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2004/11/16

思い出した魂の危機

MXテレビの西野淳一さんは、最終の
絵の仕上がりが頭にあって演出するヒトらしく、
 田谷や柳川、張さんと実験の議論をしている
風景を、いろいろ注文しながら撮影していった。

 『ガリレオチャンネル』
という番組。12月? に放送されるらしい。

 ゼミの風景も撮影して行ったが、
ゲーム理論を巡って、私と関根、田谷、恩蔵の
間に大激論が起こったので、
みんな撮影のことはすっかり忘れてしまった(笑)。
 別に演技でも何でもなかったのだが、
最初に突っかかってきた関根くんには、
アカデミー怪演男優賞を差し上げましょう。

 しかし編集で激論場面が残るかどうかは
わからない。
 水曜日には、再びインタビューの撮影あり。

 午後は、アメリカのロチェスター大学の
Daphne BavelierとAlexandre Pouget が
来てtalkしてくれた。

  Daphne Bavelierは、ビデオ・ゲームを
やると視覚的能力が上がるという論文を
しばらく前にNatureに発表した人で、
 話が、一貫してビデオ・ゲームがいかに
能力を鍛えるか、という話だったので、
 私は日本の「ゲーム脳」というヨタ話を
思い出してにやにやしてしまった。

 ポイントは、視野の中に同時に複数の
動くターゲットがある、という点にあるらしく、
 テトリスのような一つのピースが動く
だけのものよりも、状況が時々刻々と変化し、
敵が沢山現れる、アクション・ゲームの方が
有効らしい。

 General Intelligence(IQ)については
どうなんだ、と聞いたら、「ゲームをやる
ことと、IQの間には正の相関がある」と
またも自信たっぷりの答。
 またもや、どこかの国の「ゲーム脳」の
おっさんに聞かせてあげたいなあ、と思った。

 先進諸国の人々の知能指数が、年とともに
上昇して行くという「Flynn効果」というのが
あるが、このFlynn効果は、コンピュータなどの
情報機器の登場によって、人々がより多くの情報を
高速に処理するようになった、ということで
説明できる、というのがDaphneの説。

 説の当否は別として、コンピュータや
ビデオ・ゲームのような新しい情報環境を、
やれゲーム脳だ何だと「後ろ向き」にとらえる
日本のおっさんたちのメンタリティと、そこに
未来がある、と「前向き」にとらえるアメリカ
の精神風土の違いが、Daphneの研究にも
現れているように思った。

 Alexの話は、典型的なベイズ推計の神経回路網
モデルの話。
 私はケンブリッジにいる時この手の話は
さんざん聞いたから慣れているが、
 初めて聞く学生たちは、とまどい(と怒り?)
を感じたかもしれない。

 クオリアの問題を考えていたケンブリッジ時代、
ベイズ推計一派は私にとってはマイクロソフトの
ような巨大な敵で、
 しかもボスのHorace Barlowがその手の理論の
創始者と来ていた。
 周囲には、David Mackayや、John Robson,
Dan Rudermanらの、ベイズ一派の強者
たちがいた。
 
 Horaceは、私がクオリアの議論を吹っかけても
受けてくれる幅の広さを持っていたが、
 あとの人たちはがちがちで、ベイズに対する
異論反論オブジェクションは受け付けません!
という感じだった。

 昨日のゼミで、
 学生たちはAlexに突っかかっていたが、
 その様子を見ていて、
ケンブリッジ時代の私の孤立無援ぶりを
思い出してしまった。

 なにしろ、ケンブリッジ時代のセミナー参加者の
ほとんどが、ベイズ的手法ばんざいの人たち
だったのだから、大変だった。
 ノイズがあって、そこからシグナルを
どれくらい効率的に検出できるか。
 エンコーディングとディコーディング。
 なんてつまらない話だ、と思いながら、
こっちはまだクオリアについて有効な
(彼らでも使えるようなツール)を開発
していないのだから、
 効果的な反撃をうてなかった。

 ある夜、家までの暗い道を歩きながら、 
このままではオレはつぶされてしまう、
と本気で落ち込んだこともある。
 あの頃の私は、一つの魂の危機
(Spiritual Emergency)を迎えて
いたのかもしれない。

 ベイズ一派の自信は、相変わらず大した
ものである。
 昨日も、Alexはあたかも脳の本質はベイズ
推計にあり、とでも言わんばかりの話し振り
だった。
 しかし、暗いところで鍵を落としたのに、
見えないからと明かりの下を探しているような
話だなあ。

 ベイズ教の人にある種のことを言っても
暖簾に腕押しだということは、長い間の
苦い経験で良く知っている。

 最近は、単純に割り切って、ベイズ一派が
何を仮定して、何を説明しようとしているのかを
冷静に見るようにしている。
 彼らが説明できることもあるし、説明できない
こともあるだろう。
 一つだけはっきりしているのは、
ベイズ一派の使う数学がセクシーではないという
ことだ。
 
 しかし、お前の言っていることはセクシーでは
ない、というのは科学の議論ではないから、
 私はあくまでも前提、仮説、論証という
枠内で議論していた。

 Alexに突っかかっていた勇者どもに、
どれくらい私の気持ちが通じたかは判らない。
 しかし、突っかからないよりも突っかかった
方がいい。

 人、生まれた上には、時にはイノシシたるべし。 

11月 16, 2004 at 05:57 午前 |

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コメント

はじめまして。hornedと申します。
実は私も最近ちょっとした「魂の危機」を経験しました。
その時の模様を日記に書いていってる最中ですが
よろしかったらご覧ください。
http://www.horned.org/birth_log/">http://www.horned.org/birth_log/
よろしくお願いします。

投稿: horned | 2004/11/18 5:58:50

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