« 天才になる方法 | トップページ | 「本物の学問はどこに?」 »

2005/10/16

あすへの話題 快楽のアマゾン河

あすへの話題 快楽のアマゾン河
茂木健一郎

 「食欲の秋」と言うだけあって、食べ物が美味しい。ついつい飲食が過ぎて反省することになるが、少々後ろめたいくらいでないと人生は楽しくない。
 人間の脳は、基本的に快楽主義者である。ある行動をして、結果として脳の中で「うれしさ」(報酬)を表現する物質であるドーパミンが放出されると、その行動が強化される。脳は、ドーパミンが出る前の行動を強めることで、快楽を増やして行こうとするのである。
 もっとも、人間の場合、快楽は単純なものではない。数学者などは、毎日未解決の問題について考えるのが快楽である。毎朝起きると、「さて、今日もあの難しい問題に取り組めるぞ」とわくわくする。常人から見ると何とも奇妙だが、それもまた立派な脳内の快楽文化なのである。
 自分の脳の中で、快楽の「上流」に何があるか。それを自問してみれば、自分がどんな人間であるか判る。食べたり飲んだりといった生物として基本的なことはもちろんであるが、それ以外にどんなユニークな行動が脳内快楽につながるか、そこが勝負のしどころなのである。
 世に言う「快楽主義者」に案外詰まらない人が多いのは、その場合の「快楽」が紋切り型だからである。人間は単純なる快楽のみで生きているのではない。「楕円関数」について考えるのが楽しくて堪らないとか、江戸時代の寺社奉行の日記について調べるのが無常の快感であるとか、どうせならそれくらいに達しないと、脳内快楽の達人とは言えないのである。
 様々なユニークな「うれしさ」の支流がやがてアマゾンのごとき大河となる。そんな人生は最高ではないか。

(日本経済新聞2005年10月13日夕刊掲載)

10月 16, 2005 at 11:32 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: あすへの話題 快楽のアマゾン河:

» リゾート=快楽という考え方はイケてない トラックバック resortboy annex
会員制リゾートホテルに足しげく通うようになって久しいですが、書店で販売されているようなガイドブックはほとんどといっていいほど役に立ちません。情報が十分でないということもありますが、問題はむしろその切り口。リゾートというととかく「快楽の...」のような見出しで紋切り型なものばかり。 下記のコラムで、こんなフレイズを見つけました。 [http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2005/10/post_ab00.html:title] 世に言う「快楽主義者」... [続きを読む]

受信: 2005/10/20 0:20:05

コメント

食欲の秋
スーパーなどへ行くと色々な食材が。
わくわくしますね。
そして、おいしい酒。
今日は越乃寒梅を冷やして、わくわくしながら食事の準備をして。。

こんな酒グイグイ飲んでいいのかなと、すこし後ろめたい気持ちになりながら、副交感は浄化されドーパミンがあふれている現在です。

すこしブログでも見ながらセロトニンでしたっけ、気持ちをしずめてDeepな眠りに尽きたいと。

投稿: 佐々木裕伸 | 2005/10/19 20:40:25

私にとっての快楽のひとつは、好きな絵を只管書いているときに感じる、創造的な昂揚感かな。

投稿: 銀鏡反応 | 2005/10/18 22:34:40

快楽、かは分かりませんが、ずっと、気にしたい、わぁ。

投稿: 東次郎 | 2005/10/18 2:31:15

 快楽なのかよくわかりませんが、私は未解決の問題を所有した時、その問題が背後霊にでもなったかのように、それに捕りつかれてその事しか考えられなくなる様な事があります。
 単に頭の切り替えが下手糞なだけかもしれませんが。

投稿: cosmos | 2005/10/17 13:51:58

この記事へのコメントは終了しました。