいこういうことを言おう、と決めて
おいて、あとはアドリブで喋る。
 9分から9分30秒の間に、ほぼ収まる。

 しかし、さすがに英語でのpublic speechを
同じ手法が使えるかどうか、何しろ初物
なので心許なかったが、
 とにかく出かけた。

 ディレクターの藤原敬子さんに、
念のためおずおずと尋ねた。
 
 「あのう、今まで何人くらいの方が
収録されたのですか」
 「10名くらいです」
 「原稿なんかは、用意しているのでしょうか?」
 「皆さん用意されています。用意されなかったのは
明石康 元国連事務次長くらいでしょうか。」

 うーむ。
 ひそかに頭を抱える。

 収録。
 話し始めたら、
 携帯からのインターネット接続
に日本人がaddictしてしている、
 という流れになって、
 それを片付けようとcontingencyの問題を
話していたら、
 あっという間に9分経ってしまった。

 ほぼぴったりの時間で収まったが、
話そうと思っていたことと
違った何かになったなり。

 話というのは生きもので、自分の
口の中で勝手にうごめいているようにも
感じられる。

 大手町の日経サイエンスへ。

 高エネルギー研究所で
Bファクトリー
のリーダーをされている山内正則先生。

 電子と陽電子の衝突でできる
 B中間子の崩壊の観測を通して、
標準理論の構成要素である小林・益川理論
を検証するのが、Bファクトリーの目的。
 すでに、CP非保存の検証の目的は達成し、
今は次のエネルギーレベルで現れる
 超対称性の物理学への
橋渡しを目指しているという。

 Bファクトリーは、一年のうち9ヶ月は
実質的にデータをとり続けており、
 その間、膨大なデータが蓄積される。

 ねらっているB中間子の
崩壊様式の分岐比は10のマイナス4乗
程度なので、それだけの
データを集めなければならないというのである。

 9ヶ月×5年の実験中、
設定パラメータは基本的に変更しない、
というのが面白い。
 単一条件のデータを延々ととり続ける。
 5σの精度でないと、素粒子実験では
認められないというのだが、
 知られている崩壊様式だけで100以上
あるというB中間子の物理の複雑さが
なせるわざであろう。

 素粒子というと小数の要素の組み合わせ
というイメージが強いが、
 B中間子の崩壊だけを考えても、
そこには一つの生態系がある
と言ってよいほどの複雑さ。

 2000人くらいの人が関わる
という巨大プロジェクトが、
その単一条件の実験に張り付いて、
宇宙の真理をつかみだそうとしている
その様子が面白い。

 加速器実験は、エネルギーを上げる
のがそろそろ限界に近づくということで、
超ひも理論の検証などは人為では
とてもできないということだが、
 似たようなことは脳科学、認知科学でも
あるんじゃないか。

 本当は10の8乗くらいの
サンプルを集めないとわからない
認知過程があって、
 しかし実際にデータがとれるのは
せいぜい10人とか100人だと
すると、
 そのようなエキゾティックな
現象の尻尾は捕まえられないことになる。

 この宇宙の中の真理のいくつかは、
原理的あるいは実際的な壁の向こうにある。

 そして、実際的障害が原理的障害に
転化してしまう現場もまたあるのだ。

4月 26, 2006 at 08:21 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: そこには一つの生態系がある:

» 睡眠は未来への(前編) トラックバック 54のパラレルワールド
授業中にうとうとしちゃって、いつの間にか眠っちゃって、目が覚めたらちょうど授業が終わるところ。ほんの少し目を閉じただけなのになあ。そんなことってよくある。 これは一種のタイムスリップなのではないか。目を閉じた瞬間に時間軸を滑っていって少し先の未来に飛んだ。うとうとしているとき、現実から切り離されたような、あいまいな感覚がある。これは不安定な時間軸にいるために感じることなのではないか。 シンジはそんなことを考�... [続きを読む]

受信: 2006/04/26 9:22:12

» 進化学会、あまりに遅い企画公募案内の真相 トラックバック 水幡正蔵「進化論革命」日記
 昨日(25日)は五條堀 孝 氏に、過去の「新今西説学会パージ」にけじめをつけるよう書いた。まさに今や日本進化学会は、異常な事態に陥っているからだ。  繰り返すが、どう考えたって公募案内が4月24日に私が催促しなければ出なかった事実はおかしい。例年なら3月末には募集を開始し、4月30日が締め切りなのだ。昨年は、企画の集まりが少なくて、それで5月10日迄募集期間が延長された。それで私は「二足跳躍ハツカネズミ進化実験」の提案企画を5月9日に出した。これが昨年、進化学会関係者に“パニック”を起こしたこと... [続きを読む]

