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2005/12/18

あすへの話題 感情と個人差

あすへの話題 感情と個人差

茂木健一郎

 しばしば、同じできごとを前にして自分と他人では感じ方が違うことに驚く。同じ映画を見ても、感動する人もいればくだらないと切り捨てる人もいる。同感できる友の存在はうれしいが、人生の経験を積んでいくに従って、違和感を覚えるような人の存在もまた貴重なのだということがわかってくる。
 色や形、音、味といった感覚の判断においては、個人差は少ない。一方、好き嫌い、喜怒哀楽といった感情の反応では、個人差が比較的大きく現れる。「感情には個人差が大きい」という事実の背後には、実は深い理由があるのである。
 もともと、感情は、生きる上で出会う不確実な状況に対処するために進化してきた。不確実な状況の下では、正解を一つに決めることができない。そんな中で、感情のはたらきを通して判断し、行動することで人間は生き延びてきたのである。
 もし、正解が一つだけならば、全ての人の反応が理想的には同じになる。ところが、不確実な状況の下では、答えが一つではないから、人によって採用する「戦略」が異なってくる。人類全体から見れば、どうなるかわからない局面で様々な人が多彩な戦略(=感情の反応)をとるから、全体として生きのびて来られたのである。
 自分が感動しているのに相手が冷めていたり、くだらないと思うものが好きな人に出会ったりすると、何となく不愉快に思うのが人情というものである。
 そんな時は、「ああ、この人は不確実性に対して私と異なる戦略を採っているんだ」と自分に言い聞かせてみたらどうだろう。多様性が世界を豊かにすると思えば、腹も立たないはずである。

(日本経済新聞2005年12月15日夕刊掲載)

12月 18, 2005 at 09:42 午前 |

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コメント

講演の内容を聞きましたが、

・小林の評論は、出来上がった品物の「美しさ」について語った。
・高橋は、「美しさは結果であって、結果からものを作ることはできない。したがっていくら美しさについて論評したところで、ものづくりにはまったく役立たない」と言っている
・茂木は「小林の作文は美しい、まるで一個の楽曲のように。それがものづくりに役立つか否かはここでの問題ではない」と言っている。

これだけの話が、なぜか概念的に混乱をきたし、感情的なすれ違いにつながっているのが、なにより不思議でした。

投稿: | 2005/12/25 14:06:54

社会全体を見通して必要なもの、教育を考えていないですね。茂木さんが発する言葉はバカな教師、バカな大人も受け入れますから。
やっぱり茂木さんは、クオリア原理主義者なんですね。(イヤミを承知で書きました。)

投稿: | 2005/12/21 21:56:16

初めまして
「小学校長のお仕事」のprincipです
「感情と個人差」を読ませていただいて、「人類全体から見れば、…様々な人が多彩な戦略(=感情の反応)をとるから、全体として生きのびて来られたのである。」この部分で私が過去に、「水に顔をつけられない子のいいところ」で似たような論を書いていましたので、TBさせていただきました。

投稿: princip | 2005/12/18 23:07:09

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