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2005/04/04

揺らぐ自己をクールに見つめる

空港で日高敏高さんの『春の数え方』
を買い、読みながら帰ってきた。

 生物の世界は、いろいろな
驚きに満ちているけれども、
 近代人であるわれわれが本当に
反省すべきことは、
 存在というものがいかに相互依存的
であるということと、
 「自己」というアイデンティティが
相対的なものであるかという
二点に尽きるのではないか。

 確立した自己に情報が入り、
出て行く、といった近代的自我の
モデルの下に問題を考えるのは
やめたい。 
 生物の世界が、性の問題を含めて、
いかに自己というものを簡単に
踏みにじって新しい自己を作って
いくかということを反省して見るべきだろう。

 とは言っても、現代思想的な曖昧模糊
とした議論をなぞるつもりは全くない。
 つまり、事実問題として、そうなっている
ということを認めるべきではないか、
 という広い意味での科学主義の話として
私はこの問題を考えている。 
 クールなロジックの内に、ホットな
メタモルフォーゼを捉えたいのである。

 「セレンディピティ」も、言い出したのが
アングロサクソンのホラス・ウォルポール
だから、一応、「近代的自我」を前提に
した話(「私」が偶然幸運に出会う能力)
となっているが、これを突き詰めていけば、
多細胞生物、有性生殖、細胞内共生といった、
同一性自体をゆるがす一連の事態につながって
いくのである。

 私は、「仕事をする」というメタファーが
キライである。
 作家などが、「何々と何々の間に何々の
仕事をして、原稿を送ってすっきりした」
などとエッセイで書いていたりするのを
読むと、春風でぶんなぐってやろうかと
思う。
 なぜかと言うに、 
 きっと、そこに、「確立した私が
何かをする」という近代の匂いをかぎ取る
からだろう。
 「私」なんて、いくら揺れても、変わっても、
領域侵犯されてもいいんだ。
 モーツァルトはきっとそんな感じで
やっていたに違いないと確信する。
 小林秀雄が評論を書くときに、「さて、仕事を
するか」「ああ、気持ちよく仕事ができた」
などとやっていたとはとても思えない。
 むしろ、一回一回が自己そのものが揺らぐ
事態であったはずだ。

 何よりも大切なのは、現代思想的曖昧模糊でも
ニューエージ的目キラキラでもなく、
 実際問題として、いかに世の中の事態が
同一性の書きかえを伴って進んでいくか、
それをくもりのない目で見つめることである。

 先日、日本テレビの方と、
セレンディピティのことを話していた時、
 日テレの人気番組『エンタの神様』、
『伊東家の食卓』は、実は最初は全く違った
番組として構成されていた、という
話を聞いて、「へえ〜。でも、やっぱり!」
と思った。
 『エンタの神様』は、最初はタレントが
どこかに出かけて面白いエンターティンメントの
情報を紹介する、という番組だったし、
 『伊東家の食卓』はほのぼのファミリー
エンターティンメントだったというのである。

 それが、いつの間にか「お笑い芸競演」
「裏技紹介」番組になったのは、たまたま
そのようなことをやったコーナーの視聴率が
高かった、評判が良かったということがきっかけで、
 番組自体の同一性が変わってしまった、
ということのようなのである。
 
 これは、「Aを求めていたら、Bを見つけて
しまった」というセレンディピティの定義に
見事に合致する話である。
 そのような番組製作を許容する日本テレビ
という組織は、なかなか素晴らしいのでは
ないかと思う。
 「Aという企画で立ち上げたんだから、
確かに面白そうなBというものも見えて来たけれども、
ここはぜひ一つAを貫いて!」とやっていたら、
人気番組は出来ないのだ。

 これは、別にフランス現代思想を持ち出す
までもなく、アングロサクソン的精神における
経験的事実なのではないか。

 「私」自体が揺らぐ熱い領域のことは、
確かにフランス現代思想が得意としてきた。
 私は、そこに、アングロサクソン流クールさ、
現実に起こっていることを冷静に観察する
科学主義的ロジックを持ち込みたい。
 その間に補助線を引きたい。
 そういうことです、筑摩書房の増田健史さん、
判りましたか。

 今日は、関根崇泰の主催により、
研究室の花見が予定されている。
 上野公園になるようだ。
 うまく雨が上がって欲しいと思う。

4月 4, 2005 at 07:50 午前 |

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