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2005/02/04

悪貨が良貨を駆逐する

このところ、振り込め詐欺だとか、偽札
だとか、偽造コインだとか、あのような
犯罪の報道がある度に、
 私はいらだち、犯人に対して深い
怒りを覚えていたが、
 他にも破廉恥な犯罪はたくさん
あるのに、なぜそれほど義憤を感じるの
だろうと、自分でもつかめていない
ことがあった。

 それが、今朝、起き抜けにふと
わかった。
 これらの犯罪は、文化において
「悪貨が良貨を駆逐する」
( (C) Thomas Gresham)現象に
似ているような気がするのである。
 このことわざが由来した16世紀の
イギリスの場合は、悪貨を発行していたのは
政府だった。
 ヘンリー八世が銀の含有量を落としたシリング貨を
流通させた結果、人々はそれまでの「良貨」はしまい
こんで、「悪貨」ばかりを使うようになり、
良貨が市場から消えた。
 良貨と悪貨が共存すると、悪貨に良貨は
駆逐されるのである。

 文化においては、悪貨と良貨は、ある
作品を生み出すことがどれくらい困難か、
というコストに相当する。
 苦労して生み出した「価値」のある
作品と、そんなに苦労しないで生み出す
そんなに価値のない作品が、市場において
同じ評価を受ければ、どうしても創造者
は悪貨製造に走ることになる。

 早い話が、未だ言語化されていない
何かを掴もうとした実験的な作品よりも、
ストーリーの都合に合わせて人を殺すことで
成り立つ作品を量産する
「人殺しで生きている」((C)斎藤美奈子)
ミステリー作家の方が実入りがよければ、
ご都合主義のミステリーという悪貨が
実験的な作品という良貨を駆逐する。

(別に、全てのミステリー作品が悪貨だと
言っているのではない。ホームズや
ポアロを夢中になって読んだこともある。
現代の作品だって、
中には良いものもあるだろう。
しかし、
「ミステリー」というジャンルをまずは立て、
こういうプロットにしよう、だから
まずここでコイツを殺させなくっちゃとか、
このトリックは新趣向だとか、それを
またおもしろがってマニア的に
評論するとか、その類
の頭の働かせ方がイヤなのである)

 誰でも、自分の利益を図りたいとは思う。
私だって、自分が利益を得たいという
気持はある。しかし、それはあくまでも、自分が
利益を得るきっかけになったことが、
社会にとっても利益になるという
前提があってのことである。
 そのためには、元手をかけなければならない。
 困難なことをやるしかないのである。

 現代社会、悪貨のやりとりがあまりにも
多くないか。
 本当の意味での元手が掛かっていない、
オキラクな悪貨のやりとりが。

 有志よ、良貨同盟をつくりませんか。
 Thomas Greshamの進言で、時のエリザベス一世は
通貨政策を変え、銀の純度の高いシリング貨を
流通させるようになり、イギリスのシリング貨は、
ヨーロッパでもっとも希求される通貨になった
という。

 良貨こそが、長期にわたる反映の礎なのである。
 悪貨がはびこる日本は、そのうち繁栄もせず、
尊敬もされない国になってしまうのではないか。
 ヘンリー八世になるより、エリザベス一世に
なるほうがきっと良い。

2月 4, 2005 at 06:46 午前 |

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受信: 2005/02/08 15:21:32

コメント

こんばんは 茂木サン
5年半前の茂木サン のブログ拝見。
「悪貨、良貨について」
茂木サンの ハッキリしたコメント また新たな発見です。
楽な様に 苦労をしない、簡単に作る 誰のためを優先するの?

一瞬はよく見えても
やはり本物、本者はわかります。

いいものは 長続きしますから、比べるまて゛もない。
どうぞ 番組での質を 高めて 後世に見られる番組や ご本を 残して頂きたい!
残していきましょう!

投稿: サラリン | 2009/12/02 23:48:42

故筑紫哲也さんの「若者考現学」という著書にこの「悪貨が・・」が出てきますね。テレビ番組の視聴率至上主義・俗悪化を批判しつつ使っているようです。制作者達は視聴者に媚び、視聴者も、こんなくだらない番組・・と思いつつ内心では見たいという気持ちも否定できない。互いに軽蔑しながらも、もたれあってテレビ文化を現在のようなすがたにしている、とかなりきびしく述べています。

投稿: リディア | 2009/12/01 18:24:08

自己利益を追求する本能は
「悪貨良貨を駆逐する」原因であり、それは
「低きに流れる」
ということわざと似ているように思います。

結局のところ
「人間は特別な場合を除いて、自己利益を追求する」
これにつきますね。
資本主義はそれを利用した制度であり、結果、世界の人工物化を早めている・・・

人間は、本能的に、「永久機関として稼働する、保育器の中で楽に生きたい」という願望を持っている。なぜなら、基本的には、疲れたら、嫌な感じがするように出来ている。そうでないものたちは、早くに死んでしまう事が多かったから。

逆に、「なにものにもとらわれず、自由でありたい」という願望もある。なぜなら、何かにとらわれていた者は、早くに死んでしまった事が多かったから。

何ものにもとらわれたくないという脳の本能は、コンピュータという形で、人間の身体の外界に飛び出した。いつか、人間より効率のいい、ロボットが出来上がったら、人間は生存競争に敗れるだろうか。その、新しい人間の子供は、良貨を求めるように出来ているだろうか。

投稿: 倉本 | 2005/02/06 0:14:28

すみません。こういうのを書くのが初めてなものでURLというのを勘違いしてました。ネット一年生です。今度は大丈夫かと思います。


シリングと言えば、ヴァージニア・ウルフさんの「three guineas」という著作を思い出しました。guineaという意味を知らずに読んだのが良かったかと思います。極めて女性的視点ですが、日本にはあまりない視点かと思いました。(余談で失礼します)


投稿: したした | 2005/02/05 16:05:35

したした様、nomad 様コメントありがとうございます。
したした様、なぜかトラックバックが失敗します!

Tobin Tax Initiativeのホームページなど
見ました。
Currency speculatorsには私はあまり同情しないから、彼らのtransactionからなにがしかの金が
good causesに向かうのは、賛成です。

投稿: 茂木健一郎 | 2005/02/05 11:03:32

僕もおよばずながら良貨製造に努めていますが、残念ながらほんとうに良貨は流通しませんね(苦笑)

投稿: nomad | 2005/02/05 0:59:56

トービン税というのをフランス政府が導入したのをご存知ですか。お金の美しいあり方を巡って参考になればと。
http://kattac.talktank.net/sections/tobintax/

プラクティカルでふにゃふにゃで美しい第三者的ボクシング 楽しく覗き見させてもらっています


投稿: したした | 2005/02/04 18:42:56

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