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2005/10/29

あすへの話題 科学の恵み

あすへの話題 科学の恵み
茂木健一郎

 科学離れが心配されて久しい。
 確かに、私が子供の頃に比べて、科学の社会の中での位置付けが変わってきているように思う。宇宙の真理を探求する営みとしての科学よりも、役に立つ技術を提供する方便としての科学への期待が高まっている。科学は単なるノウハウではないのだが、真理探究としての科学に対する尊敬の念が、いささか薄らいで来ているようだ。
 この辺で、もう一度、科学が人間にもたらした恵みを振り返ってみてはどうか? 単にテクノロジーだけの問題ではない。科学は、私たち人間の世界の見方自体を変えてきたのである。
 相対性理論を創った天才アインシュタインは、「ある人の価値は、自分自身からどれくらい解放されているかで決まる」という言葉を残した。科学のすばらしさは、自分という特別な立場、利害を離れてこの世界を見ることを可能にすることである。お金儲けも悪くはないが、たまには欲望から離れて世界をありのままに見つめてはどうか。
 科学者は、データやモデルを、それが誰によって提出されたものかということには関係なく検討し、評価する訓練を受けている。認知的距離を置くことが、宇宙の秘密を明らかにする上で必要だと知っているのである。
 インターネットを支えているのも、科学と同じようなクールな論理である。欲望だけをいたずらに拡大させても、肝心の技術がそれを支えなければ話にならない。熱い心と冷静な論理の組み合わせこそが最強の知性を実現するのである。
 対象から距離を置き冷静に考えること。科学の恵みが由来するところを忘れてはならない。

(日本経済新聞2005年10月27日夕刊掲載)

10月 29, 2005 at 08:38 午前 |

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