キスはいくらですか?
俺が一人でカウンターに座っていると、
老人がドアを開けて入ってきた。
俺の背中にあるテーブルに座る。
若い女が、老人に歩み寄った。
老人は、何やらもごもごと言ったあと、
ためらうように、
「あのう、キスはいくらですか?」
と聞いた。
若い女は、少し恥ずかしそうに、
「キスは90円です」と答えた。
老人は、きっぱりと、「キスをください」
と言った。
若い女は、うなづくと、「お好みで
キスです」と言いながら奥に入っていった。
しばらくして、若い女が老人のテーブルに
歩み寄って、何かを置く音がした。
女が去ろうとすると、老人はすがるように、
「あのう、キスはまだですか」と聞いた。
女は、なだめるように、
「今すぐですから、しばらくお待ちください」
と言った。
後ろを振り返ると、上品な顔をした
老人が、
何やら期待に顔を紅潮させて座っている。
少年のような純粋さを
感じさせる人である。
これから何が起きるのか、最後まで
見届けたかった。
しかし、残念。俺はもう
自分の天丼を食べ終わってしまっていた。
気が付けば、老人のテーブルにも
すでに天丼が置かれている。
石津君の修論審査の後の昼下がりに入った、
早稲田駅近くの「てんや」
での出来事である。
2月 1, 2005 at 06:57 午前 | Permalink
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コメント
とろさん、座布団とレポートありがとう。
投稿: 茂木健一郎 | 2005/02/02 6:52:58
タイトルでもしや、と思いました。
てんやの常連であるわたくしには、「90円」でネタばれです。
わたくしも単品追加をよくします。
投稿: いもと | 2005/02/01 9:17:10
もぎ平に座布団3枚!
投稿: とろ | 2005/02/01 8:15:59