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2005/07/08

あすへの話題 脳ブームが映すもの

あすへの話題 脳ブームが映すもの
茂木健一郎

 脳に対する一般の関心が高まっている。この「脳ブーム」の背景には、最近の社会情勢の変化があると私は考える。
 コンピュータやインターネットなど、人間を取り囲む情報環境は激変した。それに伴って、社会の中で要求される能力も変化している。
 従来の能力観、知性観が役に立たなくなってきているのである。そんな時代の流れの中で、自分の脳を、どのように使ったら良いのか判らない。そのような漠然とした不安が、人々の脳への関心を高めている。
 産業革命以降、事務処理を正確にこなすことのできるホワイトカラーが評価されてきた。しかし、定型的なデータ処理ならば、今やコンピュータが迅速にやってくれる。いつの世でも、稀少な財がマーケットで評価される。コンピュータにはまねの出来ない人間の能力が求められる。すなわち、他者とコミュニケーションする能力と、新しいものを生み出す創造性である。
 現在は、単純な計算や読み書きの能力を鍛えるドリルへの関心が高い。確かに、脳の基礎体力を育むトレーニングとしては役立つ。しかし、それだけでは人間の脳の潜在的能力は引き出せない。正解の決まった問題を素早くこなすのは、コンピュータが得意なことである。入社試験で、「そうか、君はドリルが素早くできるのか」と言って喜ぶ会社はないはずである。
 コミュニケーション能力も創造性も、一日にして促成栽培できる能力ではない。まさに、人間としての総合力が問われる。脳への関心は、人間への関心につながらなければならない。人間を知ってこそ、脳ブームも生きるのである。

(日本経済新聞2005年7月7日夕刊掲載)

7月 8, 2005 at 09:51 午前 |

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コンピュータやインターネットなど、人間を取り囲む情報環境は激変した。それに伴って、社会の中で要求される能力も変化している。  従来の能力観、知性観が役に立たなくなってきているのである。そんな時代の流れの中で、自分の脳を、どのように使ったら良いのか判らない。そのような漠然とした不安が、人々の脳への関心を高めている。 脳自体も環境が変化したときには、その戦略(処理の仕方?)が変わるのであろうか?  確かに、運動学習でも慣れるまでは小脳をつかう(内部モデルの生成?)が、慣れてしまった後では、小脳はあまり使... [続きを読む]

受信: 2005/07/11 9:47:38

コメント

天動説と地動説を勘違いして書いてしまいました。
修正します。
最近はどっちでもいいと思っていたからです。
Y=Xならば、X=Yで何処に基準を置くかの違いだからです。相対的にしか認識できないことに重きを置きすぎました。

「地位や名誉を実体だと思っている奴は下らん」
そうですね・・・
赤は、赤自体が実体ではありません。
そこにあるバックボーンや関連に実体があります。

夜空の星の輝きもそうです
あの一点の光が実態ではありません。
あの一点の光には、恐ろしい程の裏打ちがあります。
クオリア地動説を唱える理由です。

赤を感じるのは、あの夜空に輝く星の中心の様に、クオリティーリアクターが働いた結果です。

投稿: | 2005/07/11 8:00:38

「地位や名誉を実体だと思っている奴は下らん」
そうですね・・・
赤は、赤自体が実体ではありません。
そこにあるバックボーンや関連に実体があります。

夜空の星の輝きもそうです
あの一点の光が実態ではありません。
あの一点の光には、恐ろしい程の裏打ちがあります。
クオリア天動説を唱える理由です。

赤を感じるのは、あの夜空に輝く星の様に、クオリティーリアクターが働いた結果です。

投稿: | 2005/07/10 22:02:44

先日、椿昇さんの音声ファイル聞かせて頂きました。話しぶりが心に響いてくるというのか「非常にハートのある人だな」という気がしました。話している内容全てに賛成という訳ではないですが、ただ、これだけハートフルな椿さんでさえ「東大の人達に変わって貰わないと、どうにも出来ないんだ」という話をされていたのが印象的でした。でも、私は東大出身者の人達の価値観が、茂木さんのように「地位や名誉を実体だと思っている奴は下らん」と言うような考え方に変わるという事については、かなり、悲観的な感じがしています。それこそ、東大合格者の脳内こそが「究極のドリル」ではないかと感じるからです。そんな、東大出身者が大多数を占める高級官僚などが、天下りなどで好き勝手な事をして、日本を滅茶苦茶にして、何の責任も取らない。文字通り、「地位や名誉を実体」と思っている人ばかりですよね。だから、椿さんのいうような話が、とても、この人達の心に通じるとは思えません。
 それよりも、もっと違ったアプローチの仕方をして、最高学府を出てるんだから何をやっても良いんだと思っている人達の思い上がりをたたき壊して貰えるようなアートを演出して頂きたいですよね。
 結局、彼らは、内政でも外交でも、一番頭の良い自分達が、好き勝手にやって良いと思っている訳ですから、「そんなのは、本当の頭の良さじゃない」とわからせるようなアートを見たいです。
 
 

投稿: | 2005/07/09 14:57:56

いちmogikenファンとしての書き込み.
先生と呼ぶには遠すぎるし,
健一郎さんと呼ぶには,そんなに近くない.
だからいつものようにmogikenと呼ばせて頂く.

この日記を読むのが,職場に着いてからの僕の毎朝の日課となっている.
軽快なリズムに乗せて時に辛口な文章が好き.
だから元気の源泉にもなった.

今朝の話題「脳ブーム」.
本来はブームになって欲しくない領域.
簡単には語れない領域なのに,どうして.
だからK島さんには少し残念.
上手くメディアに担がれた気がする.

mogikenは,クオリアを前面に「心脳問題」に取り組んでいる.
その点には強く心惹かれる.
だが,しかし書籍の出版が多過ぎはしないか?
この点は疑問.

変な話だが,mogikenというブランド力がどんどん減退しているような気がする.
余計なおせっかいだが少し心配.

(ちょっと)昔,メールに書いていたような
もっと医学的臨床に即した「脳」にも取り組んで欲しい.
脳科学者ですから.
数多いる脳損傷者を現実世界に引き戻してはくれませんか.
そこに今時のブームはいらない.

投稿: | 2005/07/09 9:12:57

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