あすへの話題 ITとモーツァルト
あすへの話題 ITとモーツァルト
茂木健一郎
携帯電話や、インターネットなどのIT(情報技術)が私たちの生活スタイルに及ぼす影響は、ますます深く、大きなものになっている。
人間には、いわゆる「場の空気を読む」驚くべき能力がある。前頭前野を中心とする神経細胞のネットワークが、その時々の文脈を読み取り、適切な行動をとることを可能にしている。
モバイルやユビキタスといった技術の発展により、場所や時間の限定を超えて自由に文脈を制御することができるようになった。ニューヨークの街を歩きながら東京のオフィスからの連絡を受けたり、レストランでの会食中に仕事のメールを送受信したりということが普通に行われるようになってきた。
このような変化の結果、人間の脳内の文脈依存性ダイナミクスは、かつてないほど活性化している。場所や時間に関係なく自由に文脈を設定したり、同時に複数の文脈を引き受けたりできるようになった。私たちを取り囲む「場の空気」は複雑で豊かなものになったのである。
変化が急でついて行けないという人もいるかもしれない。しかし、人間の脳はそれほどやわではない。新しい時代の「場の空気」の中で、人間の脳はさらに進化するのではないか。
過去には、複雑な文脈を引き受けることで驚くべき創造性を発揮した例もある。モーツァルトその人である。歌手を誰にするか、台本はいつできるか、王様の好みは何か。現代人も顔負けの複雑な「場の空気」の中で、モーツァルトは永遠の名曲を作り上げた。
ITが私たちをモーツァルトに近付ける。そんな夢を抱いても良いのではないかと思う。
(日本経済新聞2005年12月8日夕刊掲載)
12月 9, 2005 at 08:46 午前 | Permalink
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コメント
爪へ
場の空気、は場を造っていく音、交際が壊されていく、アンバランスな協会の咬合、官能の境界線に沸く、愛しさ、化学反応ですか。科学と芸術、収奪と受諾はその交錯した水底から、接がれ、子孫を生み出している。もっとも美しいものはあーとを転がす共鳴され怯んだ先っぽから滑走路に奇怪な二次曲線を放る如何様師なのかしら
モーツァルトのことを話している女の子達が突然、”カワイー” ”カワイーネ” ”きゃははは
とか笑い出して、子供の話とかしていて、きらっきらだったよん こういうきれいな女の子達にめっぽう弱いよ僕・・・・・・・
これだから女の子は好きなんだっ。
ああ、そうそう、それでは、みなさん、また。
パソコンより
茂木健一郎先生
東次郎
追伸
1,もうすぐセンター試験でーす
みんな無事に終えられますように
2、僕、読者よ 謹啓に聞いて行く の。作り手じゃ、ない、そんな僕が 思うことーアートってなーんだ?!
投稿: 東次郎 | 2005/12/11 4:04:20
モーツァルトは「場の空気」を読む達人だったという。
自分も時折ライヴへ行くことがあるが、やはり、そういう「場の空気」を強烈に感じる事が多い。きのう、この記事について疑問だ、ということをコメントしたが、良く考えてみたら、なるほど、おっしゃるように、人間はITの発展に付いて行けなくなるほど、やわな脳の持ち主ではないのですね。
モバイル&ユビキタス時代の複雑な文脈が行き交う現代に柔軟に対応してゆくためには「場の空気を読む」能力が格段に発達するに相違ない。そこに人脳の進化のネクストステージがあるはずだ。情報が過多になり、パンクしかかっている状態であった我々の脳が、いまになってようやくこの時代に適応しつつあるのだと、この記事を何度も読んで見てやっと納得した次第です。人間の、いな、生物の環境適応能力はやはり凄いとしかいいようがない。
投稿: 銀鏡反応 | 2005/12/09 19:22:03
「場の空気」ってライヴとか行くとすごくよく感じるなぁ。ちょうど昨日も友人のバンドが出てるライヴを観に行ったんですが、その空気を作り出すのが、上手なバンドとヘタなバンドがやっぱりあって、それは経験によるものかもしれないし、それとも空気が読める、読めないの差であるのかわからないけれど、場の空気を掌握出来るバンドはやっぱり観ていて、安心できるしそれがプロ意識にも繋がるんだろうなと思いました。それはライヴに限ったことではなくて、大勢の人の前で講演する時や、恋人とふたりで会話するときでさえ、その空気が人の脳を刺激してますもんね。映画の画面から感じるのもひとつの空気だし、その音も言葉もない遠く離れた映像のワンシーンが、時に胸を強く握り締めるのもそうですよね。それが何かを創造する上での原動力にもなるのも頷けます。
やはりモーツアルトのように多くの人を感動させる曲をつくる人は、複雑な環境をものともせず、その「場の空気」を掌握する技術と力、それを感じる感覚が優れていたのでしょうね。
投稿: 将 | 2005/12/09 10:37:21