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2005/03/14

うかつな断片

人生が、本来一つのストーリーで
つながるはずもなく、実際にはバラバラの
断片として私の意識に様々なものがうつる。

朝、新聞を取りに行ったが、そこに新聞は
ない。
そうだ、今日は休刊日だったのだ、と気が付く
時、自分はうかつだと思う。

ビフィズス錠を食べようと口に持って
いく途中で落ち、それがテーブルの横の
椅子のアームに当たって、まったく奇跡的な
ことにテーブルに戻った。

この間、きわめて短い時間だったにも
かかわらず、「あーっ、ビフィズス錠が落ちた、
あの方向に落ちたということは、
床に落ちるから、探さなければ
ならない、オレはめんどくさがりだから、
ひょっとしたら探さないかもしれない、
長い間放置されたビフィズス錠は、一体
どうなってしまうのだろうか」
というような思考が流れる。
危機の時、stream of consciousness の中で
時間の流れが遅く感じられるというのは、
まさにこのことだ、と思う。

もっとも、ビフィズス錠の危機だから、
大した危機ではない。

「時間の流れが遅く感じる」というのは、
おそらくは記憶の刻みが細かくなるからで、
後付けの記憶の目盛りが、あたかも時間的に
さかのぼって時間の流れの知覚に影響を
与えるかのような構造をしている。
こんな小さなところにも、意識の科学の
ネタが転がっている。

コンビニに行って、食料と雑誌類などを
買い、また別の店に行って、飲み物を買って、
ふらふら歩いていた。

家に帰って、雑誌類などが入った袋が
そのまま一つなくなっていることに
気が付いた。
記憶の中で、
歩いていた経路を振り返ってみると、
どうも、最初のコンビニに置いてきたとしか
思えない。

面倒だったが、戻ったら案の定あった。

つまり、「手に袋を持っている感触が
ある」ということで
私の認知プロセスは満足してしまって
いて、「二つの袋がなければならない」
ということを認識していなかったのである。
店員さんが袋詰めしている間、私は
あらぬ方を見てぼうっとしていたのであろう。

さかのぼれば、
おつりの千円も損してしまった。
おつりをもらうと何時も私は手にくしゃっと
もって何気なくポケットに突っ込んで歩き出すが、
はっと気が付くと、千円足りなかった。

これは全く私が悪いのであって、
というのも、私の机の上には、小銭が山のように
おいてある。
買い物をするときに、小銭をだすのが面倒で、
どんどん溜まっていくのである。

これはいけない、というので、昨日は小銭を
使うためにコンビニに行ったのだった。

とは言っても、二十数枚くらいだと思うが、
多くのコインを出したため、店員の女の子が
混乱してしまったに違いない。

もはやこれまでなので、
千円札については黙っていた。

その、千円札を間違えた女の子が渡して
くれたはずの雑誌の入った袋を、私は置いて
きてしまった。

なんだか、机の上の小銭から、因果が回って
いったような気がする。

確定申告が面倒でたまらなくて、毎年
締め切りぎりぎりになる、というのも、
因果である。
「必要経費」と言われてもなあ、
とあっちこっちに散逸しているに違いない
領収書を思って、呆然とする。

要するにあたまの中はいつでもぼっとしている
わけで、
例えば今でも港さんが見せてくれた
洞窟の絵のことを考えていたりする。
池上が最近郡司について言っていたことも
考える。

3月 14, 2005 at 06:45 午前 |

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コメント

withcomさま

コメントありがとうございます。
withcomさんは、ひょっとして
武田暁先生
なのでしょうか?

もしそうだとしたら、美濃太田でよろしく
お願いいたします。

投稿: 茂木健一郎 | 2005/03/15 8:32:30

心理学読本を読んでるような 体験の文章だったので そうそうと思ってしまいました
忘れ物を取りに来た人は 忘れたものを手にした瞬間 もっていたものを忘れる 雨の日に網棚に忘れ物が増えるのは 傘に気を取られた瞬間 いつも持っているものを 忘れてしまう などでしょうか 
危機の瞬間 記憶の刻みが細かくなる すごく納得してしまいました 交通事故の瞬間体の状態の判断と今後2年間の治療シュミレーションがさっと出てきたとき びっくりしました
水曜日 小柴さんの粋な計らいでお会いできるようになりました 楽しみにしております

投稿: withcom | 2005/03/14 23:29:31

昔むかし、『すり』という映画で、腕と体に
はさんだ品物を、すりが、後ろからスリ取る
シーンがありました。

すりはスル時に、品物の替わりとなる新聞紙を
相手の小脇に差し込むんですね。
すられた人は、品物を相変わらず小脇に
はさんでいると認知したまま~という
わけです。
すられたのを、全く気がつかない。

すりは優れた心理学者でした。
立ち話しをしている間に、相手の
ズボンのベルトをぬきっとってしまう~
というような、テクニックを映画で
見せてくれました。(と記憶していますが、
だいぶ昔で、あやふやです。)
一応ドラマなんですが…。

投稿: 長谷邦夫 | 2005/03/14 11:29:52

うかつでしたね。
侵食されているのに気づきましたか?
一つの精神ウイルスといえるかもしれません。
ネットワークの弊害です。
つながなければ、汚染されることは、無いんですが、今さらつなげない訳にもいかないでしょうし。

投稿: バターロール | 2005/03/14 9:51:12

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