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2005/04/11

私の家は山の向こう

有田芳生さん
からいただいた
『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)
を読了。

有田さんの日記で、この本をいかに苦労して執筆
されたかを知っていたので、
私にしては珍しく、ちゃんと机に向かって
読んだ。

1989年6月4日の天安門事件の直前に、香港の
ハッピーヴァレー競馬場で開催された、民主化を求める
野外コンサートで歌われた「私の家は山の向こう」
の録音と、1992年7月に有田さんがテレサ・テンに
インタビューした音声が特別付録CDとして添えられて
いる。

有田さんがこの本の中で書かれた題材について、
様々な思いを抱いたことは想像に難くない。
しかし、本書は、あくまでもテレサ・テンの
生涯を事実に基づいて禁欲的に描いている。
その素描の一本一本の線の背後に、
多くの取材と思索、素材の取捨選択の
苦労があったことは間違いないが、
徒らな感傷を述べず、
あくまでも事実に語らせることで、
かえってテレサ・テンという希有な人物の
人生の重みがずしんと感じられるように
思う。

プロの仕事というのは、こういうものを
指していうのだろう。

台湾、香港、シンガポール、そして中国本土。
東アジア〜東南アジアにおける華僑世界
の広がりは、日本人にはなかなか想像できない
(そして手が届かない)インターナショナルな
顔を持っている。
テレサ・テンのスターダムが日本の例えば
美空ひばりのそれと比べてよりゆるやかで深い
広がりを持っているとすれば、
それは彼女の資質はもちろん、上に述べた
華僑世界の厚みと無関係であるはずがない。

そのようなことに気づかせてくれる点に
おいても、有田さんの本は現代日本の状況に
対するすぐれた批評性を持っているように
思う。

東アジア情勢は沸騰しているが、
一番大切なのは、熱く思想を語ることよりも、
まずは事実を押さえることではないか。
日本、韓国、北朝鮮、台湾、中国、チベット、
ベトナム、フィリピン、香港。。。。
これらの地域において、何年にどのような
ことが起こったか、きちんと年表にでも
して押さえることからしか、
事態の把握もできないし、打開もできない
ように思う。

たとえば、天安門事件の記憶が昨今の中国の情勢と
どのような関連性を持っているのかを
考えるだけでも随分違ってくる。

事実を押さえることが、歴史認識のまずは
本質だと思う。
歴史から自由になったと思った瞬間に、
実は無意識の深いところで歴史的条件にとらわれて
しまっている、ということは実際にあるのだから、
自分の置かれている歴史的文脈をちゃんと
わかっているということは、
現代人にとっても無関係ではない知の
嗜みではないかと思う。

深夜、サッポロ黒ラベルを飲んだ。
仕事は終わっていません。

4月 11, 2005 at 07:11 午前 |

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