受信: 2006/04/26 11:51:22

» 質問:最初の「種の誕生」を何と呼ぶ? トラックバック 水幡正蔵「進化論革命」日記
<種というものが存在したのはそれこそ生物集団が発生した時からであり、交配可能性を強調するなら交配するようになった時からであることに、生物学者は同意するでしょう。 ただし、それを「種の起源」と呼ばない>(コブラ氏)  コブラ氏、、これはおかしいと思いませんか?最初の生命誕生のことは「生命の起源」と言いますよね、、。だったら最初の交配集団(種)の誕生を何と呼ぶのですか?「種の起源」以外に呼び方がありますか?これは明らかにおかしいでしょう。今日の用語法が誤っていることは、明らかです。そうじゃないとい... [続きを読む]

受信: 2006/04/26 11:53:14

» 「エリクソンとの散歩」生き方の道標(みちしるべ) トラックバック Little Tree
これも、佐々木正美先生のご本です。 先生のいろいろなお話の中で、私がとても大好きで 今ほんとうに大切なことに思えるので、続けてお話しようと思います。 心理学の本を読んでいる方は Erek H・Erikson というドイツの精神分析学者のお名前を聞いたことがおありだと思います。 1946〜1950年にかけて有名な「幼児期と社会」を書かれたそうです。 以下は、佐々木先生の書きになった「序・エリクソンへ�... [続きを読む]

受信: 2006/04/26 14:10:07

コメント

 黒船と言えば、坂本竜馬の『抑止力』という日本初の発想が注目されますが、日本に来たのが、黒船でなく、核ミサイルだったら、坂本竜馬はそれを抑止力に使ったでしょうか?
 坂本竜馬の英雄像に対する、ブラックユーモアでした。

投稿: cosmosこと岡島義治 | 2006/04/26 22:07:45

昨日の真昼の、雷鳴とにわか雨にはほんとうに閉口した。

雷と言うものは人の魂魄を震えあがらせるほどの大音
響で、人の心胆を一瞬さむからしめるものなのだ。

それはさながらやはりわけのわからない未知の怪物に遭遇した時の不安な気持ちと似ている。

幕末に黒船を見た人々の心境もそうなのだが、コレから先の見えない時代に突入していくだろう21世紀の我々の気持ちも、まさに未知なる怪物に出会ったときのように不安にかられているようだ。

「この宇宙の中の真理のいくつかは、原理的あるいは実際的な壁の向こうにある。
 そして、実際的障害が原理的障害に転化してしまう現場もまたあるのだ」

物理学でも脳研究でも、いくつかの真理を見出すというのは、そんな原理的・実際的な壁が立ちふさがっている所為もあって、なかなか容易ではなさそうである。

けれども、そうした壁による幾多の障害を乗り越えた時、真理のいくつかは見えてくるのではないか。

脳とクオリア、認知能力における困難な問題の研究および解明は、世間でもてはやされている「脳トレ」に代表されるような、安易な問題の解き方では絶対に不可能のはずである。

そうした困難な問題を解く為に、それら安易な問題の解き方にとって代わる新たな解明の方式を発見する為の模索が、茂木先生の居られる脳・認知研究の最前線では、今日も続いているのに違いない。

科学者は困難な問題に取り組んでこそ、後世に残る大きな足跡を残すことが出来る。

茂木先生は、真の科学するココロの啓蒙など、様々な事柄に取り組みつつも、困難な問題に取り組むことを何時も志向しておられる。

そういう姿勢が昨今の「脳を鍛えるなんとか」を流行らせている当事者たちにあるのかどうか?

大いに疑問である。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/04/26 19:26:26

茂木先生のpublic speech をお聞きできるのを楽しみにしています!

そういえば、私がこちらにお邪魔するきっかけは
「英語でしゃべらナイト」でした・・・

さて「脳科学、認知科学でも」ということは
子どもの発達や人の一生についてなどは
個々の多様性のうえで論じるしかなく
たくさんのデータを集めた知見の解釈も

『その単一条件の実験に張り付いて、
宇宙の真理をつかみだそうとしているその様子』とは、

全く違う視点が必要なのでしょうか?

それから、佐々木正美先生の書かれた
エリクソンについてのお話をTBさせてください!

投稿: TOMOはは | 2006/04/26 14:08:41

雷といえば、マイクル・クライトン「恐怖の存在」で雷が生き物のように襲ってくる場面を思い出します。
映画化されてないのに、映画のような映像記憶が残っているというのは不思議です。。

投稿: 54notall | 2006/04/26 9:20:37

コメントを書く