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2006/04/01

四弁桜

月日が経つのは早い。
今年も、気付いてみればもう4月1日である。

 円周率を計算していくと、4が4つ続く
場所が現在までに知られているところ444カ所
あるという話を、しばらく前に聞いた。
 できすぎた話のようだが、もちろん、
さらにコンピュータで計算していけば、
どんどん増えるから、神の意図、といった
類の問題ではない。

 それでも、何だか素敵な気はする。
円周率の計算競争を、一時休戦しても
良いのではないかと思う。

 4といえば、ここ数年、元旦に飲んでいる
特別な飲み物がある。 
 それは、「四弁桜」のお茶である。
 
 美しいピンクの和紙に大切につつまれた
塊を湯飲みに落とし、熱湯を注ぐと
ぱっとほどけて、
 中から花弁が4つの桜が現れて、
ふわっと真ん中に浮かぶ。

 もちろん、普通の桜は花弁が5つである。
「四弁桜」は、そのような品種があるのかと
いえば、
 そうではなく、4つ葉のクローバーの
ような変異なのだという。

 「四弁桜」のお茶をつくっている渋山さんに
伺ったところ、その辺りにごく普通に生えている
ソメイヨシノにも、時々四弁のものが
混じっているというのである。

 渋山さんは東北のある村に暮らしているが、
昔から、「四弁桜」は縁起がいいという
言い伝えがあり、見つけると大切に押し花にして
とっておいたのだという。

 さらに、元旦にお茶として
飲むと幸運が来る、という伝承もあり、
渋山さんの集落では、もう何代も
そうしていると言う。

 しかし、何よりも大きな幸運は、
「四弁桜」を見つけた者にこそ訪れるのだそうだ。

 私は、クオリアについて
取材にいらしたある方に紹介されて、
それ以来「四弁桜」茶を手に入れているのだが、
何しろ貴重なもので、桜の季節になると、
渋山さんは日の出から日没まで「四弁桜」を
探して山歩きをするが、それでも一日に
一つ見つかるかどうかという
くらいだと言う。

 「なにしろ、つぼみの時はわからないわけですから。
開いたところを、ぱっと見る。面白いもので、
慣れてくると、随分遠くからも「あっ、あそこに
四弁桜がある!」とわかるようになりました。
なんとなく、まわりよりほんのり明るく
見えるのです」
と渋山さん。

 「私には、確率とか、そういう難しいことは
わかりませんが、おそらく千に一つ、万に一つも
ない。一本の木に一つもないのだと思います」
と渋山さんは続ける。

 何しろ貴重なものなので、宣伝もせず、
特別な知り合いに頒布するだけだけれども、
最近はそれでも噂が噂を呼んで、
引き合いも多くなって来たけれども、
とても注文をさばき切れるものではないと
渋山さんは言う。
 それなりの値段で売れるので、家も
新築することができたし、春のぽかぽか
した陽気の中、四弁の桜花を求めて
彷徨うのは、何といっても素敵な商売
なのだけれども、最近は足腰も弱く
なってきたし、いつまでも続けられるか
わからないと渋山さんは言う。

 「それでね、茂木さんに、今度日記か
何かで書いていただきたいんですよ。
というのはね、気付いていないだけで、
「四弁桜」は全国にあると思うんです。
私たちの集落だけにあるんじゃないと
思うんです。お花見と言っても、
皆さん案外お酒やごちそうを楽しむ
ばかりで、花をきちんと見てやらないじゃ
ないですか。じっくりと眺めてやると、
「四弁桜」は身の回りにあるんじゃ
ないですかね。今流行の言葉で言えば、
ロハスと言うんでしょうか。じっくりと
花を見ることで、幸運にも恵まれるし、
私のように、ちょっとした小遣い稼ぎにも
なるわけですから」

 実際、青山や赤坂あたりでは、「四弁桜」が
幸福のシンボルとして高値で取引
されているというが、その陰で偽物も
横行しているらしい。花びらを
一つちぎったり、手の込んだものに
なると、一度花びらを全て分離した
あと、特殊な接着剤で付けるものまで
いると言うのである。

