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2005/05/17

Roger Penroseと会う

St. Giles streetのmathematical instituteに、
Roger Penroseを訪ねた。

Penroseに会うのは、田谷文彦くんと
Oxfordを訪問して以来、数年ぶりになる。

大著The Road to realityを書き上げた
Penroseはとても元気で、
独特のexquisite charmは今も変わらない。

quantum gravityのレベルと、脳のシステム
論的性質のレベルをどう結ぶのか、
その時、「統計的」な性質がどのように
関わってくるのか。
これらの問題について、Penroseが
今何を考えているのかを知りたいと思った。

Penroseは、脳の認知プロセスの本質は、
subcellular levelにあるとまだ信じている
と言った。
そして、意識が波動関数の収縮を起こすのでは
なく、Objective Reduction(OR)のうち、一部の
ものが意識的プロセスを起こすのだろう、
という考えは変わらない、と言った。
 
microtubuleやcentrioleなどにおける
ORが、実際に私たちが体験する意識に
かかわるには、スケールの差異を乗り越える
ための何らかのしかけが必要になる。

The Road to Realityには、Andrew Dugginsに
よる、the binding problemにおける
Bell's inequalityのviolationを観測しよう、
というアイデアが出てくる。

scaleを超えた理論をつくるには、このタイプの
検証が必要なのではないかと言ったら、
Penroseもそう思う、と答えた。
ただ、Dugginsの実験は実際的困難に直面して、
その後進んでいないとのことである。

面白かったのは、統計的議論に関する
ことだった。
現在の脳科学、認知科学では、認知プロセスの
本質を解析する上で、Bayesian statisticsの
ような統計的議論を用いるが、
このようなアプローチについてどう思うか、
と聞くと、
「判らないけど、私は、統計的議論が
どうも得意じゃないんだよ」
と困ったように言った。

Penroseは、はっきりとした美しい構造
を持った幾何学的システムについて
考えるのが好き/得意で、統計的議論
を行うことがあまりできない、というのである。

「知っての通り、アインシュタインは
統計的議論が得意だったんだけどね」
とPenroseは言った。

Penroseの統計的議論に対する距離感は、
その美意識と関係しているような印象がある。
統計的議論に、美しいものはあまりない。
そう思っているのではないか。

最後に、twistor formalismにおける
波動関数のある性質について、
昨晩思いついた!
というアイデアについて説明してくれた。

場所よりも時間よりも、
この人、という人との接触こそを大切にしたいと
思うような人生のフェーズを迎えた。
この、類い希なる頭脳とまた接することが
できたことに感謝したい。

Wadham collegeのPenrose tilingを見て、
Penroseに
別れを告げる。

車に乗り、M40からM25へ。
HeathrowのHertzで返却し、新潮社の
北本壮さん、菅野健児さんと
タクシーでPaddington近くのホテルへ。

HeathrowからCambridgeに直行して
そのまま帰ることが続いていたので、
Londonは久しぶりである。
車窓から見える景色に、なんだか
「うゎーっ!」という感じだった。

本当は、The Ivyに行きたかったのだが
近年ますます人気が出たらしく、
予約不可能。
それでも、Leiceter Squareから
Covent Gardenにかけての私の大好きな
エリアを歩いていたら、仕事に
一段落付いたこともあって、本当に
嬉しくなってしまって、歩きながら
きゃっきゃきゃっきゃとはしゃいでしまった。

見るもの聴くもの全てが懐かしい。
折しも、
Picaddily Circus近くで、Red Carpetが敷かれ、
George Lucasも来て、Star WarsのPremierを
やっていたが、そんなone-offのeventが
どうでもいい、と思えるくらい、
あのエリアが好きだ。

嬉しかった理由はもう一つある。
Penroseと話している最中に日本から
電話があって、母の総胆管結石の
除去手術が無事成功したという知らせ。

Penroseが良いニュースをもってきて
くれた。

The Ivyには直接店にいって「キャンセルないか」
とトライして、店の人も検討して
くれたが、果たせず。
結局、The English National Opera近くの
Giobanni'sでイタリアンを食べた。

何回も来た店だが、オーナーのPinoと喋ったのは
始めてだった。
Giobanniというのは、55年前に店を始めた
Pinoのおじいさんだそうである。

通りに面してガラスからテーブルが見えるが、
入り口は裏の細い路地にあって、
中に入るとろうそくに照らし出された
落ち着いた空間が広がっている。
オススメである。

Giobanni's
10 Goodwin's Court
off 55 St Martin's Lane.
London WC2N 4LL
telephone 020-7240-2877

少し無理をしてもイギリスに来て良かった。
すっかり元気になった。
日本という文脈の中でも
その海に飛び込んで泳いでいけそうである。

5月 17, 2005 at 02:00 午後 |

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コメント

お母様の手術の成功、よかったですね。
茂木さんの祈り、みなさんの祈り...でしょうか。
日記を読んでいるみなさんのお気持ち、温かいコメントから感じられました。
順調にご回復されますこと、お祈りしております。
実り多い英国滞在記、楽しく読ませて頂きました。

投稿: gure | 2005/05/18 18:17:00

御母堂の手術が成功されてよかったですね。

投稿: かぶとぼとけ | 2005/05/17 17:49:39

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