10年ぶりのヘアカット
渋谷慶一郎さんが音環境をプロデュースした
代官山のヘアサロン、SUPERSTARSのオーナーの佐藤民生さんから
メールをいただいたのは、1月10日だった。
リアルタイムで髪の毛を切る音や、会話を拾って、
音環境を生成するのだという。
http://www.atak.jp/work/installations.html
今度中野敬久さん
の写真で、本をつくる、そこに評論を書いてください
というのである。
他ならぬ渋谷さん関係だし、とてつもなく
面白そうだから、もちろんいいですよ、とお返事した。
そうしたら、佐藤さんから、「茂木さんさえ
良ければ、髪を切りSUPERSTARSを体験してい
ただきたい」というメールが来たので、
うーむ、私は思わずうなった。
ついにその日が来たのである。
あれは、1995年の10月、イギリス留学
中のことだった。
ロンドンのキプロス島出身の兄弟がやっている店で
切ったのが最後、髪の毛が伸びたので、
そろそろ切らなくちゃ、と思ったけど、
店に行くのが面倒だった。それで、えいやっ、
と下宿の部屋で自分で切ってしまったのである。
それまで、髪は他人に切ってしまうものだと
思っていた。初めて自分の髪にハサミを入れた時の、
イケナイことをやっているような後ろめたさは、
忘れられない。
それ以来10年、私は自分で髪の毛を切ってきた。
ちょっと伸びてきたな、と思ったら、風呂場に行き、
鏡を見ながら、ジョキジョキと切ってしまう。
後ろの毛は見えないけれど、手を伸ばして、
感触で切ってしまう。
それから髪の毛を洗う。所要10分。
もじゃもじゃになるが、それでも何とかなって
きた。
それが、ついに自分の髪に他人の手が入るという
のである。
2005年2月22日午後7時30分、
私は祈るような気持で、
代官山の店の前に立った。
ホワイトキューブの美しい店で、ただ
SUPERSTARSとある。
スライドドアを開けると、そこに佐藤さんが
立っていて、「はじめまして」と言った。
それからの2時間の体験は、私の今までの
ヘアカットの体験の全てをくつがえす
ようなものだったが、
そのことについては、佐藤さんの本の評論で
いずれ書きたいと思う。
私が驚いたのは、ヘアカットの
技術革新である。
佐藤さんの奥さんの朝子さんがメインの
スタイリストで、微妙なハサミさばきをする。
髪の毛を適量つまんで、
それが落ちてくるときに、ハサミをやや
拡げたまま、内側から外側にスライドさせながら
切る。
それを何度も何度も繰り返す。
ウサギがやさしくハムハムと
髪の毛を食べてくれているかのようである。
これは一体何なのだろう、と思った。
途中で、「しばらく目をつぶっていてください」
と言われた。
前髪を切るのである。
目を閉じて、渋谷さんのサウンドを聴いていたら、
椅子を90度ずつ回されて、違う頭の面が
鏡を向いているのが判った。
再び顔が正面を向いて、目を開けたとき、
そこには知らない髪型の人が映っていた。
びっくりして、「これはなんですか」
と朝子さんに聞いたら、
「ドライカット」というものだという。
短い髪の毛は、長い髪の毛を支えて、浮き上がらせ、
形をつくる。
つまりはそのような構造をいたるところに造って、
スタイルをつくるのである。
つまり、髪の毛の彫刻なのである。
それでわかった。街を歩いていて、「今風の髪型
だな」と思わせる人に会うことがあるが、
その「今風」がドライカットだったのだ。
そう気が付けば、ドライかそうでないか、
区別が付くような気がする。
SUPERSTARSの近くの「遊泳禁止」と書かれた
居酒屋で、佐藤さんの話を聞く。
あまりにも面白いので、ガクゼンとした。
SUPERSTARS、おそるべし。
4人のスタッフもあとから
きて、佐藤さんとの掛け合いがまた面白かった。
知らぬが仏とは、まさにこのことである。
自分でドライカットはできそうもない。
人生の悩みがまた一つ増えた。
2月 23, 2005 at 08:50 午前 | Permalink
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コメント
アサコさん上手ですよね。伸びてきてさらにいい感じになるカットだと思います。
投稿: fujii | 2005/02/24 22:30:49
写真きぼん。はげしくきぼん
投稿: nomad | 2005/02/23 23:28:02
ど、どんな髪型になったのだろう?
み、見てみたい。今年一番の見てみたいものだ。
投稿: Yuri | 2005/02/23 16:20:33