 「そういう、偽の「四弁桜」を見ると、
不自然なんですよ。本物は、本当に、この世に
こんなにきれいなものがあったのか、
というくらい魅力的なんですけどね。」

 渋山さんの語り口に魅せられて、
私も、ここ数年桜の季節になると
花を一つ一つじっくり見て、
「四弁桜」はないかと探している。
しかし、未だに一つも発見することができない。
人生の本当の幸運をつかむために、
ぜひとも「四弁桜」を見つけたいと思う
のだが・・・

 今年も一年に一度しかないチャンスが
巡ってきた。
 「四弁桜」を見つけたいから、
花見の時に少しはお酒をがまんしようと
思っている。

 毎年、貴重な「四弁桜」茶を送って
くださる渋山さんに、「ついに見つけましたよ!
幸運が来ましたよ!」とご報告したい。
 
 この日記を読んだ方も、「四弁桜」を探して
みませんか?
 渋山さんの小さな発見が全国に広がることを
願っている。

4月 1, 2006 at 08:53 午前 |

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E=mc2。 アインシュタインによって生み出されたこの方程式の意味とは? 1905年に生まれ2005年に生誕百周年を迎える「E=mc2」を人間に見立てて伝記を書くように解説した、ユニークなポピュラー・サイエンス。 ... [続きを読む]

受信: 2006/04/01 12:31:05

コメント

この四弁桜のお話が心に残っていました。

今日は仕事も遅くなりバスも無くなってしまったので
桜並木道をゆっくりと歩きながら四弁桜を探してみましたら
なんと4つも見つかりました。

ガクの部分も四股でしたので、始めから4枚の花びらだったのでしょう。
見つかったのも嬉しかったのですが、毎日忙しく花を愛でる気持ちを
失いかけていたので、そのような時間を持てて心がよみがえったように
思いました。ありがとうございます。

投稿: itii | 2007/04/07 1:46:00

優れたジョークは現実と区別がつかない...
by I.C.Clerk

\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/

投稿: Kimball | 2006/04/04 6:31:14

四弁桜とは知りませんでした。桜は私にとっても特別な木。今年は東京はもう散りゆく姿になっていますが、目を凝らして探してみます。四葉クローバー探しとは反対に上を見上げて幸せ探し、ですね(笑)。
この時期の桜の樹皮で布を染め上げると美しい桜色になるそうです。全身であの色を出している、自然の力ってすごい。

投稿: m-tamago | 2006/04/03 12:47:59

四弁桜は香りも素敵ですよね!
満開の四弁桜の木の下にいくと、ほのかに桜餅の香りがしませんか?
もちろん、五弁桜もですが・・・:)

今日の雨は桜泣かせの雨となりそうですね。
新年度、皆様にとってセレンディピティに満ちた一年となりますように・・・!

投稿: カワミチ | 2006/04/02 7:36:13

素敵なお話、ありがとうございます。
幸運の風が身体の中を通り抜けていくのを
感じました。
私も「四弁桜」を探してみようと思います。
なんだかワクワクしてきました。

足の怪我のため家で療養中、ここにたどり
着きました。茂木さんの言葉はわかりやすく、
すぐに情景が浮かんできます。
大笑いしたり、考えさせられたり、ほっと
した気持ちになったり、毎日楽しみにして
います。
この日記に出会えて本当によかった。

投稿: かりんと | 2006/04/02 0:04:09

素敵なお話、ありがとうございます。
幸運の風が身体の中を通り抜けていくような
感じがしました。
私も「四弁桜」を探してみようと思います。
なんだかワクワクしてきました。

足の怪我のため家で療養中、ここにたどり
着きました。茂木さんの言葉はわかりやすく、
すぐに情景が浮かんできます。
大笑いしたり、考えさせられたり、ほっと
した気持ちになったり、毎日楽しみにして
います。
この日記に出会えて本当によかった。

投稿: かりんと | 2006/04/01 23:54:05

「四弁桜」、運良く見つけました!
TBさせていただこうかと思いましたが、どうしても上手くいかないもので・・・
失礼ながら、TBの代わりにURLを記載させていただきます。
http://blog.goo.ne.jp/hoddy/e/ebaf02cf6e5a18832a90cdc4d58a7139

