« 外まで聞こえる子供の声に | トップページ | 埋もれた本質 »

2006/01/19

 トンカントンカントンカントンカン!

朝のうちは曇っていたけれど、
そのうち日の光が差し始めた広島。

 撮影が始まる前に、
ひとりで平和記念資料館の前に
立ってしばらく眺めていた。

 以前に来た時にはそれほどの
印象を受けなかったのだが、
あらためて見るととても小さな部分まで
繊細な配慮がなされていることが
わかる。

 たとえば、「高床式」の柱
の部分には、
細かい木目がついている。 
 舟を思わせる微妙な曲線と相まって、
コンクリートで構築されたモダニズムの
建築でありながら、
 まるで正倉院のような古代の
建物という印象も与えるのだ。

 実際、正倉院御物が千数百年の
間大切に受け継がれてきたように、
 資料館の中に収められた1945年夏の
悲劇の証言は、
 人類が滅びない限り永久に受け継がれて
いくべきものなのだろう。

 KIKIさんと一緒に平和記念資料館を中心
とする平和記念公園を巡る。

 KIKIさんは最近では塚本晋也監督の
「ヴィタール」に浅野忠信さんと出演した。
 とてもまっすぐなヒトである。

 慰霊碑に向かうスロープには
微妙な傾斜がつけられていて、
 自然に引き寄せられる形になる。
 手を合わせたようなアーチの向こうに
見える原爆ドームが、近づくにつれて
次第にアーチの中に包まれていく。

 両側の芝生の端にある植え込みと、その下
にある石垣にも、対応する微妙な傾きがあり、
 よく見るとほれぼれとするくらい
美しい。

 平和記念公園のレイアウト自体が、
平面的に展開された丹下健三さんの
「建築」なのだろう。

 新幹線で東京へ。
 さっそく本を読んだり、タイプしたりと
仕事を始めたが、
 名古屋に近づく頃、案の定うとうとと
無意識の人に。

 東京駅で、ちょっと変わった活字の
刺激を脳が求めていることに気づき、
OAZOの中の丸善へ。

 嵐山光三郎の「文人悪食」を買ったが、
これが大当たり。

 男アラシヤマの芸は大変なものである。
余人をもって代え難し。

 地下鉄の中でとても楽しんで読み、
気分をリフレッシュした。

 丹下健三にせよ、嵐山光三郎にせよ、
良い仕事をしている人はなぜ良い顔に
なっていくのだろう。

 作品がその身体から出る分泌物だとして、
それは必ず内実を反映するはずだし、
 また反作用として身体や表情に彫刻
を施していくに違いない。

 丹下は、建築をつくりながら同時に
自分という人間をも建設していたのだ。

 我等、すべからく建設中!
 トンカントンカントンカントンカン!

1月 19, 2006 at 07:57 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です:  トンカントンカントンカントンカン!:

» 追悼 丹下健三 幻の迷作『駿府会館』 トラックバック 不二草紙 本日のおススメ
 昨日、建築家の丹下健三さんがお亡くなりになりました。  本当にいい意味でも悪い意味でも日本を代表する建築家であったと思います。91年間、自分の道を突っ走り続けた方でした。  建築という創作活動は、とても特殊なものです。一応個人の作品という... [続きを読む]

受信: 2006/01/19 8:07:55

コメント

自分はヒロシマへは、20数年前の高校時代の修学旅行で行ったきり、一度も行ってはいない。が、あの20世紀最悪の、悲劇の記録を納めた平和記念資料館と原爆ドームは機会があれば、是非訪れたい。不戦と、平和実現を誓うためにも。

「丹下は、建築を造りながら同時に自分という人間をも建築していたのだ。我等、すべからく建築中。トンカントンカントンカントンカン!」
丹下健三氏しかり。嵐山光三郎氏しかり。そして我等が茂木健一郎氏しかり!自己を豊かなものに作り上げようとしている(あるいはつくりあげた)人々は、必ずといっていいほど「良い仕事」をしているものなのだ。

限りあるおのれの人生の中で「自分という作品」をどこまで「建築」できるか。どこまで、よいものとしてつくりあげることができるか。

我もまた、一生かけておのれという作品を良い作品として、建築していこう。せーの、トンカントンカントンカントンカン…!

投稿: 銀鏡反応 | 2006/01/19 21:38:10

トンカントンカン建設中のまま、作っては壊す連続の行く先は・・・?

ふと思うには、知らぬが仏か秘すれば花か…

…こんなときに使う表現ではないのかもしれませんけれど…

(話が見えなくなってしまい、すみません…)

さて今日、Y市の通級指導教室に子どもが通う親の会の講演で
佐々木 正美先生のお話を伺ってきました。

私は、幸いなことに、この3年近く佐々木先生のお話を何度も伺う機会があり、その中で子どものことを
前向きに考えられるようになりました。

ご存知の方も多いと思いますが
佐々木先生は、精神科医として、自閉症はもちろん、子どもに対する温かなまなざしをもって接していらして
私たち親にも、やさしく心強くも厳しいメッセージを伝えつづけてくださいます。

今、読みかけの、『脳と仮想』を佐々木先生に、ご紹介しましたら

「もう読みましたよ。」とおっしゃっていました。

私は、佐々木先生のお話になる、
エリクソンのライフサイクル・モデルについてのお話がとても好きです。

いま、40代の私が、思うこと…
そして、70歳の先生のお感じになることに
思いをめぐらせる不思議なよろこびを
みなさまに、伝えることができるでしょうか?

投稿: TOMOはは | 2006/01/19 18:00:10

やっぱり茂木さんの考え方のセンスは大好きです。
人生という時間制限の中で、どれだけ「自分」という作品を創り上げていけるか。それを考えただけで本当、ワクワクしてきます。

投稿: eppy | 2006/01/19 17:19:25

この記事へのコメントは終了しました。