断絶論
変な時間に眠るので、変な時間に目が覚める。
イシガキチョウが目の前を飛んだ。
ほら、あそこに珍しい
蝶がいる、と一生懸命叫ぶのだが、
周囲の人は何の反応もしない。
断絶ということを知らないんだな、
とあきれて目が覚めた。
現代はスカでも、そのスカの現代を
抱きしめて生きようと思っていたが、
その決意も最近にぶってきた。
このところ、朝、NHK FMを
聴くのが習慣になっているのだが、
そこで流れる音楽に、時々とてつもなく
すばらしいものがある。
自分で選んだ曲ではなく、他人が
選んで曲を聴くというのは何とも言えない
セレンディピティである。
そんな中、中世イギリスのJohn Dowlandの
リュート歌曲なども知ってCDを買った。
Flow my tearsも好きだが、
Come againの方がもっといい。
バッハのマタイもたまたま流れて聴いたら、
自分で聴くのとはまた違った味わいがあった。
こんな怪物みたいなものが、
初演からメンデルスゾーンによる再演まで、
100年も放って置かれたなんてもったいない。
そんなこんなでいろいろ古い音楽を
聴いていたら、
別に無理してスカの現代に合わせること
はねえや、という気分になってきた。
犯罪者の異常な心理とか、
ティーンエージャーの心の揺れとか、
そんなもんを読まなくても別にいいや、
という気がする。
立ち現れる人間の姿がマタイとは
だいぶ違うのである。
現代人は、鏡に映る自分の姿をよくみたら
どうか。
同時代のものばかり見ていると近視眼になる。
一体、長い歴史の中で現れてきた
様々なものたちの中で、
コンテンポラリーなものは、どんなニュアンスを
もってそこに立っているのか。
むろん現代にも良いものがあるから、
それにはちゃんと向き合った方が良い。
人気商売の中でちやほやされているものには
ロクなものがない。
人気があるものが現代人の等身大の像だと
すれば、
鏡をじっくり見た後でたたき割ってしまったら
どうか。
そんなことを考えていたら、イシガキチョウが
何を象徴しているのか、判った。
断絶のむこうにあるものこそを思いたい。
それにしても咳が出る。
2月 11, 2005 at 05:15 午前 | Permalink
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コメント
monotangさま
書き込みありがとうございます。
あの頃の曲にあらわれている人間観に
共鳴します。おっしゃるとおり、あれこそ
究極の「癒し系」ですよね。
投稿: 茂木健一郎 | 2005/02/16 8:23:04
茂木さま。いつも愛読させてもらっております。
「Come Again」、いいですよね。
ダウランド時代の英語のもつ「澄んだパワー」は、リュートの響きとホント、よくあいます。
流行りのヘンな「癒し系」の音楽ではまったく癒されず、
心が痛くなる私にとって、ダウランドやバードは宝です。では。
投稿: nonotang | 2005/02/15 16:22:46
クオリア日記で初めて知るアーティストも非常に多いです。John Dowlandもそうです。
これもセレンディピティですね。
Amazonですぐに買えるのが嬉しいです。
#「イシガキチョウ」を知らなかったのでGoogleでイメージ検索してみました。
http://images.google.com/images?q=%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%82%AC%E3%82%AD%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6&hl=ja&lr=&c2coff=1&sa=N&tab=wi
投稿: しん | 2005/02/11 18:13:37