投稿: hoddy | 2006/04/01 19:59:12

検索してしまったのは私だけではないはずです。

投稿: 鯰 | 2006/04/01 18:58:23

「四弁桜」の話、すごくイイですね。とても感銘を受けました。
なんでも染井吉野など五弁の桜の突然変異だそうで…。

いま、半ドンの仕事を終えて、三軒茶屋~下北沢あたりをブラブラ散策して、あちこちを見ると、もう染井吉野が満開なのですよ、で、アスファルトの地面を見ると、花びらとして落ちているのもありますが、五弁の桜がそのまんま、花ごと地面にはらはら落ちているんです。その中に四弁の桜があったかどうか…。めったにない花だそうだから、さがすのに骨が折れそうだ。

それにしても、昔は花が丸ごと、地面に落ちていると言う事はなかったはずなのに、何故最近、桜の花が花ごと落ちているのを見かけるようになったのだろう。

それはともかく、幸せを呼ぶ四葉のクローバーの如き四つ花弁の桜。このエントリーで、茂木先生が人生の幸福を掴む為に、毎年春になると四弁桜の花を探して居られると伺い、嗚呼幸福というのは滅多に見つけられないのだなあと思わされる。

でも、幸福はそう簡単には得られぬもの、艱難辛苦を重ねた末に、ようやく手にするものなのだと思う。

幸福を秘めた四つ花弁の桜の花を、茂木先生はご苦労の末に何時か必ず見つけることが出来るだろう。

そして、そのとき先生の心中にも幸福の花が咲き薫ることだろう。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/04/01 18:27:41

「四弁桜」のお話素敵ですね。
このお話。心に刻みます。
渋山様と茂木先生の出会い。本当の幸せ。
本当の幸せってなんだろう。。。

私事ですが
「花」にこだわっていこうと決心しました。
昔 フラワーデザインの勉強をして すこし活動していたのですが

ここの所 手芸に近い形ですが花に関わる
機会が 時々あるので
もっと感謝して「真心込めて」関わって行こうと強く思いました。
「花」は人間に「パワー」
を与えられると 実感するから
個人としてだけでなく
なにか 投げかけていく事ができればと思います。

投稿: ROSE | 2006/04/01 14:12:42

茂木先生、桜のお話、心に沁みます。
まさか今年もエイプリルフールでしたなあんて
明日明かされることはないですよね?
こんなに人の心や情緒をうごかす美しい
エイプリルフールトークであれば
仮想が現実になってしまいそうです。
今宵が桜の最善線だそうですね。
夜空に広がる薄花色の天蓋の桜に目を凝らして
幸運の花びらとの出会いを探ってみます*

投稿: yoshieusuba | 2006/04/01 11:35:27

「四弁桜」見つけにいきたいです。
そして、私の大切な人たちにも、この話を伝えたいです。

投稿: あいこ | 2006/04/01 10:08:43

「4」は縁起の悪い数字だとずっと思ってきました。
とくに「444」など並んでいるのを見るのは不吉、
とさえ思っていました。
けれども、今日のお話を読ませていただき、
心が洗われるようでした。
気持ちを新たにすることが出来ました。
明日から仕事でワシントンDCに出張です。
ポトマック河の桜に「四弁桜」を探してみようと思います。

投稿: 優 | 2006/04/01 10:08:36

「四弁桜」 のお話、心にしみました・・・

きっと、さくらを想う心が、ひとつのかたちとなって
眼の前に現れいずる・・・ものなのかもしれませんね・・・

今日は、我が家もおじいちゃんおばあちゃんを誘って
みんなで、いつもの高校のグラウンドへお花見です!!

これからお花見にお出かけの方もいらっしゃることでしょうね・・・

「私にとっての幸せって、何だろう?」と問いながら

「四弁桜」を見つけに行くのもいいかもしれません・・・

投稿: TOMOはは | 2006/04/01 9:33:56

子供の時、私は「四葉のクローバー探し」の名人でした。
「四弁桜」の渋山さんのように、遠くからでもちゃんとどこにあるかわかりましたし、ここだ!と思うと、そこにちゃんとありました。
あの不思議な直観力は、一体なんだったのだろう…と、今となっては不思議な気さえします。

「四弁桜」探しますよ~、早速明日から!
アイルランドにも桜の木はたくさんあるので。

ステキなお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。


投稿: naokoguide | 2006/04/01 9:22:16

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