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2004/11/14

悔い改めた

近所にある、肉屋のとなりの
八百屋のおじさんは、
例外的に野菜とか果物に詳しいのだと
ばかり思っていた。


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 家の近くに八百屋さんがあって、時々
買いにいく。
 おじさんがおしゃべりな人で、いろいろな
ことを教えてくれる。

 この時期はきゃべつはどこから入って
くるとか、
 梨は今まではどこから来ていたけど、
これからはどこから来るとか、
 こういう寒い日には、何となくみんな
値段が高くてもネギを買っていくものだから、
 多めに仕入れていくとか。
 素人にはとても想像できないような、
細やかな配慮がそこにある。
>>>
(クオリア日記
2004年10月30日分より)

 昨日、スーパーの近くにある別の八百屋さんで、
梨と柿を買おうと思って、
 おばさんと会話を交わした。

 「そこのでかい梨はなんですか?」
 「こっちがナントカで、こっちがナントカ」

どちらも知らない名前である。

 「ナントカの方はこんなにでかいでしょ。
こっちのナントカは、しゃりしゃり感がありますよ。
もちろん甘いことは甘いです。」
 手前にあったナントカの方を買った。

 「硬い柿がいいんですけど。」
と言うと、即座に、
 「それじゃあ富有柿ですね」
と、きれいに光る柿をすすめてくれた。

 八百屋から歩きはじめて、私は何だか
内心に強い衝撃を受けていることに気がついた。
 しまったあ!
という感じだった。

 God, have mercy on my soul!

 考えてみれば、相手は専門家なんだから、
その会話からいろいろ学ぶことがある
のは当然じゃないか。
 いくら科学技術が発達したって、食べ物の
質が産地や天候で影響されることは当たり前だ。
 それを目配りして目利きして良いものをとどける
ことが、専門性でなくて何であろう。

 ところが、現代の私たちはどうだ。
 スーパーやコンビニで、どこから来たのか
わかりもしないもんを、ちらっと見て、ぽいと
カゴに入れて買っている。 
 「あっ、柿か、こんな形でこんなもんだったら
いいだろう」
と買ってきて、
 包丁で適当に切って、「柿なんてこんな
もんだよね」と気にも留めずに食っている。

 それならまだいい。乳化剤保存剤たっぷりの
ヨーグルトに、「何てったってコスト・ダウン
ですからね。この程度入れとけば、消費者も
文句は言わないでしょ」などという大企業の
企画会議で規格が決められた、
舌の上でつぶすとあっという間に
溶けてなくなるようなセコさでスライスされた
フルーツを食って、「ああ、これは確かに柿だね。
これは確かにみかんのかけらだ。おっ、これは
メロンかな。ああ、規格化製品。いつも同じ味。
まろは満足じゃ」などとつぶやいて、
 人工化された食いもんの世界を生きている。

 スーパーやコンビニのジャスト・イン・タイム
や、エブリー・デイ・ロープライスなどという
惹句に踊らされ、「開いててよかった」などと
ほざいている。

 その間、八百屋のおじさんやおばさんは、
店の前を通り過ぎ、
コンビニやスーパーに入って「あっ、これは
りんごか。これはみかんか」などと思考停止して
買い物をしていく私たちを眺めながら、どんなに
寂しい思いをしていたことだろう。
 
 何がITだよ。何がネット上の仮想商店街
だ。
 ふざけんるんじゃねえ。

 偽物の情報概念に踊らされている間に、
おれたちは何だかとても大切なものを失いつつ
ありはしないか。

 オレは悔い改めた。

11月 14, 2004 at 06:53 午前 |

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センエツながら、最近、私も同じような体験をしたのでトラバさせていただきます。私は、割と頑固で自分の行動が正しいと.... [続きを読む]

受信: 2004/11/21 5:54:06

コメント

初めて投稿いたしますHDYKです,よろしくお願いいたします.
ほぼ毎日,茂木さんの日記を楽しみに拝見いたしております.

コアは違うかもしれませんが,自分も上記に関して思うところがあったので,キーを打ちました.

