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2006/03/25

ちりめんじゃこ

熊本空港からタクシーで一時間
かけて八代港へ。

 そこから、「海上タクシー」で
さらに一時間かけて御所浦島へと
向かった。

 漁船である。

 船体に、「清丸」と誇らしげに。

 今日は外は無理だあ、前の方に坐って
いな、という船長の指示に従っていると、
やがて、「先生、先生」と呼び出された。

 操舵席の横に坐らせていただく。
 「これは何ですか?」
 「GPSだね」
 「これは何ですか?」
 「それはエコー、そして、あれは魚群探知機」
 「こういう船は、いくらくらいするもんですか?」
 「25年前に買ったからねえ。当時、3000万
くらいだったかなあ」
 「わあ、家が買えますね。最近は、何が
一番儲かりますか?」
 「そうだなあ、ちりめんじゃこかな。一日
数十万水揚げする人もいるからね」
 「養殖はどうですか?」
 「最近は値段が下がってね。昔、フグは
キロ一万円していたんだけど、今は3000円
くらいかな。タイもダメだしね。最初に
始めた人たちは、裕福だったんだけどね・・・」

 などなどと会話しているうちに、
太陽は西に傾き、美しい時が訪れた。

 御所浦小学校で松岡修造さんと会う。
 修造さんは、正しい「体育会系男子」
の風情を漂わせていた。

 翌日、仕事を終えて街を散歩する。

 海から山にかけての平地に、細い路地があり、
印象的な佇まいの家々が立ち並ぶ。

 スーパーに入ったら、おじいちゃん、おばあちゃんが
ずらりと列を作っていた。

 一人のおばあちゃんとすれ違った時、
「おはようございます」と声を掛けられた。

 三人のおばあちゃんが、日だまりで丸くなっていた。

 ネットも通じないし、何の機能もない、
ぽつんと放り出されたような時間。
 「生きている」と実感するのは、
こんな時なんだなと思った。

 仕事の充実でも、快でも、出会いでも、
いずれにせよ魂を躍動させるようなもの
ではなく、
 ただただ、自分の存在が重くやりきれない、
しかしどこかで底に甘美なものを漂わせている
ものとしてあること。
 
 そんなどんよりとした、無為な時間の
中にしか、生きているということの不可思議な
実感はないのだと悟った。

 歴史書を読みながら東京に戻る。

 歴史も、名や事件で特徴付けられる流れよりも、
その背景にくすんで沈んでいる無名の出来事の
中にこそその本質があるのであろう。

 赤坂のテレビマンユニオンへ。

 花野剛一さんや、田中ナオトさんと
『ニューロンの回廊』の試写を見る。

 全体的に未来的白で画面が構成されていて、
繊細なカメラワークが良い感じ。

 困ったことに、清丸船長とその話をしてから、
ちりめんじゃこが食べたくて仕方がない。

 そんな些細なディテールの中に人生の
真実はあったか。

3月 25, 2006 at 10:34 午前 |

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コメント

しつこい。who are you mogi?

投稿: 千歳飴 | 2006/03/26 17:39:35

鯛を知るもの 雑魚を知らず  雑魚を知るもの 鯛を知らず    しみ滋味

投稿: 敢えて | 2006/03/25 23:01:27

離島で、無為な、しかし底に甘美なものを秘めた出会いに遭遇した茂木先生。

漁船、おばあちゃん、日の光、夕暮れ、潮騒、
ちりめんじゃこ、その他諸々…。

殺伐とした都会の、時の早過ぎる流れとは正反対の、まったりとした離島での時の流れ。

そういったものものが、脳科学者の五体から、都会での時間に追われる生活でしみついてしまった、もろもろの「毒素」を抜いてゆく。

夕暮れの潮風を浴びつつ、生きているということの不可思議なる実感を悟り、噛み締める茂木さんの姿を連想しました。

「歴史も、名や事件で特徴づけられる流れよりも、その背景にくすんで沈んでいる無名の出来事の中にこそその本質があるのであろう」

無名の庶民達がおりなす、表層的な「歴史」の裏に塗り込められた、さまざまな行動、息遣いの中に、歴史の本質が秘められている。

歴史の本質といい、無為の時間の中での生きて居る実感といい、あまりにも重く、地味だ。
が、そのジミな中にこそ、物事の本質は秘められているのだと思う。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/03/25 16:21:38

クオリア日記、広くブログってふと何だろうっと思います・・・。
著名な方や一般の方のブログを好きな時間に読むことができ、自由に書き込みもでき、生活の中の楽しみの一部であったりしながら、お目にかかっていない方とコミュニケーションが取れているかのような感覚を持つことができることに、時々不思議な思いに駆られます。
ブログに日記をつける人、それを読む人、それぞれに、人の心の中は、殺風景ではないことを知ります・・・。寂寥虚空の今にあって、この思いを誰かに知ってほしいのですね。

投稿: おぐら | 2006/03/25 12:35:02

一番乗りですね~

お帰りなさいませ~(←若干 雪女様のパクリになってしまいました。すみません 笑)

漁船で夕日を浴びている
茂木先生のお姿を想像しました~

本当に 色々な事を体験されている
(大変 ご多忙なうえ激務の中)
茂木先生は 雲の上の人です。

でもブログを拝見できて幸せです。

投稿: ROSE | 2006/03/25 12:18:54

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