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2006/01/17

島田さんと『神々の黄昏』

東京文化会館へ、島田雅彦と
『神々の黄昏』を見にいった。

最初に『ニーベルングの指環』全四作を
見たのは学生の時である。
ベルリン・ドイツ・オペラの引っ越し公演で、
ゲッツ・フリードリッヒの演出だった。
皇太子がまだ独身で、東京文化会館の
二階の貴賓席に見にいらした。
まるで
ルートヴィッヒ2世のようだった。

それから、「指環」は随分見ているが、
今回は集英社の岸尾さんのお計らいで、
仕事を兼ねて島田と見る。
仕事がらみは初めてである。

隣りに一癖も二癖もある作家がいるせいか、
何時もと違ったことに目がいった。
Valery Gergiev率いるMariinsky Operaだから、
ロシア的性格もあるのかもしれない。
一幕のごたごたした人間模様が、
いつもよりすっと入り込んでくる。

最近読んだ本に、「女一人と男二人が
無人島に流れ着いたらどうなるか」
というジョークあり。
アメリカ人だったら決闘する、
フランス人だったら一人と結婚して
もう一人と不倫する、
日本人は名刺を握りしめて、
紹介されるまで待っている・・・
などなどとあったが、
ロシア人は、女が好きではない男の方と
結婚して一生悩むとあり、
「うまい!」と思った。

さっき永遠の愛を誓ったと思ったら、
今は忘れ薬を飲まされて
他の女に言い寄っている。
そんなぐちゃぐちゃを演出する上で、
ロシアには偉大な伝統があるのであろう。

ワーグナー自体については、何しろ
数少ない、私が「絶対」と認める
天才だから、
相変わらず感心し、感銘を受ける。

二幕など心憎いほどうまく書けている。

ブリュンヒルデやジークフリートの
ようなプリミティヴな人間像はもちろん、
グンターやグートルーネのような
凡庸で情けない人物も、
それなりのリアリティがあり、
つくづく人間の全体が見えていた
人だなと思う。

『ワルキューレ』でジーリンデが
ジークフリートを腹に宿していると聞いて
生き抜くことを決意する時に初めて
流れる「愛による救済の動機」は、
大団円、ブリュンヒルデが神々の城に
火を放って旧世界を終わらせ、
自己犠牲を行う最後の最後に再び
登場する。

そもそもラインの黄金は「愛」を断念した
アルベリッヒによって奪われたわけであり、
ワーグナーは愛というものの輝きを
書いたわけであるが、
その一方で、
一幕でブリュンヒルデが
これはジークフリートの愛のしるしだと
指環をラインの乙女たちに返すことを拒むように、
愛への終着が、
世界の悲劇に通じることもきちんと見通して
描いている。

『ニュルンベルクのマイスタージンガー』
でも、ハンス・ザックスは愛が時に
世界に破滅をもたらす執着となることを
自省する。

イマドキの日本でおおはやりの純愛バンザイの
単純なる小説は所詮悪い意味でのサブカルに
過ぎないのである。

場所を日本橋に新しく出来たマンダリン・オリエンタル
に移し、島田さんと酒を飲みながら
語り合ったが、
リヒャルト・ワーグナーの革命思想に
触発され、ここのところつもりつもった
平成日本の現状に対する不満、怒りが
爆発してやや荒れ気味であった。

終わっている、ということが、
何か新しいものが来る前兆となれば良いのだが。

海上に頭を出すvolcanoのごとく、
噴火したらすっきりした気がする。
もって精進すべきであろう。

1月 17, 2006 at 07:45 午前 |

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受信: 2006/01/17 8:34:49

コメント

愛は、時には世界の破滅をもたらす…。

献身的な愛は、世界を浄化する力をもつが、一度執着的になると、世界を破滅させる。これが愛の実相なのか。

愛には“輝き”と“執着”という二面があることをワグナーは「指輪」で描ききったのに相違ない。

愛が輝きの面を見せる時、世界は栄え、
執着の面を見せる時、世界は破滅へと向かう。

イマドキの、スカ丸だしでお涙ちょうだいな「純愛バンザイ」の「悪い意味でのサブカル的」単純ドラマ・小説を見て“感動”している人々は、一度、この「指輪」を観るべきであろう。

投稿: 銀鏡反応 | 2006/01/18 18:14:54

茂木先生は、お酒がお強いのでしょうか?

酔っても、いろいろお話されたり、議論されるのかしら・・・と想像しております。

子どもを思う心を考えると

愛と愛情は、違うのだろう・・・と、漠然と感じます。

…一言では、言い表せないことですね…

さて、先ほど本屋さんで『脳と仮想』を手にとって見ました。

ブログで見たときには気づきませんでしたが

下に、The Brain and Imagination と書いてありました。

あぁ、仮想って、Imagination ということなんだ!と思いましたが

それにしても、“想像”とどう違うのかなぁ・・・などと考えていたら
これは、もう読むしかないですね…

結局、買っってしまいました。

(その時、もう一冊買ったのは、「わかったつもり」西林克彦です。)

養老先生の「バカの壁」も、興味深いですが

自分の意図していることと、相手の受け取っていることとは

一致しないものと、思ったほうがいいのか
一致してほしいと、思ってしまうけど

そんなことにこだわらない生き方って、あるのでしょうか?

投稿: TOMOはは | 2006/01/17 12:41:06

 まぁ、世界が滅びるかどうかは別にして、執着が誰かを傷つける事は確かにありえるわけで。

 それでも構わないという覚悟が出来るのか?
 執着することと諦めること、どちらが後悔の無い生き方なのか…という話ではなくて。

 何事も、冷静に、柔軟に対処できるようになりたいですね。
 そもそも、どこかに信じられないところがあるから執着が生まれるわけだし。
 …その不信感は一生、何事に対しても付きまとうような気がしてならない…

投稿: cosmosこと岡島義治 | 2006/01/17 10:30:35

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