時の流れが目に見えること
静岡の磐田に仕事で行った。
駅前に善導寺の大楠がある。
ジュビロ磐田のスタジアムのすぐそばに、
ヤマハ発動機の本社があった。
仕事を終え、東海道線に乗って金谷駅に
向かう。
以前から伺おうと思っていた、河村隆夫
さんのお宅を拝見するためである。
河村さんの家は、代々御林守をつとめられた
家系で、隆夫さんが15代目。
クオリアや文学など共通の関心事が
あるので、以前から親しくさせていただいている。
河村宅は、金谷の市街から
車で10分ほど走った山間にある。
途中で、突然時間の肌理が変わった。
このあたりの山は、河村さんの所有で、
自分の山の稜線を見ながら時を過ごすという
贅沢が河村さんのものである。
昔からの家とは別に、洋風の家があり、
普段はそちらに住まわれている。
それで、代々の家の維持が大変だ、
というのが河村さんの悩みなのである。
もう半年草刈りしていないんですよ、
と河村さんが見せてくれた屋敷の風情は、
しかし素晴らしいものだった。
母屋の前には、スギゴケの美しい
緑の絨毯がある。
時が経て熟した気配は至るところにあり、
石垣からも、大木の枝からも、
着生直物の落ち着いた緑が飛び出していて、
それを見ているだけで心がなごんだ。
裏手の池には、モリアオガエルが
産卵し、
蔵の下にはハチの巣があり、
ハチたちが出入りしていた。
「子供の頃から、ここに巣があったんですよ」
と河村さん。
かくも長い歳月、同じ場所に巣がつくられ続ける
ことの不思議。
裏手の山にある河村家代々の墓に参る。
大きな山桜が墓を守るように立っていて、
まるで本居宣長だと思った。
新しい家屋の方で、河村さんが発見した
「冑佛」を拝見する。
昔の戦国武将が、冑の中に潜ませて戦場に
赴いたであろう小さな仏像。
「あの頃の人は、切実に生きていたんでしょうね」
と河村さんは言った。
静岡まで送っていただいた。
山を下りると、もうさっきまでとは
時間の流れが違っていた。
静岡駅前の料理屋で、河村さんと
いろいろなことを話した。
文化行政の問題点。
時間の流れが目に見える希有な空間を、
どうやって守っていけばいいのか。
そこには意志とともに何らかのノウハウが
必要なのではないか。
河村家が市指定文化財の維持者として受け取る
補助金は、ずっと年間1万円だったそうである。
(河村さんのブログに何点か写真を載せて
いただいています)
6月 7, 2005 at 07:17 午前 | Permalink
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コメント
静岡にお出でだったのですね!
ご一緒させていただけばよかったぁ!!
残念。
今度は静岡大学にもお越しを!
河村氏とはネットのみの繋がりですが、近々直接お会いする機会が出来そうです。
何かのご縁、今後も宜しくおつきあいの程。
投稿: 小二田 | 2005/06/08 16:05:34
30年前アメリカの片田舎にホームステイしました。ミツバチの箱が散在する、水道はなく飲み水にため池を使用している、100年前インディアンが住んでいた農家でした。山はなく地平線まで360度空。時の流れが違うと感じました。精神科医として、情動(大脳辺縁系)とクオリアの関係、癒し、子育て、成長の問題を考えています。いつか、意見交換していただけると嬉しいです。
投稿: 竹内小代美 | 2005/06/08 5:57:12
昨日は、お忙しいなか、深山幽谷へおたずねくださいましてありがとうございます。
さっそく写真をお送りします。
投稿: 河村隆夫 | 2005/06/07 23:13:45