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2005/08/17

ラブ&ピース! 

大雨が降り、地震があり、迎えた
夕刻は不思議なさわやかさに満ちていた。
 
 花野剛一さんと広尾で待ち合わせて、羽澤ガーデン
まで歩いた。
 住宅街の向こうに正面の門が見え、そこから
ゆるやかに曲がる坂道を上っていった。
 すでに桑原茂一さんと吉村栄一さんは
いらしていて、
 庭では、撮影の準備が進んでいた。

 しばらくして、坂本龍一さんがいらした。
 赤いTシャツに黒いカーディガンを羽織り、
なんだか森の中の古木が歩いているようだった。

 坂本さんとは初めてお会いしたが、
とても繊細な印象にうたれた。
 その声がひそやかで、小さく、
しかしちゃんと伝わってくるのが
不思議だった。
 今思えば、森の小鳥のさえずりの
ようでもあり、
 梢を渡る風のようでもある。

 撮影が終わった後、茶室でお話する。
 桑原さんのつくっているfree paper dictionaryの
企画。
 デジタルとは何か、
 デジタルで表現され、記録される
音楽の本質とは何か、という
テーマから始まって、
坂本さんの活動のフィールドでもある
 ポップスの話になった。

 坂本さんほどの人でも、アメリカの
ポップスの牙城を打ち破るには苦労するという。
 ビルボードのチャートを見てください。
 ほとんどがアメリカとイギリスの
グループばかりでしょう、と坂本さんは言う。

 それでなるほどと思った。
ポップスは、クラッシックやジャズのような
スタイルが様々なことを規定していく
ジャンルではなく、
 一般の人々の欲望がむき出しになる
「野獣」のフィールドである。
 現代に放たれた野獣が暴れるポップスの
世界では、
 それこそ、「People」誌に載る
ようなあからさまなポピュラリティの
領域があって、
 そこに「東洋人」が入り込んでいくことは
難しいのだろう。

 似たようなことは科学の世界でもある。
 テクニカルなブレイクスルーを
報告するだけならば、クラッシックや
ジャズのようなものだから良い。
 しかし、パラダイムを変革するような
メジャーな寄与となると・・・

 お話をしながら、
 私は、坂本さんの音楽に共通する
ある「クオリア」が気になっていて、
 それを突き止めようとしていた。
 聴けば誰かと判る、シグネチャーの
ようなものがある。
 そのようなものを通して、
人は他者を理解し、作品はマーケットの
中で流通して行く。
 しかし、もちろん、それを生み出す本人は、
常に揺れて震える魂なのだ。

 対談終了後、レストランに席を移して
食事をする。
 庭にはかがり火が炊かれ、
テーブルの上でランプがゆらゆら揺れた。
 西表の話、ニューヨークのこと、
そして、しなやかで美しい野獣たちの
話。
 植物も生きている。
 ジャイナ教の不殺生。

 バーに移って、坂本さんが若い時
真性の野獣だった頃の話を聞く。
 今でも、不条理にはきちんと
怒る! とのこと。
 はははと笑った桑原さんが、
実は野を独り行く一番の野獣である。

 半月夜の野獣くらべは面白かった。
 さわやかな夕暮れから始まった
一日を締めくくるにふさわしい
楽しい時間だった。
 
 桑原茂一さんのご厚情に感謝します。
 一夜明け、今の気分はラブ&ピース! 
 どんな仕事でもして見せましょう。

8月 17, 2005 at 08:15 午前 |

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受信: 2005/08/18 13:56:32

コメント

こんばんは。
坂本龍一さんの音楽は、どの曲を聴いてもある種の「揺らぎ」がありますよね。
その揺らぎは、聴く者のストレスなどで高ぶる魂を鎮め、新たな生きる希望を見出させる力があるように思います。
それは茂木さんのおっしゃるような「常に揺れて震える魂」の為せる技なのかもしれません。
ところで坂本さんのような世界的なポップアーティストでも、ビルボードなどアメリカのポップス界の牙城を崩すのは難しいとありましたが、おそらくアメリカのポップス界ではいわゆる「セレブ」しか入れない領域を、ごく一部の大物たちが作ってしまって、坂本さんや宇多田ヒカルのような「東洋人」とか「マイノリティ」の入る領域は限りなく小さいのかもしれませんね。
もっとアメリカのポップス界もひらけてほしいところですが…。
私事で恐縮ですが、私自身はもはや最近の邦楽はおろか洋楽とも縁遠くなってしまい、もっぱら、大昔のそれこそ「昭和歌謡」にある種のクオリアを感じるようになってしまい、そういう音楽を集めたCDを買っては試聴して、試聴してはウォークマンで聴けるようにMDに落としています。もっとも、最近になってMDに録音する為に使っているMDラジカセがイカレてしまい、録音もできずじまいですが。
茂木さんはウォークマン派じゃなくてiPod派だと思うのですが、持ち歩いて聴くとしたら、
主にどんなジャンルの曲を持ち歩きたいですか?
因みに私の場合はクラシックから、大正時代に流行ったヴァイオリン辻演歌、先に書いた昭和ナツメロ、それから80年代の和製ニューウェーヴ音楽(YMOや戸川純などに代表される)などに至るまで、ありとあらゆるジャンルからリッピングし、MDに収めています。

投稿: 銀鏡反応 | 2005/08/17 19:37:48

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