最近の健康ブーム(ブーム?)がまさにだと思います.
ここ数年,健康産業(産業?)が拡大しているようで,コンビにでもにがりや豆乳(豆腐セット)を販売するようになっています.
というのも,マスコミが「健康に良い!」と言った結果,消費が拡大してしまったからです.
マスコミで操作された情報に異様とも思える恐怖感を抱き,あわててスーパーに駆け込むという無臭の悲劇が毎日のように演じられております.
(現に,某昼12時からの番組で紹介されたものは,その日の売れ行き好調だとか)

ダイエットやら健康維持やら様々な希望を持ちながら,何の疑問を持たずに「テレビで健康に良いって言ってたから・・・」とか言いながら,アミノ酸(飲料,粉末・・・)を摂取している方々が不思議でしょうがありません.
「何が黒酢だ!何がグルタミン酸だ!」と思います.

でも,ただそういった方々でも品質や味に関しての意識はお持ちのようで,テレビで甘いみかんの見分け方とか安くてうまい店といった一様に発表される情報を必死にかき集めています.
話が脱線してしまいましたが,そのうち柿は皆一様に柿A,柿B,柿C・・・という認識が定着してしまうのでしょうか

投稿: 次郎柿派のHDYK | 2004/11/15 19:47:12

はじめまして  岐阜の富有柿の産地のwithcom です
お昼にちょうど富有柿をちぎってる時に この文面をみました 思わずそのとおりですと思いメールさせていただきました
富有柿は、柿の中でも糖度が高く、大きいので柿の代表品種です
私も、こちらに嫁ぐまで柿なんて同じだと思ってました
しかしこちらに来てのカルチャーショックは 大阪で家一軒立つ20坪の敷地に柿の木2本 家3千万だから この柿は一個 いくらになるんだーと考えたほどでした
(20坪の家に縛られてた今まではなんだったんだーと)
確かに、こちらでも柿名人の品はおいしいですよ

さて、趣味でグライダーで空を飛んでいますが 人間の脳には
3次元X,Y,Zの空間認識は本能としてあるのでしょうか
訓練で身につくものなのか、本能が目覚めるのか どうなんでしょうか

投稿: withcom | 2004/11/14 22:17:40

そういえば、20年ほど前の西武百貨店の社長の山崎さんはデパートの食品部の鮮魚などの仕入れからのたたきあげの人で、デパートの食品部は今でこそデパチカなんて言って、脚光を浴びるようになったけど、その先駆者となったのは西武の食品館で、生鮮品という当時デパートでは扱っていなかったものを積極的に扱うようになった。

生鮮品には、季節や流通や、商品知識や接客など全てのものが要求されるので、大切だし、私のいた店舗業務ではない本部企画の人たちが中元、年末の繁忙期になるとお中元売り場の店舗応援にいかされたりするのも(当時は面倒だなぁと思っていたけど)お客様と直にふれる機会をもたせる意味があったのだと今になって思った。

投稿: Yurik | 2004/11/14 13:55:28

 茂木さんの文章を読んであれこれ思い出しました。

 駅前に古い昔からの文房具やがありました。
普段は通り過ぎていたのですが、
ふと、装飾用のリボンを買おうと思いついて、中にはいりました。
 お店の中は、シーンとして、品物も眠ってるようでした。
「あるかなあ?」 心配な感じがしてお店の人に声をかけ、
二色のうちからありきたりのピンクのリボンを選びました。
 レジで支払うとき、聞き間違えたのでしょう、
7円のところを1円と思い、おさいふからお金を取り出しました。
「あれっ」としたお店の人の様子で、こっちも「あれっ」となって、
お互いにわかり、「あら、まちがえちゃったわね。」と場がほぐれ、またおさいふをあけました。
 わたしはこの話はこれで終わりと思っていました。
そしたら、おつりを返すときに、
「言葉が伝わらなくて、値段がわからなくてどうもすいませんでした。」というようなことを、ていねいに
物腰やさしく言われたのです。
思いがけなくて、胸になにか感じるものがありました。
そのお店の人は、60代後半のすらっとした女性でした。
 店を出て歩きながら、
彼女の姿勢が伝わってきたんだなと思いました。
わたしに話したよう、お客さんひとりひとりに接してきたのだと思いました。
彼女が長年営んできただろう文房具屋の歴史を感じました。
 子供たちもこういうところで、えんぴつやらノートやら
買い物をしてたら、またなにか違うのだろうなあ
と思ったひとときでした。

 とりとめもなく書いてしまいました。

投稿: さくら | 2004/11/14 12:12:20

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